欠席の印を押した覚えはない
湾岸の団地で検針の仕事を始めた春、前任者の名前を誰も思い出せなかった。回覧板で欠席の印が押された部屋は、翌月には空き室になっている。引き継ぎ書に残されていたのは…
最初は意味がわからない。でも意味が分かった瞬間、背筋に冷たいものが走る——意味がわかると怖い話(意味怖)をまとめました。考えながら読むホラーをどうぞ。
湾岸の団地で検針の仕事を始めた春、前任者の名前を誰も思い出せなかった。回覧板で欠席の印が押された部屋は、翌月には空き室になっている。引き継ぎ書に残されていたのは…
河川課の私が月に一度閉める水門の祠には、内向きの注連縄が張られていた。戸の裏には五本一組の筋が並び、閉めた二十分後に一本増えていた。先輩が言った「そのまま帰るこ…
信用金庫で働く私の自宅に、席替えアンケートと書かれた切手のない封書が届いた。隣席の主任の名前を書いて返送した後、札を神社の杉に打つよう指示される。その夜の録音に…
渇水で干上がった川底の測量中、レベルの望遠鏡にだけ、対岸に立つ標尺の人が映った。肉眼では誰もいない。測るたびに縮む川幅、乾いた土に残った濡れた足跡。その人が立て…
国道沿いの中古スマホ買取店には、触ってはいけない預かり棚があった。一番端の端末だけが、いつも少し温かい。ある夜、防犯カメラの映像に、とっくに退勤したはずの私が映…
病院の売店で、月末の17時40分に台へ出される代わりの湯呑みは、閉店までに熱湯が冷え、翌朝きまって割れていた。入社初日に搬入口で返事をしてしまった私は、店長が去…
去年の11月、県の北端にある神無の谷へ古書の出張買取に入った。奥座敷へ通される前に、この部屋では人の名を呼ばないでくださいと言われた。祠の土台にあった桐の名箱は…
深夜2時57分から3時までの三分間は、番組表の上では何も入っていません。コミュニティFMの当直に入った私は、その三分の確認用録音にだけ低い声が入っていることに気…
洲影の郵便局の裏には、配らない葉書を入れる留め置き棚がある。入るのは消印の日付が翌日になっている葉書だけで、切手は貼られていない。宛名はいつも浜通りの十一軒。先…
ロープアクセスの現場で、ロープは二本と決まっている。それなのに上で私を見ている相方だけが、代わる代わる三本目のロープを見たと言って現場を離れていった。私には一度…
向渡へ渡る短い橋が架け替えになり、看板屋の私は親柱の写しを引き受けた。石の欠けまで写せたのに、根元のもやい輪だけが新しい柱に付かなかった。工房に預かった輪には、…
湾岸の物流倉庫の四階、E通路の突き当たりに、床を四角く抜いて据えられた丸い石がある。動かせなかったのだと先輩は言い、その前では決して口をきかなかった。ある晩、私…
国道沿いのリユース店の奥に、白い値札のついた41点が並んでいた。金も銀も時計も、値のつかない品などない店で、その棚だけが例外だった。先代が守り続けた決まりを、私…
昭和五十七年、国鉄の保線区で私が受け持った十四キロには用地境界の柵があり、その外側だけ草が伸びなかった怖い話。刈る者はいない。境界杭の外に残る内向きの素足の跡と…
平成六年の秋、山陰の港町で私は拓本を採っていた。堂の壁には墨を二百年重ねた黒い板があり、堂守は拓本だけはいかんと言う。その禁を破った夜の怖い話。紙に白く抜けて出…
二百年続いた変化朝顔の選抜を代行した夏の怖い話。平成八年、遠州の旧家では毎年数百株を蒔き、一株だけを残して残りを畑の隅の捨て地に返していた。抜くときは一声かける…
平成八年の秋、越後の谷にある十一戸の在で、私はどの家の薬箱の底にも同じ白い包みを見つけた。開けた者は八十年ひとりもいないという。分析のため一つ持ち帰ると、包みは…
買い取った蔵書から抜いたはずの古書の紙片が、翌朝また同じ頁に挟まっている。鉛筆の数字は、私が抜いた回数と同じだけ減っていった。四分遅れの柱時計と、いないはずの人…
神田の古書店に、同じ一冊が三度持ち込まれた。臙脂の布装、貼られた貸出票、十七の罫のうち十三の行だけが白い。借りた覚えのない本の、その行に自分の字があった日から、…
平成十二年の冬、奥会津の在に預けられた十四歳の私は、雪が積もらない湯屋の跡へ連れて行かれた。傷を引き取る湯にまつわる怖い話。叔父が足を負い従兄弟と二人で残った晩…
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