深夜三時のナナシの晩メシ
卒業間近の冬、隈を濃くして痩せていく親友ナナシは「今日、全部終わらせる」と笑った。深夜三時、四つん這いの女に追われて駆けつけた家の台所には、湯気を立てる茶碗が三…
卒業間近の冬、隈を濃くして痩せていく親友ナナシは「今日、全部終わらせる」と笑った。深夜三時、四つん這いの女に追われて駆けつけた家の台所には、湯気を立てる茶碗が三…
就職を控えた二十歳の夜、最終列車の窓から霊園を進む提灯の行列が見えた。好奇心で近づいた僕を追う集団から救ってくれたのは、疎遠になった親友ナナシの背中だった。翌日…
隣の家の門柱には、庇の下だけ雨のかからない場所があり、そこに青いチョークの丸が三つ残っていました。その子がいなくなった翌年から、丸は毎年ひとつずつ増えました。十…
オカルトブームに沸いた二学期、同級生ヤナギの家の地下室には曰く付きの珍品が並んでいた。中でも一体の目の合わない人形は、どの角度から見ても僕ではなくナナシを見つめ…
学校を休んだナナシの見舞いに、三月の放課後、僕とアキヤマさんは古い日本家屋を訪ねた。呼び鈴は鳴らず、出てきた女の人の足袋は濡れていた。部屋のコルクボードの写真に…
宮上荘では、清掃のカートを廊下の曲がり角の内側に停める決まりでした。理由は誰も言いません。深夜の三階で角が一つ足りなくなり、異世界に迷い込んだのかと思った私に、…
新潟の雪深い集落には、隣り合う家の押入れの奥に板戸を切っておく決まりがありました。戸は二度叩き、返事があってから開ける。誕生日の写真に写り込んだ青白い女の顔を拝…
帰り道にある新築の家。二階のベランダで家族全員が別々の方向を向いて体育座りをしていました。屋根に小石を投げた瞬間、六人と犬がいっせいに正座に変わる。門柱にシーサ…
教会の息子だった頃、ホームヘルパーの田中さんに頼まれて訪ねた古い県営マンション。501号室の老人が、突然、五十代の男の声で話し出しました。エレベーターの異変、駐…
田んぼの真ん中にある水神様の祠は、子どもが近づいてはいけない場所でした。夏の晩に幼馴染と入り込むと、空の色が変わり、生い茂っていたはずの草が一本もなくなっていた…
夜勤で内科外来へ紙の記録を取りに行くと、入ったときには無かったはずの白いラベルのカルテが床に落ちていました。うちの病院で白はどの区分にも使われていない色です。棚…
地方の城下町のスナックで、霊媒体質のホステスが突然、江戸の馬子のような男の言葉で話し出した。時を隔てた憑依が起きた夜、霧のなかで彼女を見たのは馬だけだった。前掛…
ゴールデンウィークにお茶工場を手伝いに帰った田舎で、小五の従妹が言った。学校の渡り廊下に、おごめご様が出る。それは俺が通った頃、墓石だと噂された黒い岩のことだっ…
島根の山あいの奥垣内では、神社の鳥居の前だけは遊んではいけないと決まっていました。だるまさんがころんだの三回目、振り返ると列のいちばん後ろにいた子が消えている。…
幼稚園の頃、母に起こされて毎週通った夜のセミナー。暗室の映像、銀はがし、立入禁止の札の先の廊下に並ぶ名前の札。突き当たりのドアには私の名前があり、ドアノブが一斉…
二月、真面目な後輩が二日続けて無断欠勤した。机の引き出しから出てきたのは、賑わうスーパーの前でピースをする、半袖の写真だった。周りの客は全員コートを着ている。二…
運送会社の空き家倉庫で、二階には上がるなと言われた忠告を破ってしまった夜。階段を後ろ向きに昇った友人は、奥の部屋で、さしあげますから、と繰り返し呟いていた。入院…
古い民宿の共同便所で、真夜中に閉じ込められました。戸の向こうで誰かがぼそぼそと呟き、これは聞いてはいけないと直感しました。廊下の三枚の板だけが張り替えられていて…
小樽の坂の途中の細い路地で、背の高い女の人に道を訊かれました。その人が口にしたのは、当時私が住んでいたアパートの住所でした。部屋番号まで合っていたのです。知りま…
親の実家がある山奥の集落には、山に住む神様を信じる土着信仰があった。大学のレポートでヤマガミ様の存在を否定するつもりだった俺は、七軒の聞き込みと一冊の帳面を手に…
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