『コ』の字の家
子どもの頃に住んでいた『コ』の字の家は、元女郎宿と噂される古い二階建てでした。夏休みの朝、中庭の向こうの襖が揺れ、中から現れた女の姿から逃げた私を、向かいの祖母…
子どもの頃に住んでいた『コ』の字の家は、元女郎宿と噂される古い二階建てでした。夏休みの朝、中庭の向こうの襖が揺れ、中から現れた女の姿から逃げた私を、向かいの祖母…
毎年七月、一人で通う湘南の海。四年前の食堂で、隣席の母娘は三つ目の湯呑みを頼み、父親は別の世界にいると話していた。昼の砂浜で、その父親と火を貸し合った私が、図書…
ゲーム雑誌の新人だった僕は、読者からの電話で、セガサターンの『百物語』の百一話目を確認することになった。校了の夜、七十話目で画面が止まり、老婆の顔が歪んだ。本体…
小学四年の夏に亡くなった大好きなじいちゃんが、お盆になると夢の中に逢いに来る。白い空間、ガラスのトンネル、二人だけの水族館。母方の親戚にだけ起こる不思議な再会と…
奥秩父の谷にある社では、水場の柄杓を伏せずに椀を上へ向けて置く決まりがある。渓流の解禁日、境内に張られたテントを片づけた私は、その晩、背を向けて立つ少年を見た。…
中学三年の冬、私は間違えた問題のページだけ、解答冊子の角の右上を爪で折る癖がありました。模範解答の誤りに赤ペンで斜線を入れて夕飯から戻ると、赤い線も折り目も消え…
一文無しで郷里に戻った男が、近所の川で釣り上げた布の人形。それは三十年前、自分が川へ投げ込んだ、あの子の人形だった。耳もとに響いた声と、苔むした墓の影。切なくて…
一人暮らしを始めた部屋で、夜になると下からざわつき声が聞こえるようになりました。苦情に行った階下の住人は、同じ声が上から聞こえると言います。天井裏を調べる日の朝…
海沿いの現場で昼ごとに通った海岸の弁当。同い年の職人A君が語ったのは、毎日私を呼んでいたものの正体と、半歩後ろを歩き続けた本当の理由でした。ある日、浜で起きた水…
秋田・阿仁川の上流にある笛内という集落では、雪が降る前に、一軒につき一本だけ竹を立てるのだそうです。三十年前のテレビで、その場面だけ音が消えていた理由と、抜いた…
幽体離脱を試していた夜、絵の具をこぼしたような空間に迷い込みました。光の部屋で出会った宇宙人が語る、火星の生き物アクァッホの正体と人類の歴史、ナスカやマヤ、ピラ…
青森・黒石のこみせ通りに残る元呉服商の家で、たとう紙の棚と箱段のあいだから子どもがこちらを見ていました。隙は五ミリ。建具屋の帳面には代々「散り 五厘残し」と書か…
小学四年で転校した東北の町には、首刈り地蔵と呼ばれる首のない三体の地蔵があった。供え物を禁じられていたのに、俺は二つのおにぎりを置いた。その夜、窓の下で足音が止…
十代の頃、十万円の前金と引き換えに、山奥の廃墟でひと晩を明かしました。壁も天井も真っ黒に焦げているのに、地下の浴槽の内側だけが白いタイルのままです。縁には、指の…
高校二年の夏休み、友人に誘われて山あいの川原の花火へ向かったAは、水の中で何かに足を引かれた。翌朝、誘ったはずの友人は一度も電話をしていないと言う。解約済みの番…
古いアパートで、ほぼ同じ時刻に二人が戻らぬ姿になっていた。夜十一時に鳴る電話と、受話器から聞こえる三文字の言葉。電話を取った人は助かり、遅れた人にだけ訪れるもの…
年の瀬の山頂で、携帯電話のアンテナ鉄塔を上司二人と点検した帰り道のことです。凍った林道の雪の上に、私たちの長靴の跡に挟まれて、小さな裸足の足跡が下へ続いていまし…
体調不良の原因は、俺ひとりの後悔の念ではなかった。霊媒師に言われて訪ねた先の仏間には、三か月前から毎晩夢に見ていた柱時計が、同じ三時十五分で止まっていた。その部…
小学校に上がる前の夏、祖母の家の山道で出会った着物の少女。三年間、毎日のように遊んだ彼女は、名前を一度だけ教えてくれた。高熱の五日間と消えた山、親戚の子が見せた…
真夜中のコンビニ帰り、ビルの隙間にハイヒールの女性が消えた。翌日の昼は、行き止まりの壁。次の夜は子どもが入っていき、暗闇から伸びた手が私の腕を掴む。地図アプリの…
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