北町ポートの無人の乗車記録
朝五時の北町ポートで、自転車の前輪だけがまだゆっくり回っていた。管理画面には、無人の乗車記録が毎晩一件ずつ並び、霜の上には手のひらの形が二つずつ付いていた。相棒…
朝五時の北町ポートで、自転車の前輪だけがまだゆっくり回っていた。管理画面には、無人の乗車記録が毎晩一件ずつ並び、霜の上には手のひらの形が二つずつ付いていた。相棒…
異界の駅の話を十三本厳選。乗り過ごした先の無人駅、路線図にない地下鉄、時刻表にない二両の列車、雪夜に着いた木札の駅まで、三つの章で案内します。核心は伏せたまま、…
ほんのり怖い話を十二本厳選。古いホテルの廊下、地下の小さな扉、谷に置かれた傘など、叫ばずに読める静かな不思議を三つの章で案内します。核心は伏せたまま、読む順番の…
タイムスリップの話を既存の体験談から12本選びました。二分進む時計、三十分巻き戻った峠道、押入れの奥に続く商店街など、小さな時間のずれから始まる不思議な話を、核…
崖線の芋穴を改装した焙煎所を取材した冬、店主は毎朝、床を横切る乾いた粉の筋を掃いていた。隣の老女は言う。ほそりさまは袖から入る。店主が冬至の晩に奥の穴を撮った三…
川沿いのマンションで管理員をしている私のタブレットに、毎朝3時14分、住戸のない地下1階から修繕依頼が届く。件名は「開けてください」。地下の点検口は溶接され、1…
亡くなった祖父が夢の水族館へ連れて行く夜。証明写真に並んだ見覚えのない二人。崖でナイフを押さえた手。怖さより温かさが残る心霊ちょっと良い話を14本選び、夢・かた…
去年の10月、飼ってもいない犬の首輪が、鍵をかけた部屋の玄関に置かれていた。前の晩まで、それは車で1時間半離れた祖母の家の納戸にあったはずだ。名前を彫る板には何…
記録的な渇水で、ダム湖の底から沈んだはずの旧道が現れた。護岸の点検に入った私は、泥から突き出た古い杭を数え、その本数を記録の余白に書き込んだ。地元で湖底の帳面と…
去年の11月、県の北端にある神無の谷へ古書の出張買取に入った。奥座敷へ通される前に、この部屋では人の名を呼ばないでくださいと言われた。祠の土台にあった桐の名箱は…
深夜2時57分から3時までの三分間は、番組表の上では何も入っていません。コミュニティFMの当直に入った私は、その三分の確認用録音にだけ低い声が入っていることに気…
去年の4月から今年の6月まで、私は同じ依頼主の単身引越を三度運んだ。そのたびに、伝票に載っていない無地の段ボールが一つ、鍵を開ける前から新しい部屋の玄関に置かれ…
去年の4月から、5歳まで暮らした旧道沿いの町が担当になった。夕方5時の音楽が折り返すと、右手の指の間だけが濡れる。玄関の右端はいつも湿っていて、そこだけ乾かない…
ロープアクセスの現場で、ロープは二本と決まっている。それなのに上で私を見ている相方だけが、代わる代わる三本目のロープを見たと言って現場を離れていった。私には一度…
向渡へ渡る短い橋が架け替えになり、看板屋の私は親柱の写しを引き受けた。石の欠けまで写せたのに、根元のもやい輪だけが新しい柱に付かなかった。工房に預かった輪には、…
湾岸の物流倉庫の四階、E通路の突き当たりに、床を四角く抜いて据えられた丸い石がある。動かせなかったのだと先輩は言い、その前では決して口をきかなかった。ある晩、私…
県境の湯の町の小さなラジオ局で、同僚が録ってきた音に、彼が言った覚えのない一言が入っていた。町の人は誰も驚かず、財布から薄い紙を出して見せる。ヨマセ様に代わりに…
山で道を失った話、いないはずの相手と交わした会話、時間や場所そのものがずれた話、そして一度離れたものが戻ってきた話。説明がつかないまま終わった不思議な体験の実話…
売りに出る前の空き家で寸法を測っていると、廊下の長さと各部屋の内寸が、どうしても畳一枚半ぶん合わなかった。畳の上を白く細いものが這い、私の問いかけに頷くように曲…
二百年続いた変化朝顔の選抜を代行した夏の怖い話。平成八年、遠州の旧家では毎年数百株を蒔き、一株だけを残して残りを畑の隅の捨て地に返していた。抜くときは一声かける…
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