タグ: 実話

同じ道端の地蔵を三度過ぎた

深夜の峠を運転していると、同じ道端の地蔵が三度もライトに浮かびました。助手席の山根は俯いたまま、自分の家の庭に埋まっているというものの話を続けます。彼が低い声で…

お化け煙突

盆地の独身寮に転勤してきた同僚は、窓から煙突が見えると言って四週間ごとに部屋を替えていました。彼の郷里に残る煉瓦の煙突と、その根元に縦に彫られていた名前の列。二…

笑い袋

下関の坂の駄菓子屋の二階から、古い笑い袋が出てきました。中の機械には電池が一本も入っていないのに、階段の下から低い笑い声が聞こえてきたのです。必ず笑い返さねばな…

存在しない駅

会津の谷を走る夜の列車で目を覚ますと、駅名標のない板だけのホームに停まっていました。翌朝、定期券には、この線のどこにも存在しない形の鋏の痕がもう一つだけ増えてい…

二階の電気を点けた人

秦野の丘の分譲地で、私はあの家の二階の電気を一度も点けませんでした。八月の蒸し暑い夜、階下で玄関の鍵が回る音がします。忍び足で階段をのぼってくる気配から、私は屋…

降りなければ

紀伊の山奥の集落へ向かう昼のバス。子どもがぐずったので途中の停留所で降り、定食屋に入った十分後、テレビはそのバスの事故を報じました。妻がこぼした一言の本当の意味…

ベビーカー

昭和五十四年の秋、人形の町の川沿いで、乳母車を数珠つなぎに引く男とすれ違いました。布の下にあったのは、雛壇には決して飾られない顔。拾ったものに名をつけてはいけな…

白いクーペと埋まった道

四万八千円の白いクーペは、売れるたびに十日ほどで店へ戻ってきました。走行距離は戻るたび減り、助手席のベルトだけが人ひとりぶん伸びている。前の持ち主は全員、土砂に…

本当に生きてる子どもなの?

毎年六月の平日の午後にだけ、部屋の固定電話が鳴っていました。受話器から聞こえるのは「ママ?」という一言だけです。四年目に私が返してしまったたった一つの質問が、い…

聖ヨゼフの階段

四国山地の集落に残る農村舞台に、支柱も鉄の釘も使わない十三段の箱階段がありました。材木の記録も大工の名も帳面にありません。手間賃を受け取らなかった職人に名を訊い…

聖徳太子の地球儀

熊野灘に面した集落の蔵に、夕方だけ湿る白い球が置かれていました。表面に浮かぶ入り江は日ごとに増え、地籍の控えには消えたはずの字名が一行だけ残っています。決して濡…

仮面の男

十七で入った山陰の温泉宿には、十九年も離れに逗留する客がいました。障子は開けない、開いていたら閉めずに下がる、顔を見たらその日のうちに宿を出る。この三つの決まり…

娘の目

駅のホームで起きた出来事から、娘の目だけは守ったはずだった。なのに娘は言った——「上からだと、ぜんぶ見えたもん」。古い木の跨線橋に伝わる「振り返ってはいけない」…

棲家

家賃が相場の半分だった、元仕立物屋の古い借家。北側の四畳半で眠る私の壁の中から、毎晩、何かを数える声がした。慣れてはいけないと祖母に言われた矢先、枕の中から現れ…

女

大学写真部の夏合宿で泊まった、外房の網元屋敷の古い民宿。深夜、寝落ちした部員の枕元に、濡れた髪の女が正座していた。誰も動けないまま夜が明け、東京に戻って集合写真…

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