止まった十秒
高校の中庭で、世界がぴたりと止まった、あの十秒間。視覚以外の五感がすべて消えたその時を境に、親友との関係も、座席も、自分の記憶までもが、少しずつずれ始めました。…
高校の中庭で、世界がぴたりと止まった、あの十秒間。視覚以外の五感がすべて消えたその時を境に、親友との関係も、座席も、自分の記憶までもが、少しずつずれ始めました。…
子どもの頃、炭焼きだった祖父と山へきのこを採りに入った夏。帰り道は正しいのに同じ景色を繰り返し、谷川の音も消え、いつまでも家に着かない。慌てぬ祖父が一本の煙草に…
仕事帰り、行きつけの深夜の古書店へ向かいエレベーターを六階で降りると、視界一面が真っ白だった。匂いも音も消えた空間、灰色の服の男、トオリヌケという言葉、そして消…
中学時代、変わった口癖を持つ友達がいました。ある夏の日、私の部屋に、見知らぬ故人の古い自伝が、ひとりでに現れます。そこに記されていた故人の口癖は、なぜか、その友…
仕事帰りに電車で寝過ごし、降りた駅は「ゆやみ」という見知らぬ無人駅でした。鳥居、濁った目の老婆、山に灯る提灯、そして手を引く男の子。帰宅後にいくら調べても、その…
祖父の通夜の晩、築百五十年の庄屋屋敷で一人、ガラス張りの奥座敷に通された私。長い廊下を引きずる足音、波打つ襖、共振するガラス。家族はイタチの仕業だと言うが――山…
古い窯業の町で育った私には、三十年経っても忘れられない出来事があります。埋め立てたばかりのため池の更地で遊んでいたあの日、目の前で友達が柔らかな土に呑み込まれ、…
日本海の漁師町へ帰省した夏、兄と僕は引き潮の干潟の彼方に、くねくねと動く白いものを見つけました。双眼鏡で覗いた兄はその夜から変わり果て、祖父は青ざめて駆けてきま…
山あいの古い民家での合宿の夜、先輩が口にした「霊感テスト」。目を閉じ、実家の窓を順に開け閉めするだけの、他愛もない遊びでした。けれど、その遊びには、やるたびに見…
秋に転校してきた、色の白い少女ゆかり。亡き母の形見のお守りを、いつも大切に胸につけていました。乱暴な同級生が、無理にそれを開いてしまったとき、手紙に記されていた…
卒業旅行で訪れた、湖畔の古い別荘。深夜に鳴った黒電話から聞こえたのは、テープを早送りしたように歪んだ、女の声でした。その電話を受けた者から、一人、また一人と。受…
旅先の県道で食あたりに倒れたとき、野次馬の中に四頭身の異様な女がいました。退院の日も病院の門に。以来、人ごみのたびに、無表情のその女が、決まって五十メートル先か…
北国の古い下宿で、管理人の老人から聞いた話です。Kという青年は、胸騒ぎを覚えると、遠く離れた親しい誰かが必ず死ぬ体質でした。雪の夜、電話に出なかったたったひとり…
山あいの旧家に母から娘へ口伝てで受け継がれてきた、悪夢を見せる子守唄。裏切った恋人に、わたしは生まれて初めてその歌を口ずさんでしまいました。やがて彼は腐っていく…
絵本『ウォーリーをさがせ』にまつわる怖い都市伝説を、古本屋で出会った一冊の奇妙な本とともに辿ります。全ページに引かれた迷いのない赤鉛筆の丸、最後の見開きにだけ無…
深夜の雑居ビルでエレベーターの扉が開くと、そこは一階のロビーではなく、夜の野原だった。匂いも、音も、確かにあった。降りなかった私に警備員が漏らした一言が、今も忘…
町に出回った一枚のチラシが、パンは危険な食べ物だという奇妙な統計を並べていた。母が、隣人が、商店街が少しずつ変わっていく。数字の正体に気づいたとき、本当の目的が…
真夜中の特急電車に、乗客の年齢を次々と言い当てる不気味な男が現れます。百発百中だった男が、最後の初老の女性の前で、初めて凍りつき青ざめました。彼に見えていたもの…
五年ぶりに帰った実家で、亡き母の書斎から、ハサミで細かく切り刻まれたカレンダーが見つかります。順番に並べられた日付が示していた、母が命を懸けて遺した最後の警告と…
念願の新居で開いた引っ越し祝い。撮った記念写真の押し入れの隙間から、青白い顔の見知らぬ女が私たちを覗いていました。怯えて訪ねた霊能者は「これは心霊写真ではない」…