薄い壁の向こうで鳴る鈴
築四十年の安アパートに越して三日目の夜のことです。薄い壁の向こうから、低い声が聞こえてきました。リン、リリン。鈴を真似たようなその声は、月に一度だけ、壁に口を押…
築四十年の安アパートに越して三日目の夜のことです。薄い壁の向こうから、低い声が聞こえてきました。リン、リリン。鈴を真似たようなその声は、月に一度だけ、壁に口を押…
瀬戸内の窯業の町で、大きなため池が埋め立てられ、広い更地になりました。ため池の跡は絶好の遊び場でしたが、地元の子は誰も真ん中へは行きません。真ん中まで走っていく…
日本海の漁師町へ帰省した夏、兄と僕は引き潮の干潟の彼方に、くねくねと動く白いものを見つけました。双眼鏡で覗いた兄はその夜から変わり果て、祖父は青ざめて駆けてきま…
秋に転校してきた、色の白い少女ゆかり。亡き母の形見のお守りを、いつも大切に胸につけていました。乱暴な同級生が、無理にそれを開いてしまったとき、手紙に記されていた…
目をつぶって三回まわると、私は知らない場所に立っていました。三歳で水族館、五歳で人のいない入り江、中学でひとりきりの四時間目の教室。あの入り江から持ち帰ったジャ…
昭和の終わり、神奈川県の駅ビルで起きた不思議な話です。階段もエスカレーターも使わず、決まった角を曲がるだけで三階から四階へ――再現できる「近道」、七分ずれる柱時…
深夜の雑居ビルでエレベーターの扉が開くと、そこは一階のロビーではなく、夜の野原だった。匂いも、音も、確かにあった。降りなかった私に警備員が漏らした一言が、今も忘…
いなくなった犬や猫が、なぜか必ず見つかる古い空き家があった。塀に抜け道はなく、戸締まりも完全なまま。それでも動物たちは、閉ざされた庭で雨戸を見上げて座っている。…
母の四十九日を終え、五年ぶりに実家へ帰りました。書斎の机の引き出しにあったのは、去年私が贈ったカレンダーを切り刻んだ日付の紙片です。十三枚のうち、一枚だけが上下…
祖父から相続した古い家で、夜ごと枕元に黒く丸い二つの光が浮かぶようになりました。家じゅうを探した私が物置の奥で見つけたのは、色あせた紙に「まりも」と書かれた、黒…
出張で泊まった山あいの古い旅館。夜中、押し入れの闇から青白い手がわらわらと伸びてきたのに、疲れと眠気でどうしても相手にできず、私は無視して眠ってしまいました。必…
山形・鶴岡の古い下宿に住んでいた学生の頃、私は週に二、三度は金縛りにあっていました。ある晩、首の両脇にもっさと降ってきたのは、長い黒髪ではなくアフロのかつらでし…
三河・岡崎の花火師だった爺ちゃんは、打ち上げの朝、必ず空へ「今日は借りるで」と頭を下げる人だった。旅立ったあと、墓の手続きや法事の日にだけ判で押したように降り続…
愛知の常滑で育った私が、中学生だった秋の夕暮れに、寺の脇道で出会った黒い回転する毛の塊。十年後、図書館の妖怪図鑑でその正体を知り、さらに、あの日の門前に残ってい…
学生だった夏に住み込んだ、山あいの湯治宿。毎年訪れる老人の腕には、皮を引き毟ったような痕が数えきれぬほどありました。奥山の眠り窪で眠れば病が消えるといいます。た…
夕暮れの古い鳥居の奥に灯る光をめぐる、不思議な話の実話怪談です。手招きするように灯った淡い光。近づくほど濃くなる靄と、背筋を這う冷たい感覚の正体を、祖母は声をひ…
富山の八尾で風の盆が始まった夜、卒業以来一度も会っていない五人が、示し合わせもせずに同じ石畳へ揃った不思議な話です。輪になると足音だけが六つあり、半年誰も触れて…