超能力者の苦悩

透視

友人はあるネトゲのギルドに属していたんだが、なかなか人気があり、そこそこの地位を得ていたらしい。

そんな友人はネトゲ内での友人達も多かったのだが、ひと際異彩を放つプレイヤーがいた(仮にAさんとしておく)。

Aさんは対人戦が極めて得意で、ただの熟練者という言葉で片付けられるものではなかったそうだ。

それ以外にも奇妙な発言をしたり急にログアウトしたりするので、『ちょっと電波な人なのかな…』なんて思っていた。

ただ、そういう事を除けば普通に話せる人だったので、そんなに気にしていなかったらしい。

ある日、ギルドのメンバー達でチャットしていた時の事。

Aさんがログインしてすぐ「Bさんおめでとう!」と発言した。

当然メンバーは何の事か解らず、Bさんも「何が?(汗)」と返したのだが、Aさんは「ごめん、何でもない(笑)。それよりアレなんだけどさ~」と自分で流してしまったそうだ。

その日、AさんがログアウトしてすぐBさんから個別チャットがきた。

B「○○さん、ちょっと相談したいことがあるんだけど…」

友人「どうしたの?」

B「今日、Aさんが俺に『おめでとう』って言ったの覚えてる?」

友人「あれでしょ、ログインしてすぐのやつ」

B「うん。…実はさ、俺、今日昇進を確約されたのね」

友人「すごいじゃん、おめでとう!なるほど、だからAさんもお祝いしたんだ」

B「でもこの事は、まだ誰にも話してないんだ。Aさんも知ってる訳が無いんだよ。どういうことなんだろう…」

仮にAさんがBさんの身近な人間だとしても、誰にも言っていない以上判るはずもなく、また、Bさんに昇進を伝えた上司も、ネトゲをやるタイプではないと言う。

Bさんは「ひょっとしてストーカーかも…」と怯えていたが、大した証拠も無しに迂闊なことは言えない。

「ただの偶然じゃないかな?」と宥めておいたが、友人にも心当たりがあったそうだ。

それは以前右手を骨折した時で、やはりAさんがログインしてすぐに「利き手が使えないと不便だよね。色々と(笑)』と言われたらしい。

それで理解した他メンバーが、「あんまり動かないのはそのせいか(笑)」「彼女に○いてもらえ!」と発言し、盛り上がった雰囲気の中でうやむやになってしまったが、友人はぞくりとしたものを感じた。

Aさんは電波な人ではなく、本当にそういう人なのではないか――

実害は無いが気味が悪い。

あれからBさんもログインしている時間が減り、Aさんがログインすると「すみません、ちょっと電話が…」なんて逃げるようになってしまった。

ギルドの雰囲気が微妙に変化していると感じた友人は、何とかしようとギルドマスターに事情を説明して、Aさんと個別に話し合うことにした。

友人「ぶっちゃけて聞きますけど、Aさん、超能力者なんですか?」

A「たぶんそういう括りに入っちゃうんだろうね。超能力(?)は自由に使えないけど」

友人「自由じゃないんですか?」

A「うん、時々勝手に使っちゃうんだよなあ。仲良くなったっていうか…気の合う人のことが、なんとなーく分かるんだ。なんて言ったら良いのかな…」

Aさん曰く、現実では相手の視界や思っていることが、ネトゲでは相手のキャラが変化して見えると言う。

友人の時はキャラの右手が黒く潰れており、Bさんの時はキャラが新しいスーツを着てきたらしい。

友人が「便利だね」と言うと、「便利だけどね、やっぱり分からないものは分からない方がいいんだよ。特に僕みたいに不器用だと、周りとの関係がこじれる」と言われた。

ちなみに対人戦でも、何となく相手の攻撃が読めたと言う。

それから少しして、Aさんはネトゲの引退を宣言した。

「Aさんに悪気は無いのは分かっていたが、それでもホッとしてしまった自分がイヤだった」と友人は言ったが、ギルドの雰囲気は以前のように戻りつつあった。

そして最終日、皆と挨拶を交わすAさんから個別チャットがきた。

Aさんの奇妙な発言をフォローし続けてくれた事への礼と、結局Bさんにも打ち明けたと話し出した。

それまでBさんには誤魔化していたのだが、本当の事を打ち明けると、逆にAさんのことを心配してくれたと言う。

「もっと早く言っておけば良かったな」とAさんは言い、最後に「○○さんの部屋に机あるでしょ。右の上から二段目の引き出しをよく探してごらん」の発言を最後に、ネトゲから居なくなった。

早速二段目の引き出しを漁ると、提出日が迫っていた、無くしたはずのレポートが発見された。

後で知った事だが、Bさんは最後にAさんとメアドを交換していた。

今では一緒に飲みに行く仲だと言う。

関連記事

古民家(フリー写真)

トシ子ちゃん

春というのは、若い人達にとっては希望に満ちた、新しい生命の息吹を感じる季節だろう。 しかし私くらいの年になると、何かざわざわと落ち着かない、それでいて妙に静かな眠りを誘う季節であ…

プラットフォーム

プラットフォームの向こう

小学校低学年の時だから、かなり昔の事になります。 私はその日、母に手を引かれ、遠縁の親戚を訪ねるため駅に来ていました。 まだ見慣れない色とりどりの電車に、私は目を奪われてい…

キジムナー

あまり怖くないが不思議な話をひとつ。 30年くらい前、小学校に行くかいかないかの頃。 父の実家が鹿児島最南端の某島で、爺さんが死んだというので葬式に。 飛行機で沖縄経…

逃げられると思ったのか

勉強もできず、人とのコミュニケーションも下手。 こんな僕は、誰にも必要とされていないんだろう。 家では父のサンドバッグ。暴力はエスカレートして行く。 とても悲しかった…

昔の電話機(フリー画像)

申し申し

家は昔、質屋だった。と言ってもじいちゃんが17歳の頃までだから私は話でしか知らないのだけど、結構面白い話を聞けた。 田舎なのもあるけど、じいちゃんが小学生の頃は幽霊はもちろん神様…

和室(フリー写真)

あき様

私の家は代々旅館を営んでおり、大きな旅館のため私が幼少の頃も両親共に忙しく、会話をした記憶も殆どありませんでした。 店の者が毎日学園まで迎えに来るので、学友と遊びに行く事も出来ず…

ITエリート

某県では次世代を背負って立つITエリートを育てようと、IT教育にたいそう力を入れている。それゆえ、この県の公立学校では、IT教育関連の設備投資に限っては、湯水のように予算を使うことがで…

伊勢神宮参り(宮大工7)

オオカミ様のお社を修理し終わった後の年末。 親方の発案で親方とおかみさん、そして弟子達で年末旅行に行く事になった。 行き先は熱田神宮と伊勢神宮。 かなり遠い所だが、三…

峠(フリー写真)

夢の女と峠の女

俺は幽霊は見たことがないのだけど、夢とそれに関する不可思議な話。 中学3年生くらいの頃から、変な夢を見るようになった。 それは、ショートヘアで白いワンピースを着た二十代くら…

黄泉の国の体験

同窓会の案内が来て、中学生だった当時を懐かしんでいたら思い出したことがある。 この間の夜、ふと目が覚めると目の前に血を流した女の人がいた。 寝ぼけていたし起こされてムカつい…