壁の前で口笛を吹かない家
友だちの家の廊下の突き当たりに、一枚だけ色の違う壁がありました。負けたくなくて十回叩いた私に聞こえてきたのは、数の増え続ける数え唄です。広島・竹原の塩田の町に残…
友だちの家の廊下の突き当たりに、一枚だけ色の違う壁がありました。負けたくなくて十回叩いた私に聞こえてきたのは、数の増え続ける数え唄です。広島・竹原の塩田の町に残…
広島の山あいの町の小さな公園で、サヨちゃんという子と砂のトンネルを掘った。真ん中で手が触れるはずの距離で、俺の手首を掴んだものがある。彼女はいつも滑り台の裏から…
毎朝四時、庭で煙草を吸う私に新聞を渡してくれる高校生がいました。クリスマスの朝から三日のあいだだけ、その子は挨拶をせず、いつもの角を曲がりませんでした。曲がらな…
十月になると、その年に十二になる少年が白装束を着せられ、腐った締め縄で囲われたお山を登らされます。太鼓は人数ぶんしか鳴らさないと言われ、五人で入りました。下りる…
田んぼの真ん中にある水神様の祠は、子どもが近づいてはいけない場所でした。夏の晩に幼馴染と入り込むと、空の色が変わり、生い茂っていたはずの草が一本もなくなっていた…
夜勤で内科外来へ紙の記録を取りに行くと、入ったときには無かったはずの白いラベルのカルテが床に落ちていました。うちの病院で白はどの区分にも使われていない色です。棚…
古い民宿の共同便所で、真夜中に閉じ込められました。戸の向こうで誰かがぼそぼそと呟き、これは聞いてはいけないと直感しました。廊下の三枚の板だけが張り替えられていて…
近所のスーパーにいつもいる、いひゃっいひゃっと笑う女。酔った先輩が野菜売り場でからかったその日から、笑い女の声が先輩だけに聞こえるようになりました。無音になると…
十歳上の姉の不良仲間にもらったドルフィンリングが、真夜中に焼けるほど熱くなった。事故の知らせが届いた夜、玄関の向こうから「迎えに来たよ」と呼ぶ声がして、両親は外…
親の実家がある山奥の集落には、山に住む神様を信じる土着信仰があった。大学のレポートでヤマガミ様の存在を否定するつもりだった俺は、七軒の聞き込みと一冊の帳面を手に…
林道で五人が転んだ。起こそうとして数えると、倒れているバイクは六台あった。六台目のバイクは錆びて空気も抜けているのに、引きずった跡が斜面から一本だけ続いていた。…
春休みに友人の健二がいなくなり、天満橋の真ん中にスニーカーと靴下だけがきれいに揃えて置かれていました。三軒にほぼ同時にかかってきた電話と、霊感の強いおばさんの枕…
中学三年の秋、友人の家の離れには、ドアを挟んで内と外に二枚の札が貼られていました。風の強い晩が明けると、セロハンテープの形だけをきれいに残して、外側のお札が消え…
二〇〇二年の冬、金沢の下宿から繋いだ深夜の掲示板に、二〇四五年から来たと名乗る人がいました。その人が書くのは、駅前の時計が三分遅れるといった小さなことばかりです…
一人暮らしを始めた部屋で、夜になると下からざわつき声が聞こえるようになりました。苦情に行った階下の住人は、同じ声が上から聞こえると言います。天井裏を調べる日の朝…
栃木で兼業農家をする俺の家の杭には、苗字と関係のない一文字が彫ってある。理由を訊くと、八十七の爺さんは「見慣れない木の杭は抜くな」と言った。大正の初め、山に入っ…
十代の頃、十万円の前金と引き換えに、山奥の廃墟でひと晩を明かしました。壁も天井も真っ黒に焦げているのに、地下の浴槽の内側だけが白いタイルのままです。縁には、指の…
ITバブルの頃に入った小さな会社で、一軒の建売住宅を扱ってから怪我と不幸が続きました。左半身、左手、左足、左目。例の物件で配線の図面を壁に合わせると、階段の位置…
夏休みに自転車で川を遡った先に、青い屋根の家ばかりが並ぶ町がありました。赤い法被を渡され、おにいさん祭りの主役だと言われて小さな神輿を担いだ三人。担ぎ棒の白い紐…
実家の仏間の戸棚に、髪を納めた箱が一つあります。坊主だった曾祖父が、山を越えた先の村から持ち帰ったものです。村ぐるみで隠されていた業と、藪の中の盛り土から出てき…
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