タグ: 実話

弟の言葉

その夏だけ、弟が淡々と変なことを言い出しました。上半身だけ起き上がる姉、床から半分出ている人、服の下に座る軍人。房総の古い借家にあった、一畳だけ床の高さが違う窪…

ドッペルゲンガー

四つの秋と十七の秋、私は妹を別々の場所で同時に見ました。丹波の谷にある祖父の家の、母屋と土蔵。数の増える踏み石、電気の来ていない蔵に点いた灯り、日付だけが五十年…

ニワトリ

六月の夕暮れ、蛙の声が消えた道で、頭に包帯を巻いた子供が一輪車で坂を下ってきた。両手には、生きた白いニワトリ。影はあるのに、音がしない。坂の上は行き止まりで、そ…

真夏でも冷たい奥の教室

古い個人医院を改装した学習塾で、私は講師をしていた。奥の教室だけが真夏でも氷のように冷たく、夜の八時を過ぎると、誰もいないその部屋から子どもの咳が聞こえた。ある…

七枚目の見積書

甲府盆地の外れで借りた元養蚕農家の納屋から、昭和六年の手書きの見積書が七枚出てきました。家の傷む順番も、下三桁の金額も、六十年前の紙と静かに重なっていきます。順…

金曜だけ来る灰色のセダン

丘の上の療養病棟。金曜の夕方になると、玄関の前に灰色のセダンが停まりました。娘が迎えに来るのだとKさんは言います。けれど面会名簿の欄はいつも空白で、防犯カメラの…

見えない壁

二十年前の秋、城下町の寂しい県道で、俺は見えない壁にぶつかった。透明で、磨いた石のように固い壁。引き返した直後、一台の軽トラックが、何もない道で潰れた。土地が静…

猫を抱えた子が追い抜いた夜

記録的な大雨で半鐘が鳴った晩のことです。藍色の着物を着た裸足の猫を抱えた子が、百段の石段を誰よりも速く駆け上がっていきました。町じゅうの者がその姿を見ているのに…

縁の下

母を亡くした幼い子を夜だけ預かっていた私は、ある晩から、誰もいない暗い部屋で笑うその子の声を、聞くようになりました。母はどこから来るのかと問われた幼子が指さした…

焼かれた十円玉

毎晩午前四時、郵便受けに焦げた十円玉が入れられる。おみくじ、髪の毛と、供えものは日ごとに不気味さを増していきました。覗き穴に現れた女の顔と、残された一言を描いた…

公園の違和感

深夜の帰り道、見慣れた公園の電柱が一本だけ、妙に長く見えました。近づいて気づいたその正体と、向かいの家をいまも覗き続けるものの言い伝えを描いた怖い話です。昼に確…

犯罪者に縁のある私

幽霊より、生きている人間のほうが怖い。九歳で出会った優しい常連客から、夜道の襲撃、そして抑揚のない声で同じ言葉を繰り返した車の男まで。犯罪者とばかり縁のある私の…

薄い壁の向こうで鳴る鈴

築四十年の安アパートに越して三日目の夜のことです。薄い壁の向こうから、低い声が聞こえてきました。リン、リリン。鈴を真似たようなその声は、月に一度だけ、壁に口を押…

ため池の跡に建った家

瀬戸内の窯業の町で、大きなため池が埋め立てられ、広い更地になりました。ため池の跡は絶好の遊び場でしたが、地元の子は誰も真ん中へは行きません。真ん中まで走っていく…

年齢当ての男の白い顔

終電を逃して乗った深夜の特急に、灰色のコートを着た痩せた男が乗ってきました。年齢当ての男は、乗客の歳を次々と言い当てていきます。けれど奥の席にいた女性の誕生日を…

門前を左回りに掃いた日

愛知の常滑で育った私が、中学生だった秋の夕暮れに、寺の脇道で出会った黒い回転する毛の塊。十年後、図書館の妖怪図鑑でその正体を知り、さらに、あの日の門前に残ってい…

神社の奥の光

夕暮れの古い鳥居の奥に灯る光をめぐる、不思議な話の実話怪談です。手招きするように灯った淡い光。近づくほど濃くなる靄と、背筋を這う冷たい感覚の正体を、祖母は声をひ…

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