夜の古井戸と水を汲む音
夜の古井戸から、誰かが釣瓶で水を汲む音が響く。ダムに沈んだ村跡に建つ道の駅で深夜清掃をする七十代の私が、固く蓋をされた井戸の底に見たのは、嫁いだ頃の若い自分の姿…
夜の古井戸から、誰かが釣瓶で水を汲む音が響く。ダムに沈んだ村跡に建つ道の駅で深夜清掃をする七十代の私が、固く蓋をされた井戸の底に見たのは、嫁いだ頃の若い自分の姿…
三十二年前の初冬、京都の古書店を訪れた白髪の老人が一冊の和綴じ本を置いていった。不思議な話だと思いながら棚の奥に仕舞い続けたが、三十年後のある日、その本に縁のあ…
信州・木曽の山あいの分校で代用教員を務めていた三十代の春、体育倉庫の脇に置かれた藤の編み籠を覗き込んだ私は、眠る白目のない赤子と目が合った。校門にあらわれた老婦…
能登の小さな漁港で出会った時空のおっさんと、後日漁協で見つけた古い写真にまつわる不思議な話。真夏の早朝に起きた、説明のつかない実話体験談。…
夏祭りの帰り道、田んぼの畦道で見知らぬ若い女性に「脇道に入ってはいけません」と声をかけられた小学五年生の私。翌朝、その脇道で別の少年が事故に。あの女性は誰だった…
地方の老舗書店で働いて三十年。閉店間際にかかってきた予約電話の主は、亡くなったはずの少女と同じ名字だった。本屋の取り置きをめぐる、ほんのり怖い不思議な話の体験談…
夜勤明けに毎朝寄っていたコンビニで、私と全く同じ服装の人が、いつも十分前に同じ缶を二本買って消えていた。異世界に住むもう一人の私と、同じ街で生きていた当時の不思…
岐阜・飛騨の山あいに残る旧高山本線の廃トンネル跡で起きた不思議な話。元保線員から聞いた、走らない最終便と紙の上にだけ残った時刻表。鉄道ライターが体験した一夜の実…
県立図書館の閉架書庫で本の差し替えをしていた午後、空気の匂いが急に消えました。天窓の光は灰色から夜の青に変わり、館内から人の気配が消えました。異世界に迷い込んだ…
千葉県湾岸の工業地帯を夜に歩いていた女性が遭遇した、時空のおっさんと十二分の不思議な話。音が消え、信号が固定され、知らない道を歩いていた体験談。…
山梨県の廃集落跡を一人でハイキング中に発見した古い鳥居と低い石扉。開口部の奥から人声のような音に引き寄せられそうになった怖い話。帰宅後に撮影した写真に子供のよう…
夜勤終わりに自転車で走っていたはずの国道が、雪の中で消えた。異世界に迷い込んだようなあの不思議な体験は、今も説明することができない。…
母の入院で通い続けた病院。向かいの病室にいつも白いパジャマの老人がいた。ある日その部屋が空室になり看護師に確認すると、六年間一度も患者が入ったことはないと言われ…
祖父の一周忌で岡山の山間集落に帰省した。長老から「三日間、夜通し囲炉裏の火を絶やすな」と頼まれた。それがどんな怖い話だったのか、今も私はうまく説明できない。実話…
毎月の夜間点検で川向こうの同じ場所に人が立っていた。怖い話として語り継ぐべき実話体験談。祠の写真と葬儀の遺影が重なった夜の記憶。…
北海道の山で遭難し、意識を失いかけた夜、誰かの手が体をさすっていた。後日、救助隊から聞いた話と、雪板に残されたものの意味が、今も忘れられない。不思議な体験談。…
中国地方の山あいの無人駅。終列車を待つ間、駅舎裏の小さな保線通用口を覗いてしまった。這って入った先には、昭和十九年十一月の旧字駅舎が広がっていた。異世界に迷い込…
出張帰りに最終新幹線を逃し、群馬のローカル駅で夜を明かそうとした夜、行き先表示に『終点』とだけ書かれたバスがやって来た。乗り込んだ私が降りた先は、亡くなったはず…
神保町の路地裏にある古い時計修理店で修行を始めた三十二歳の私は、ある日持ち込まれた大正十四年の懐中時計の蓋の裏に、自分の名前と生年月日が刻まれていることに気づい…
輪島で漆器職人として修行を始めた私は、師匠から「乾燥室には勝手に入るな」と言われた。師匠の入院中に工房を守るうちに、乾燥室の扉前に毎朝落ちる白い粉と、止めていた…