ツーリング

ツーリング

その昔、10歳くらい年上の従兄に聞いた話。

従兄が学生だった頃、バイク仲間数人とツーリングに出かけたらしい。

当時はヘルメットの着用が義務付けられていなかったので、まともにヘルメットを被る人はあまりいなかったようだ。

行きは有名な観光地を目指して順調に進んでいたのだが、素直に幹線を走ったので面白みに欠けると、計画を立てた人物が不評を買ってしまった。

そこで帰りは急遽予定を変更し、ちょっとした林道を抜けて帰ることにしたらしい。

それまでのツーリングでお互いの技術も十分に把握していたのと、行きの単調な運転に不満を感じていた多くのメンバーは、あまり整備状態の良くない荒れた舗装路を突き進みながら帰宅する計画に喜ぶ者が多かった。

路面を見ると、普段一人で運転するならかなりスローペースで進むような状況だったのだが、仲間のペースに合わせるため、誰もが力量ギリギリのハイペースで走っていたらしい。

従兄はそのペースで走るのが正直とても怖かったと言う。

そんな中、先頭を走っていたバイクが何の変哲も無い場所で突然急ブレーキを掛けた。

後続のバイクは油断しきって車間距離も十分に取っていなかったので、先頭のバイクに突っ込むのを避けるため連鎖的にバランスを崩し、ほぼ全員が転倒してスライディングするような形になってしまった。

叫び声と金属やプラスチックなどが、アスファルトに引きずられる不快な音が林道にこだまする。

従兄は最後尾に位置していたのだが、他のメンバーからは少し車間を開けていたので、巻き込まれずに済んだらしい。

ただ、転倒した仲間の中で3番目か4番目を走っていた勇次という人は、従兄が一目見て「これはまずい」と思うような転び方をしていたそうだ。

というのは転んでスライディングしているところに後続のバイクが乗り上げ、その重量をもろに受けたまま舗装路を滑って行くのが見えたからだ。

お互いに安否を気遣いながら、それぞれに悪態をついたり罵ったりしていたのだが、すぐに立ち上がったところを見ると、誰もが軽傷で済んでいたようだった。

勇次はまだ地面に寝ころんでいたのだが、ノロノロと立ち上がろうとしているところだった。

ほぼ全員が立ち上がって「怪我した奴はいないか? 大丈夫か?」と声を掛け合いながら、続けて自分のバイクを起こし始めた時になって異変が起きた。

転倒した時に勇次の体の上に乗っかったバイクは、彼の倒れた場所よりもさらに5メートル程度奥に様々な部品をばら撒きながら横たわっていた。

そのバイクを取りに行った哲也という人が、自分のバイクには目もくれずに勇次の事を凝視したまま、硬直していたのだ。

哲也以外の仲間はみんな勇次を後ろから見る位置にいたので、全員が哲也の凍りついた表情に注目した。

勇次は向こうを向いたまま、忙しなく手を体のあちこちに当てて体の様子を調べている。

まるで何か忘れ物をして体中のポケットを探しているかのような素振りに見えたらしい。

仲間の一人が「おいおい、勇次も哲也も大丈夫か?」と声を掛けた。

哲也はその声でビクッと我に返ると、顔を真っ青にしたまま体がワナワナと震え始めた。

まるで幽霊でも見たような表情だったらしい。

勇次はパタパタと自分の体に手を這わせていたのをやめると、「大丈夫みたいだ…」と不明瞭な声でボソっと答えた。

その後、続けて「でも左目が、左目の調子が悪いみたいだ、目の前が赤くなったり、真っ暗になったりして、何も見えない…」

そう言いながら振り向いた勇次の顔は、左側半分が完全に削り取られていて、眼の部分も完全に無くなっていた。

全員が「うわあぁぁぁ!」と叫び声を上げて後ずさる。

勇次は「うぅ~、目が…。左目が見えない…」と言いながらズルズルと足を引きずってみんなの方へ歩いて来る。

「ゆ、勇次…。お前痛くないのか?」と誰かが震える声で聞くと、

「どうして? 痛くないよ…。痛くないよ…。痛くない…。目が見えない…。うぅ~」そう言いながらズルズルと近寄って来る様は、ホラー映画に出て来るゾンビそのものだったらしい。

