二通ずつ届いた手紙
島根の地方紙で投書欄を担当していたころ、山あいの集落から一字一句まったく同じ本文の手紙が、毎回二通ずつ届きました。筆跡はわずかに違い、片方の消印は二十年も前に廃…
島根の地方紙で投書欄を担当していたころ、山あいの集落から一字一句まったく同じ本文の手紙が、毎回二通ずつ届きました。筆跡はわずかに違い、片方の消印は二十年も前に廃…
北海道・室蘭の古い病院で左手首を手術した夜、赤いパジャマの女の子が痛む腕を撫でてくれました。けれど、その病院の小児科は三年前になくなっています。四階の突き当たり…
小学二年の九月、留守番の家で泣いていた私のもとへ、一度も来たことのない叔父が二人だけ訪ねてきました。その日、二人は町役場から一歩も出ていなかったといいます。福岡…
小学五年生の初冬、スクールバスの停留所で動かなくなった子犬を見つけました。校庭の土はどこも固く、掘れたのは体育館の脇だけでした。その日の夕方、同じ模様の子犬が畑…
大晦日の深夜、街道筋の古い家の二階の壁に、白い衣の女がヤモリのように貼り付いていました。真下で聞こえたのは「お前で終わりだ」という声。玄関の柱の木札が一枚しかな…
岐阜の古いトンネルへ、五人が一台の軽自動車で向かいました。抜けたのは三十秒後です。後部座席は三人だったはずが、二人になっていました。坑口の祠の台座にびっしりと並…
柵も看板もない森に、白い紙の帯だけが渡してあります。不良も肝試しの連中も近づかないのに、その紙はいつも新しい。行き場をなくした中学生がそこをくぐった翌週、町の全…
山あいの村で祟りの噂が立ち、寄り合いで生贄という言葉が出ました。その数日後、庄屋の娘が布団に温もりを残したまま消えます。雨戸は閉まり、山にしかない木の葉が一枚だ…
十年近く前、深夜の幹線道路を歩いて帰った夜のことです。バス停ごとの電話ボックスで、受話器はいつも電話機の上に置かれていました。かすかな香水の匂いと、返却口に戻っ…
出雲の斐伊川沿いの町には、人を送り出すときの古い作法が残っています。伯母の家の三和土に置かれた白いスニーカーは、一年が近づいても片付けられませんでした。半年後の…
消灯前の見廻りで、非常階段の踊り場に三歳くらいの子が立っていました。壁を向いたまま、踊り場の点滴台の支柱を掴んでいます。台にはポンプが付いていて、白いテープに七…
母が勤めていた会計事務所では、窓の下の雪だけが毎朝きれいに踏み固められていました。誰がやっているのか、所員の誰も知りません。山へ入ったきり戻らなかったおじいさん…
隣の家の門柱には、庇の下だけ雨のかからない場所があり、そこに青いチョークの丸が三つ残っていました。その子がいなくなった翌年から、丸は毎年ひとつずつ増えました。十…
祖母の家の押し入れの上の段から、古い風呂敷包みが出てきました。中身は祖母の帳面が六冊です。日付はどれも日曜で、私が隣で四百まで数えて待っていた長い時間に、祖母が…
幽霊はいない、とAは言いました。光を反射する物体がなければ何も見えないからです。その理屈を確かめに、廃業した山あいの診療所へ入り、ポラロイドで三枚だけ撮りました…
共働きの両親に代わって俺の世話をしてくれた『佐々間のおばちゃん』。ある日、寝たきりのはずの婆ちゃんが俺を二階に隠し、おばちゃんは日が暮れるまで三度うちを訪ねて来…
友だちの家の廊下の突き当たりに、一枚だけ色の違う壁がありました。負けたくなくて十回叩いた私に聞こえてきたのは、数の増え続ける数え唄です。広島・竹原の塩田の町に残…
広島の山あいの町の小さな公園で、サヨちゃんという子と砂のトンネルを掘った。真ん中で手が触れるはずの距離で、俺の手首を掴んだものがある。彼女はいつも滑り台の裏から…
毎朝四時、庭で煙草を吸う私に新聞を渡してくれる高校生がいました。クリスマスの朝から三日のあいだだけ、その子は挨拶をせず、いつもの角を曲がりませんでした。曲がらな…
田んぼの真ん中にある水神様の祠は、子どもが近づいてはいけない場所でした。夏の晩に幼馴染と入り込むと、空の色が変わり、生い茂っていたはずの草が一本もなくなっていた…