生まれ変わり
物心がつく前から、僕には「前にもここにいた」という口ぐせがあったそうです。母の実家の細い道でだけ、足がすくむ。入ったことのない部屋を、なぜか知っている。やがて祖…
説明のつかない体験をしたことはありますか。偶然とは思えない出来事、夢と現実の境界線、時間が止まったような瞬間——実話をもとにした不思議な体験談を集めました。読み終わった後も、じわじわと余韻が続きます。
物心がつく前から、僕には「前にもここにいた」という口ぐせがあったそうです。母の実家の細い道でだけ、足がすくむ。入ったことのない部屋を、なぜか知っている。やがて祖…
祖母が遺した古い家で暮らしていた頃、二つになる娘は二人きりのとき、私を祖母だけの愛称でそっと呼びました。誰も教えていないはずの古い子守唄、祖母しか知らない昔の出…
家に伝わる決め役という役目。姪の病で実家が土地を手放そうとした夜、母は私に電話をかけたと言います。しかし私は、その電話を取っていません。発信元は、十六年前に解約…
二十年前の秋、城下町の寂しい県道で、俺は見えない壁にぶつかった。透明で、磨いた石のように固い壁。引き返した直後、一台の軽トラックが、何もない道で潰れた。土地が静…
記録的な大雨の夜、神社へ逃げる私の横を、猫を腕いっぱいに抱えたおかっぱの女の子が、次々と大人を追い抜いて石段を駆け上がっていきました。けれどこの町に、知らない子…
塾帰りの歩道橋で、突然すべての車も鳥も枯れ葉さえも静止し、時間が止まりました。目の前に現れた継ぎ目のない灰色の男女は、私を見て「あ」とつぶやき——。小学五年の秋…
終電間際の海沿いの無人駅に、接近放送もないまま十両以上の古い青い列車が音もなく現れました。一両だけ開いた扉の奥は、塗りつぶしたような深い闇でした。北陸本線の霜月…
高熱の地下鉄で記憶が途切れ、気づくと一年後の見知らぬ街に立っていました。染めた髪、知らない服、一文字だけの連絡先、そして見知らぬ鍵。失われた一年をめぐる、この不…
古い文化住宅の共同玄関に置かれた、一台の古い乳母車。眠る赤ん坊の目には、白目がありませんでした。数十年後、母の記憶とまるで食い違う、この不思議な話を、当時のまま…
雨宿りの軒先で出会った、傘も持たない上品な紳士。別れぎわ、彼はわたしに不可解な予言と、片方だけのイヤリング、そして奇妙な紙きれを託しました。Quale は物質に…
小学三年生の夏の夕方、いちばん仲のよかった親友のみおちゃんが言いました。今日の私はほんとうは四十歳なの、と。意味も分からず別れて四十年、自分が四十歳になった朝に…
最終電車で眠り込み、目を覚ますと、終点は、真っ白なドームの駅でした。読めない駅名、灰色の人々、橙色の空。家にも、電話が、つながりません。私が、その異空間から持ち…
占い師に「長くは生きられない」と告げられました。左手を握る、日本のものではない何か。動かないはずの左手でチェロを弾く夢と、肩にそっと置かれる手。予言の年月を越え…
不思議な話。底なし沼を埋めた土地に建つ団地、その裏手の古い防風林には、踏み込むと時間が狂い、人の姿が消える暗がりが点在していました。肝試しで消えた少年が見たもの…
高校の中庭で、世界がぴたりと止まった、あの十秒間。視覚以外の五感がすべて消えたその時を境に、親友との関係も、座席も、自分の記憶までもが、少しずつずれ始めました。…
子どもの頃、炭焼きだった祖父と山へきのこを採りに入った夏。帰り道は正しいのに同じ景色を繰り返し、谷川の音も消え、いつまでも家に着かない。慌てぬ祖父が一本の煙草に…
仕事帰り、行きつけの深夜の古書店へ向かいエレベーターを六階で降りると、視界一面が真っ白だった。匂いも音も消えた空間、灰色の服の男、トオリヌケという言葉、そして消…
早朝、缶コーヒーを買いに出た私を待っていたのは、毒々しい紫色に染まった空でした。見知らぬ自販機、顔のない異形、漂う生臭さ。命からがら家に帰ると、父が静かに口にし…
仕事帰りに電車で寝過ごし、降りた駅は「ゆやみ」という見知らぬ無人駅でした。鳥居、濁った目の老婆、山に灯る提灯、そして手を引く男の子。帰宅後にいくら調べても、その…
祖父の通夜の晩、築百五十年の庄屋屋敷で一人、ガラス張りの奥座敷に通された私。長い廊下を引きずる足音、波打つ襖、共振するガラス。家族はイタチの仕業だと言うが――山…