欠席の印を押した覚えはない
湾岸の団地で検針の仕事を始めた春、前任者の名前を誰も思い出せなかった。回覧板で欠席の印が押された部屋は、翌月には空き室になっている。引き継ぎ書に残されていたのは…
続きを読む:欠席の印を押した覚えはない湾岸の団地で検針の仕事を始めた春、前任者の名前を誰も思い出せなかった。回覧板で欠席の印が押された部屋は、翌月には空き室になっている。引き継ぎ書に残されていたのは…
続きを読む:欠席の印を押した覚えはない朝五時の北町ポートで、自転車の前輪だけがまだゆっくり回っていた。管理画面には、無人の乗車記録が毎晩一件ずつ並び、霜の上には手のひらの形が二つずつ付いていた。相棒…
続きを読む:北町ポートの無人の乗車記録異界の駅の話を十三本厳選。乗り過ごした先の無人駅、路線図にない地下鉄、時刻表にない二両の列車、雪夜に着いた木札の駅まで、三つの章で案内します。核心は伏せたまま、…
続きを読む:異界の駅の話 13選大雪で足止めされた夜、運転手の私が泊まったのは寝息を借りる宿だった。廊下を引きずる音と、私と同じ間隔の息が、壁の向こうから近づいてくる。翌朝、体はやけに軽かった…
続きを読む:峠の麓の寝息を借りる宿河川課の私が月に一度閉める水門の祠には、内向きの注連縄が張られていた。戸の裏には五本一組の筋が並び、閉めた二十分後に一本増えていた。先輩が言った「そのまま帰るこ…
続きを読む:水門の祠に張られた内向きの注連縄管理会社の私が開いた画面には、金曜の夜だけ空室の解錠ログが並んでいた。解錠は二十三時十四分、施錠は二十三時四十一分。誰も入れないはずの角部屋で、隣人は私に似た後…
続きを読む:金曜だけ残る空室の解錠ログ夜間警備のアルバイトを始めて9日目の深夜、俺の端末の巡回ログに、存在しないはずの15番目の記録が現れた。時刻は毎晩少しずつ早まり、担当者の欄だけが空白のまま。郊…
続きを読む:巡回ログの余った一行東京の西のはずれで理容室を継いだ私は、父の言いつけで月末の月曜だけ店を早く閉める。棚の桐箱の髪は、仕舞った量より毎月増えていた。夜通し響く櫛の音と、鏡の前で動か…
続きを読む:桐箱の髪が増える月曜引き継いだ取り壊し前の団地の伐採現場で、私は名札のクスノキに打たれた札を数えた。打診ハンマーに返る音、日付が先に来ている札、園児の不思議な一言、そして祖父の字。…
続きを読む:名札のクスノキが先に知る晴れた朝の7時10分、マンションの自動ドアを抜けてきた4階の三浦さんは、髪の先から雫を落とすずぶ濡れの住人だった。床は乾いていて、すれ違う誰も気に留めない。3日…
続きを読む:ずぶ濡れの住人は晴れた朝に帰るほんのり怖い話を十二本厳選。古いホテルの廊下、地下の小さな扉、谷に置かれた傘など、叫ばずに読める静かな不思議を三つの章で案内します。核心は伏せたまま、読む順番の…
続きを読む:ほんのり怖い話 12選国道沿いのコインランドリーで、巡回スタッフの私は台帳の「引取り待ち」の欄に赤い印を押すたび、壁際の丸椅子が1脚ずつ増えていることに気づいた。誰もいない深夜、乾燥…
続きを読む:引取り待ちの椅子が増えていく市役所の臨時職員として、港町の漁協で古い台帳を取り込んでいた。寄り物帳の赤い栞は毎朝ひとつ先へ進み、最後の鉛筆の行には、まだ失くしていない私の持ち物が書かれてい…
続きを読む:寄り物帳に増える鉛筆の行深夜の物流団地で、ナビは同じ案内を五回繰り返した。分岐に立つ人影が振る赤い誘導棒は、いつも暗い側道を右へ指している。前任の先輩が残した付箋の三行目の意味を、私は…
続きを読む:赤い誘導棒は右を指す夏の定期点検で、団地の調整池は前の週より澄みすぎていた。悪口を聞いてくださるという口濯ぎさんの古い木札と墨の文字を見つけた翌日から、水面が団地の人々の愚痴を小声…
続きを読む:口濯ぎさんに愚痴を預けた夏夕暮れの突堤に、毎週木曜の17時半だけ現れる名前のない老人がいた。灯油配達の私に、彼は決まって同じことを尋ねる。古い顧客カードを開いた夜、私は自分の家にも空白の…
続きを読む:空白の名前欄を老人が探している引っ越し作業員の俺たちは、出発前に必ず点呼の数を確かめる。取り壊し前の団地で最後の一世帯を運んだ日から、荷台の奥で誰かが一拍遅れて数えはじめた。同じマンションか…
続きを読む:点呼の数が合ってしまう信用金庫で働く私の自宅に、席替えアンケートと書かれた切手のない封書が届いた。隣席の主任の名前を書いて返送した後、札を神社の杉に打つよう指示される。その夜の録音に…
続きを読む:席替えアンケートは月曜に届くタイムスリップの話を既存の体験談から12本選びました。二分進む時計、三十分巻き戻った峠道、押入れの奥に続く商店街など、小さな時間のずれから始まる不思議な話を、核…
続きを読む:タイムスリップの話 12選空き家の庭木整理で、私は依頼書どおり木守りの柿を最後の一つまで取った。幹に掛かった古い木製の梯子、乾いた土に残る濡れた足跡、隣家の老婆の礼。夕方の写真には、梯子…
続きを読む:木守りの柿を取った日の梯子ミステリーを応援する
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