もう一つの青い丸が先に着く
測量で入った谷の圏外で、地図アプリの現在地がふたつになった。もう一つの青い丸は、七十メートル先を同じ速さで歩き、更新の表示はいつまでも十二分前のまま。ひび割れた…
誰かに話すと信じてもらえないかもしれない、あの体験。心霊体験談を実話風に描いた短編を集めました。ゾクっとする感覚と、不思議な余韻をお楽しみください。
測量で入った谷の圏外で、地図アプリの現在地がふたつになった。もう一つの青い丸は、七十メートル先を同じ速さで歩き、更新の表示はいつまでも十二分前のまま。ひび割れた…
病院の売店で、月末の17時40分に台へ出される代わりの湯呑みは、閉店までに熱湯が冷え、翌朝きまって割れていた。入社初日に搬入口で返事をしてしまった私は、店長が去…
引っ越して三日目から、私は玄関で「ただいま」と言うようになった。夕方7時12分、台所との境の引き戸に曇りガラスの人影が橙色に灯る。それは前の住人の帰宅なのか、そ…
夜間清掃の私に、黄色いベストの女性が湿った白い紙を手渡した。帰り道札と書かれたその紙には、私の知らない子どもの好きなものが並んでいた。受け取った夜から、搬入口の…
嫁いだ干拓地の家には、海に向いた雨戸を一枚だけ閉めない決まりがあった。義母は膳を数えるとき、私の顔を見ない。塩の皿は朝ごとに湿り、腕時計には覚えのない四千歩が残…
亡くなった祖父が夢の水族館へ連れて行く夜。証明写真に並んだ見覚えのない二人。崖でナイフを押さえた手。怖さより温かさが残る心霊ちょっと良い話を14本選び、夢・かた…
深夜三時に来る目薬の常連と呼んでいた女性が、ある夜を境に姿を消した。彼女はいつも静かで、丁寧で、同じ三品を買っていた。一ヶ月後、俺の電話が毎晩三時二分に鳴り始め…
港町の問屋町にある小さな保育園で働く僕は、去年の冬、橋詰のしるべ石の前で茶色い半纏の子から丸い金属の札を受け取った。汚れていたので、ごみ袋に落とした。翌朝、それ…
深夜2時57分から3時までの三分間は、番組表の上では何も入っていません。コミュニティFMの当直に入った私は、その三分の確認用録音にだけ低い声が入っていることに気…
去年の4月から、5歳まで暮らした旧道沿いの町が担当になった。夕方5時の音楽が折り返すと、右手の指の間だけが濡れる。玄関の右端はいつも湿っていて、そこだけ乾かない…
ロープアクセスの現場で、ロープは二本と決まっている。それなのに上で私を見ている相方だけが、代わる代わる三本目のロープを見たと言って現場を離れていった。私には一度…
地下二十二メートルの立坑の底で、巻尺の目盛りが送られるような乾いた音が日ごとに数を増していった。掘り当てた古い石組みは止め井戸と呼ばれ、水を張って何かを留めてお…
売りに出る前の空き家で寸法を測っていると、廊下の長さと各部屋の内寸が、どうしても畳一枚半ぶん合わなかった。畳の上を白く細いものが這い、私の問いかけに頷くように曲…
平成十二年の冬、東北の山奥の湯治宿で湯守をしていた男が語る怖い話。引いてはならないと言われた留め湯が業者に持ち出された朝から、源泉の温度計も脱衣所の鏡も深夜の廊…
昭和三十四年、中国山地の三国越えには、名を書いた板だけが掛かっていない停留所があった。乗合バスの運転手だった私と、峠と読み上げるたび一度つっかえる十七の車掌。雪…
山の送電線を巡視していた頃の、忘れられない怖い話。無風なのに低く鳴る索道のワイヤー、下草に残る一列の跡、そして梢に腕だけで懸かるもの。姿を消した先輩が谷に残した…
これは録音の仕事で出会った怖い話。昭和六十三年の夏、廃鉱の飯場跡で、深夜番組のために一晩ぶんの無音を録ることになった。地下へ降りる階段は十三段。だが朝、上がって…
昭和の半島の丘で、県道拡張のため古い石の宮を移すことになった石工の私。掘り起こした据石は、村が「負い石」と呼び、災いを負わせて封じてきた石だった。動かしてはなら…
昭和の終わり、測量助手の私は山を案内する老人に従い、忘れられた墓を拾い歩いていた。だが帰りの風の無い窪地で、宙にぶら下がる人型のものと、土の下から湧く得体の知れ…
昭和末期、北の半島の港町。港の拡張工事で、岬に据えられた古い立石が動かされた。封じの蓋を開けた者の血筋へ、因は順を追って回っていく。石工の私が、幼馴染の一家を襲…
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