木守りを絶やした村の声
昭和四十四年の秋、信州の山村に保健婦として赴任した私は、柿の木に実が一つも残らぬことに気づいた。木守りを絶やした村に伝わる怖い話。水を落としたはずの棚田に人が立…
昭和四十四年の秋、信州の山村に保健婦として赴任した私は、柿の木に実が一つも残らぬことに気づいた。木守りを絶やした村に伝わる怖い話。水を落としたはずの棚田に人が立…
昭和の半島の丘で、県道拡張のため古い石の宮を移すことになった石工の私。掘り起こした据石は、村が「負い石」と呼び、災いを負わせて封じてきた石だった。動かしてはなら…
恩師の生まれ育った谷へ、やり残した測量の杭を打ちに向かった技師。凪の刻に迷い込んだのは、言葉も文字も通じない、少しだけずれた土地だった。毎日打たれる薄青い注射、…
ダムに沈む谷の底、朽ちた坑道の奥に、赤茶けた巨大な鉄の輪が縦に据えられていた。霧のいちばん濃い晩、肝だめしにその輪をくぐった先で、私は名前も、顔も、生まれた国さ…
昭和四十四年の冬、越後の山あいにある分校へ赴任した私は、宿直の明け方に雪を掃く音を聞いた。校庭へまっすぐ伸びる一本の跡、数えるたびに増える教室の扉、名簿に増えた…
昭和末期、北の半島の港町。港の拡張工事で、岬に据えられた古い立石が動かされた。封じの蓋を開けた者の血筋へ、因は順を追って回っていく。石工の私が、幼馴染の一家を襲…
古道具の出張買取で訪れた、旧街道沿いの在郷町。蔵の奥から出てきたのは、赤い糸で厳重に巻かれた古い人形だった。糸がひとりでに解けた夜から、首の伸びる異形が、夜ごと…
山陰の峠で見知らぬ女を乗せてしまった長距離トラック運転手が体験した、洒落にならない怖い話。カチカチと鳴る音、首すじの継ぎ目、袂に忍ばされた人形の指。港まで先回り…
岬の御堂に置き残された朱の封じ甕をめぐる長編の怖い話。黒い着物の老人が唱えた裏返しの言葉、甕を開けようとした二人の目の異変、そして書き換えられた事故の記憶。移し…
昭和五十二年の夏、都会の勤めを辞めて行き場をなくした私は、半島の先の漁村・鵜ノ首の浦で大伯母フミの家にひと月を過ごした。窓のない網蔵に籠るもの、沖の離れ岩から還…
平成のはじめ、消えゆく山あいの集落で子守唄を集めていた学芸員が、霧降りの森の奥で出会った怖い話。還された子らの泣き声が霧のなかから人を招き、帰り道を惑わせる。土…
昭和の銅山で運搬夫をしていた老人が、生涯ただ一度だけ立ち会った夜の出来事を書き残した怖い話・体験談です。鉱脈が痩せた年、親方衆だけが新月の晩に旧陸軍の坑道へ向か…
文化財調査で訪れた北陸の半島の港町。解体間近の網元の旧家の裏庭には、窓やガラス戸はあるのに人の出入りする入口だけがない離れが建っていた。母から娘へ受け継がれた隠…
平成六年の夏の終わり、半島の役場で働く私は、先に逝った母の故郷の漁村で、古い土地台帳に「凪番」という家の役を見つける。凪いだ晩に海の向こうから上がるナギサマ、呼…
昭和四十九年の晩秋、奥羽のブナ山で国有林の境界を調べていた見習いの私は、老いた杣から「北の一つ目の尾根を見るな」と告げられる。額に縦の目をもつ片目様に魅入られた…
昭和の山奥の集落で、国土調査の測量技師が聞いた鏡淵の言い伝え。のぞけば名をとられるという淵を、若さと好奇心から三人でのぞいてしまった。五年後、十年後に一人ずつ静…
昭和五十七年の秋、川霧の立つ山あいの町で市史を編んでいた私は、丘の祠に納められた木札を写真に撮ってしまった。その晩から、灰色のコートを着た名取りの女が借家の戸や…
昭和の山奥、ダム工事の飯場で働いていた二十歳の夏のことだ。決まりを破って入った夜の裏山で、御神木に古釘を打ちつける女を見てしまった。危険な好奇心が招いた取り返し…
昭和の終バスを任された若い運転手が体験した、不思議な話。無人のはずの峠の停留所で乗せたのは、藍色の着物の女だった。湖の底に沈んだ村へ帰りたいと言う客を乗せ、走っ…
昭和のダム計画で、水に沈む村を一軒ずつ調べていた私たちは、外れの溜池にある、触れてはならない古い石蓋を起こしてしまう。やがて主任は知らぬ名を点呼のように呼び始め…