卓袱台の水の輪はいつも同じ
小学四年の夏、共働きの家で留守番をしていると、知らないお爺さんが居間に座って、勝手に麦茶を飲んでいました。帰ったあとに残るのは、卓袱台の水の輪がひとつだけです。…
小学四年の夏、共働きの家で留守番をしていると、知らないお爺さんが居間に座って、勝手に麦茶を飲んでいました。帰ったあとに残るのは、卓袱台の水の輪がひとつだけです。…
深夜に友人の中古車で出かけた箱根の夜道。動かないラジカセ、背後からの衝撃、突然の腹痛。引き返した家で母が運んできたコーヒーは三つ。近所の女の子と、手放された車を…
四年前の夏、山奥の河原でキャンプをした友人Nと俺は、深夜に廃ホテルへ向かった。非常階段をのぼる女の人影、黄色い白衣の誰か、そして途切れた記憶。廃ホテルで消えた記…
宮上荘では、清掃のカートを廊下の曲がり角の内側に停める決まりでした。理由は誰も言いません。深夜の三階で角が一つ足りなくなり、異世界に迷い込んだのかと思った私に、…
語り部の従姉妹から聞いた、記憶を追って来る女の話。夢の中で幼い頃から少しずつ現在へ近づいてくる、にたにた笑う赤い口紅の女。距離が縮まり、ついに現実に追い付いたと…
幽霊はいない、とAは言いました。光を反射する物体がなければ何も見えないからです。その理屈を確かめに、廃業した山あいの診療所へ入り、ポラロイドで三枚だけ撮りました…
魚沼の柄沢という谷にあった無人駅の便所は、戸の下が五寸だけ空けてありました。除雪の帰りに立ち寄った晩、その隙間から横に並んだ二つの目にじっと見られた男が、三十年…
教会の息子だった頃、ホームヘルパーの田中さんに頼まれて訪ねた古い県営マンション。501号室の老人が、突然、五十代の男の声で話し出しました。エレベーターの異変、駐…
盲腸で入院した中学二年の夜、カーテン越しに聞こえた優しい声は、鉄道の保線をしていたという隣のお爺さんのものだった。退院の日にお婆さんが渡した手紙が、手術前夜の六…
毎朝四時、庭で煙草を吸う私に新聞を渡してくれる高校生がいました。クリスマスの朝から三日のあいだだけ、その子は挨拶をせず、いつもの角を曲がりませんでした。曲がらな…
フリーの調査員だった俺が、出版社の依頼で向かった山奥の廃墟ホテルの調査。噂の事件は記録に存在せず、夜の撮影で、同僚の声が奥の部屋から呼ぶ。壁の色の違う部屋で起き…
子どもの頃からアリス症候群の症状があった自分は、視線を動かせば遠近感を直せるはずだった。大学生のある夜から、右耳の横で女の声がして、ベッドの縁に巨大な青白い顔が…
終電を逃して泊まった鶯谷のホテル。後輩と私は、扉が細く開いた同じ夢を見た。目のない黒髪の女は、眠る後輩の顔に鼻を近づけ、匂いを嗅いでいたという。フロントの男の「…
島根の山あいの奥垣内では、神社の鳥居の前だけは遊んではいけないと決まっていました。だるまさんがころんだの三回目、振り返ると列のいちばん後ろにいた子が消えている。…
研修旅行から帰った友人が、駅前の電話で家に鍵を開けておくよう頼んだのに、玄関は閉まったまま。公衆電話から何度かけても無言の受話器が、最後に「ダレモイナイヨ」とだ…
ネトゲのAさんは、誰にも話していない昇進や友人の骨折を言い当て、引退の夜には無くしたレポートの在りかまで告げて消えた。気の合う人のことが分かってしまう超能力者の…
幼稚園の頃、母に起こされて毎週通った夜のセミナー。暗室の映像、銀はがし、立入禁止の札の先の廊下に並ぶ名前の札。突き当たりのドアには私の名前があり、ドアノブが一斉…
近所のスーパーにいつもいる、いひゃっいひゃっと笑う女。酔った先輩が野菜売り場でからかったその日から、笑い女の声が先輩だけに聞こえるようになりました。無音になると…
霊園の裏手の山道に、公衆電話が一台だけ立っていた。友人が見つけたのは電話機の下の金属板の正の字で、そのときはまだ三画だった。受話器から聞こえた「かあとみ」の意味…
小学六年生の夏休み直前、肝試しで夜の学校に忍び込んだ四人は、三階のトイレで四つの個室がすべて閉まっているのを目にする。バネで勝手に開くはずの扉、鍵のかかっていな…
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