湖底の窓を数えた配信の夜
渇水で三十年ぶりに水面から現れた湖底の窓を撮りに、ドローンを持って降りた八月の夕方。管理事務所の三つの条件のうち、守れなかったのは一つだった。配信の人数は合って…
誰かに話すと信じてもらえないかもしれない、あの体験。心霊体験談を実話風に描いた短編を集めました。ゾクっとする感覚と、不思議な余韻をお楽しみください。
渇水で三十年ぶりに水面から現れた湖底の窓を撮りに、ドローンを持って降りた八月の夕方。管理事務所の三つの条件のうち、守れなかったのは一つだった。配信の人数は合って…
取り壊し前の団地で理事長から預かった団地の合鍵は、全部で68本。昼休み、灰色のつなぎを着た見知らぬ男が私を「お嬢さん」と呼び、三時までに外へ出るよう告げた。その…
海沿いの式場の地下にある着付け室。黒い布が外れた姿見、誰もいない小部屋で鳴る絹の音、衣桁に残された緋色の帯揚げ。二人目の花嫁には話しかけてはいけないと先輩は言っ…
毎年秋に、調律へ通う丘の上の古い平屋。ピアノの部屋は玄関から庭へ抜ける廊下の途中にあり、スリッパは必ず二組、うち一組は妙に小さい。床の白い筋、十二分遅れの柱時計…
湾岸の団地で検針の仕事を始めた春、前任者の名前を誰も思い出せなかった。回覧板で欠席の印が押された部屋は、翌月には空き室になっている。引き継ぎ書に残されていたのは…
大雪で足止めされた夜、運転手の私が泊まったのは寝息を借りる宿だった。廊下を引きずる音と、私と同じ間隔の息が、壁の向こうから近づいてくる。翌朝、体はやけに軽かった…
河川課の私が月に一度閉める水門の祠には、内向きの注連縄が張られていた。戸の裏には五本一組の筋が並び、閉めた二十分後に一本増えていた。先輩が言った「そのまま帰るこ…
管理会社の私が開いた画面には、金曜の夜だけ空室の解錠ログが並んでいた。解錠は二十三時十四分、施錠は二十三時四十一分。誰も入れないはずの角部屋で、隣人は私に似た後…
引き継いだ取り壊し前の団地の伐採現場で、私は名札のクスノキに打たれた札を数えた。打診ハンマーに返る音、日付が先に来ている札、園児の不思議な一言、そして祖父の字。…
晴れた朝の7時10分、マンションの自動ドアを抜けてきた4階の三浦さんは、髪の先から雫を落とすずぶ濡れの住人だった。床は乾いていて、すれ違う誰も気に留めない。3日…
ほんのり怖い話を十二本厳選。古いホテルの廊下、地下の小さな扉、谷に置かれた傘など、叫ばずに読める静かな不思議を三つの章で案内します。核心は伏せたまま、読む順番の…
国道沿いのコインランドリーで、巡回スタッフの私は台帳の「引取り待ち」の欄に赤い印を押すたび、壁際の丸椅子が1脚ずつ増えていることに気づいた。誰もいない深夜、乾燥…
夕暮れの突堤に、毎週木曜の17時半だけ現れる名前のない老人がいた。灯油配達の私に、彼は決まって同じことを尋ねる。古い顧客カードを開いた夜、私は自分の家にも空白の…
空き家の庭木整理で、私は依頼書どおり木守りの柿を最後の一つまで取った。幹に掛かった古い木製の梯子、乾いた土に残る濡れた足跡、隣家の老婆の礼。夕方の写真には、梯子…
閉館後のスポーツクラブで夜間清掃を始めた私は、三番のシャワー室の排水口に、いつも同じ長さの髪が溜まっていることに気づいた。毛先は鋏で切ったように揃い、量は毎晩少…
深夜の漏水調査で聴音棒を当てると、牛鳴き横丁の地下から、牛の声が二度、長く短く返ってきた。管のない場所から届くその声に、返事をしてはいけないと金物店の老人は言っ…
測量で入った谷の圏外で、地図アプリの現在地がふたつになった。もう一つの青い丸は、七十メートル先を同じ速さで歩き、更新の表示はいつまでも十二分前のまま。ひび割れた…
病院の売店で、月末の17時40分に台へ出される代わりの湯呑みは、閉店までに熱湯が冷え、翌朝きまって割れていた。入社初日に搬入口で返事をしてしまった私は、店長が去…
引っ越して三日目から、私は玄関で「ただいま」と言うようになった。夕方7時12分、台所との境の引き戸に曇りガラスの人影が橙色に灯る。それは前の住人の帰宅なのか、そ…
夜間清掃の私に、黄色いベストの女性が湿った白い紙を手渡した。帰り道札と書かれたその紙には、私の知らない子どもの好きなものが並んでいた。受け取った夜から、搬入口の…
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