目の部分は完全に眼球がすり潰されてしまっていて、目があったと思われる部分からは色々な物が垂れ下がっているような状態だった。

顔面の左側の剥がれた皮膚などが顎のあたりまでベロっと垂れ下がり、骨が露出した上に顎の部分もかなり削り取られてしまっていたので、このような状態ではもう助からないだろうと誰もが思ったそうだ。

勇次はそのまま膝から崩れ落ち、バタリと気を失ってしまった。

そんな勇次を仲間の誰もがどうすることも出来ず、みんなが思考を停止させてしまった。

そこで唯一無傷だった従兄が気を取り直し、林道を抜け最初に出てきた民家に助けを求めて救急車を呼び病院へ行った。

その後、勇次は奇跡的に一命を取り留めたものの、何度も何度も形成手術を受けることになった。

最終的にはどうにか他人が見ても怖くない程度まで修復されたのだが、左目は当然義眼を入れることになってしまったそうだ。

ところがこの勇次という人は全然めげないタイプの剛の者だったらしい。

従兄によると、その後の飲み会の席などでは、女の子の見ている前で義眼をポロっと取って見せ、脅かして楽しんでいたんだとか…。

関連記事

ウェブカメラ

ライブチャットの恐怖体験

数年前のこと。私は田舎を出て八王子のぼろアパートで一人暮らしをしていた。女子大に通いつつ、サークル活動はせずにアパートの近所のファミレスでバイトをする生活だった。ファミ…

森(フリー素材)

模倣

以前、井戸の底のミニハウスと、学生時代の女友達Bに棲みついているモノの話を書いた者です。「巣くうものシリーズ」で纏めてもらっているので、前と同じく説明は省略します(※これまでの…

巨頭オ

男はふとある村の事を思い出した。数年前、一人で旅行した時に立ち寄った小さな旅館のある村。心のこもったもてなしが印象的で、なぜか急に行きたくなった。男は連休に一人で車を走…

林(フリー写真)

お姉ちゃんと鬼ごっこ

神隠しみたいなものに遭ったことがある。小学一年生の夏休みのことだ。実家はいわゆる過疎地にあり、地域には同い年の子が数人しか居なかった。その日は遊べる友達が居なかったので…

津海岸集団水難事件

事件のあらまし1955年7月28日に三重県津市の津市立K中学校の女子生徒36人が、同市中河原海岸で水泳訓練中に溺死した水難事件。女子生徒100名前後の者が一斉に身体の自…

田舎の家(フリー写真)

般若面の女

過去から現在まで続く、因果か何かの話。長いし読み辛いです。ふと思い出して混乱もしているので、整理のために書かせてください。 ※ 私が小学生一年生の夏、北海道の大パパ…

夜のビル街(フリー写真)

呻き声

俺のツレはいわゆる夜中の警備のバイトをしていて、これはそのツレにまつわる話。ある日、そいつが言うには、「何かさ、最近、バイト中に鳴き声がするんだよな」「まあ、近…

友子が二人

一人で繁華街を歩いていると、ガラス張りのカフェ店内の窓際席に一人でいる友子を見つけた。友子の携帯に電話して驚かせようとしたが、友子は電話に気付かない。じっと座り、目を左…

呪詛

相も変わらずこのスレは荒れてるようで。怖い話の怖さとは、それを見聞きする環境にも左右されるのはご存知の通りだと思いますが、現在のスレのような状況では、仮に良質な話が投下されたと…

娘が連れて行かれそうになった話

俺の田舎には土地神様が居るらしい。その土地神様が俺の娘を連れて行くかもしれないとの事。正直、今もどうして良いのか分からない。聞いた時は吹き出した。でも、親父の反…