祝い着の肩上げは誰がほどく
駅前の古い写真館で七五三の前撮りの着付けをしていた去年の11月。三階の桐の箱に眠る一枚だけの祝い着の肩上げが、11月に入ると一針ずつほどけていく。六歳の子どもた…
駅前の古い写真館で七五三の前撮りの着付けをしていた去年の11月。三階の桐の箱に眠る一枚だけの祝い着の肩上げが、11月に入ると一針ずつほどけていく。六歳の子どもた…
川沿いのマンションで管理員をしている私のタブレットに、毎朝3時14分、住戸のない地下1階から修繕依頼が届く。件名は「開けてください」。地下の点検口は溶接され、1…
亡くなった祖父が夢の水族館へ連れて行く夜。証明写真に並んだ見覚えのない二人。崖でナイフを押さえた手。怖さより温かさが残る心霊ちょっと良い話を14本選び、夢・かた…
港町の問屋町にある小さな保育園で働く僕は、去年の冬、橋詰のしるべ石の前で茶色い半纏の子から丸い金属の札を受け取った。汚れていたので、ごみ袋に落とした。翌朝、それ…
去年の六月、雨が上がった晩に入った注文の住所は、地図にない六丁目だった。更地の先に細い道が伸びていて、下りきったところに坂の下の灯りが並んでいた。受け取った人は…
去年の10月、飼ってもいない犬の首輪が、鍵をかけた部屋の玄関に置かれていた。前の晩まで、それは車で1時間半離れた祖母の家の納戸にあったはずだ。名前を彫る板には何…
去年の12月、雪の深い小板という町に一人で行きました。宿のおかみは外湯が七つあると言いました。けれど三日目の晩、案内図にない灯りが坂の下に見えたのです。八つ目の…
村に残る掟、名を持つもの、山の側の理屈。逃げ場のない土地でだけ起こる田舎の怖い話を、The Mystery の記事から十五本選びました。四つの入口に分けて、核心…
向渡へ渡る短い橋が架け替えになり、看板屋の私は親柱の写しを引き受けた。石の欠けまで写せたのに、根元のもやい輪だけが新しい柱に付かなかった。工房に預かった輪には、…
乗り過ごした夜の駅、人の気配だけが抜けた町並み、帰ってからの違和感。当サイトの異世界に行った話から二十七本を選び、核心には触れずに読みどころだけを短く添えました…
六月の第三金曜だけ、給食のトレーに献立表にない緑の団子がのります。この土地ではあそび団子と呼ばれ、奥の小部屋で二人だけが作り、職員には一つも配られません。翌日、…
築43年の団地に着任した41歳の管理員が、空き住戸の名札を作り替えたとき、古い紙の裏に赤い鉛筆で書かれた数字を見つけた。名札の裏の数字は住民ごとに違い、数字の大…
深夜のコインランドリーを回る仕事で、あの店の奥の乾燥機にだけ、月に一度、手書きの札が貼られた。札のある台は開けない、日付が変わる前に出ない、忘れ物カゴには手を入…
売りに出る前の空き家で寸法を測っていると、廊下の長さと各部屋の内寸が、どうしても畳一枚半ぶん合わなかった。畳の上を白く細いものが這い、私の問いかけに頷くように曲…
昭和四十八年の夏、巡回映画の助手だった私は水没が決まった紀伊の山村へ入った。上映の夜、村人は全員が白い布に背を向けて座っていた。窓は新聞紙で塞がれ、子どもは名を…
宿を出るとき三和土で履物を一度脱ぎ揃え直してから履く——若狭の入り江に残るその作法を忘れた朝から始まった不思議な話です。平成十年の夏、隣家の絹さんを六十年ぶりの…
市役所で公共の時計を合わせて回っていた頃、広場の時計塔だけが二分進む時計だった。何度直しても翌月には必ず同じだけ先を指している。明治の頃まで町中に時を配っていた…
昭和五十八年、市役所の宿直室で夜間の代表電話を受けていた私に、毎月十三日の同じ時刻だけ、同じ声が橋のたもとの街灯の不具合を告げました。番地を辿ると、そこは区画整…
平成八年の秋、越後の谷にある十一戸の在で、私はどの家の薬箱の底にも同じ白い包みを見つけた。開けた者は八十年ひとりもいないという。分析のため一つ持ち帰ると、包みは…
買い取った蔵書から抜いたはずの古書の紙片が、翌朝また同じ頁に挟まっている。鉛筆の数字は、私が抜いた回数と同じだけ減っていった。四分遅れの柱時計と、いないはずの人…
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