氷室で一人と数えられた夜
深夜の品出しのアルバイトで、俺と先輩は同じ紺のエプロンを着て、地下に残る旧魚市場の氷室へ降りた。だが石段を上がってきたのは一人だけだった。顔を笠で隠し名前も呼ば…
続きを読む:氷室で一人と数えられた夜深夜の品出しのアルバイトで、俺と先輩は同じ紺のエプロンを着て、地下に残る旧魚市場の氷室へ降りた。だが石段を上がってきたのは一人だけだった。顔を笠で隠し名前も呼ば…
続きを読む:氷室で一人と数えられた夜昭和七年の六月、上州の蚕の町で白い麻に名を一つ縫った和裁士の怖い話。雨も降らぬ夜に屋根裏で桑を食む音がして、朝ごとに針目が二寸進み、七十七段の石段が帰りは六十九…
続きを読む:蚕の町で毎年同じ手が縫う札駅の地下二階にある遺失物取扱所を舞台にした怖い話。どの駅からも届いていない番号札のない鼠色の包みに、彫られた名前が毎日入れ替わる真鍮の札が入っていた。規定どおり…
続きを読む:彫られた名が変わる真鍮の札山の送電線を巡視していた頃の、忘れられない怖い話。無風なのに低く鳴る索道のワイヤー、下草に残る一列の跡、そして梢に腕だけで懸かるもの。姿を消した先輩が谷に残した…
続きを読む:見上げてはいけない梢平成五年、大学図書館の地下二階の資料保存室で、私は県北の旧家から寄贈された古い蔵書を繕っていた。虫が食って欠けた文字は、規定どおり推定で墨で補う。やがて誰にも貸…
続きを読む:貸出カードに増えていく名昭和四十六年、北国の低地の村に赴任した若い駐在巡査が語る田舎の怖い話。圃場整備で沼の古い樋が壊された夜から、戸口に濡れた藁苞が置かれ、撒いたはずの水が桶へ同じだ…
続きを読む:逆さに流れる用水昭和三十三年の秋、巡回映写技師の私は干拓が完工したばかりの有明の集落で野外映写会を開いた。癖で客の頭を数えると、村の人数より三つ多い。潮入れをやめた土地で、幕の…
続きを読む:潮が来ない集落の映写会山あいの時計店では霧の朝の四時十九分、二十の柱時計の音がぴたりと揃った。恩師の手帳に残る耳澄ましの手順どおり音を数えた私は、墨流しの渦巻く異世界に迷い込み、恩師…
続きを読む:墨流しの異世界で聞いた山の正体昭和四十四年の秋、信州の山村に保健婦として赴任した私は、柿の木に実が一つも残らぬことに気づいた。木守りを絶やした村に伝わる怖い話。水を落としたはずの棚田に人が立…
続きを読む:木守りを絶やした村の声これは録音の仕事で出会った怖い話。昭和六十三年の夏、廃鉱の飯場跡で、深夜番組のために一晩ぶんの無音を録ることになった。地下へ降りる階段は十三段。だが朝、上がって…
続きを読む:無音のテープに入った返事昭和の半島の丘で、県道拡張のため古い石の宮を移すことになった石工の私。掘り起こした据石は、村が「負い石」と呼び、災いを負わせて封じてきた石だった。動かしてはなら…
続きを読む:掘り起こしてはならない石恩師の生まれ育った谷へ、やり残した測量の杭を打ちに向かった技師。凪の刻に迷い込んだのは、言葉も文字も通じない、少しだけずれた土地だった。毎日打たれる薄青い注射、…
続きを読む:凪の刻に入れ替わる谷道ダムに沈む谷の底、朽ちた坑道の奥に、赤茶けた巨大な鉄の輪が縦に据えられていた。霧のいちばん濃い晩、肝だめしにその輪をくぐった先で、私は名前も、顔も、生まれた国さ…
続きを読む:霧の谷でくぐった鉄の輪昭和四十四年の冬、越後の山あいにある分校へ赴任した私は、宿直の明け方に雪を掃く音を聞いた。校庭へまっすぐ伸びる一本の跡、数えるたびに増える教室の扉、名簿に増えた…
続きを読む:雪の分校に来るハキサマ昭和の終わり、測量助手の私は山を案内する老人に従い、忘れられた墓を拾い歩いていた。だが帰りの風の無い窪地で、宙にぶら下がる人型のものと、土の下から湧く得体の知れ…
続きを読む:風の無い窪地で見たもの昭和末期、北の半島の港町。港の拡張工事で、岬に据えられた古い立石が動かされた。封じの蓋を開けた者の血筋へ、因は順を追って回っていく。石工の私が、幼馴染の一家を襲…
続きを読む:岬の立石を動かした町古道具の出張買取で訪れた、旧街道沿いの在郷町。蔵の奥から出てきたのは、赤い糸で厳重に巻かれた古い人形だった。糸がひとりでに解けた夜から、首の伸びる異形が、夜ごと…
続きを読む:うずめ様と呼ばれた古い人形山陰の峠で見知らぬ女を乗せてしまった長距離トラック運転手が体験した、洒落にならない怖い話。カチカチと鳴る音、首すじの継ぎ目、袂に忍ばされた人形の指。港まで先回り…
続きを読む:乗せてはいけない峠の女岬の御堂に置き残された朱の封じ甕をめぐる長編の怖い話。黒い着物の老人が唱えた裏返しの言葉、甕を開けようとした二人の目の異変、そして書き換えられた事故の記憶。移し…
続きを読む:封じ甕を開けようとした夜平成のはじめ、山あいの養蚕集落の空き蔵で、赤い組紐に十文字に巻かれた小さな桐の箱を見つけた学芸員の私。持ち帰った夜から、天井で鳴る音と、どこからともなく絡みつく…
続きを読む:赤い組紐に巻かれた箱ミステリーを応援する
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