住所のない開業挨拶状
廃業を控えた活版印刷の老舗をひと月取材した、ライターの私が体験した不思議な話。誰も触れていないのに、夜ごと組まれていく挨拶状の活字。湯呑みはいつも一つ余分。そし…
廃業を控えた活版印刷の老舗をひと月取材した、ライターの私が体験した不思議な話。誰も触れていないのに、夜ごと組まれていく挨拶状の活字。湯呑みはいつも一つ余分。そし…
七十を過ぎて郷土史を学びはじめた私が、市民講座の見学で訪ねた山あいの冬季分校。止まったはずの柱時計が時を刻み、撮った写真の中でだけ机がひとつ増えていた。校舎の中…
長距離トラックの運転手だった私が、先輩から授かった助手席のベルトを締める習慣。三十年欠かさず守ってきたその儀式が、還暦を過ぎたある夜から少しずつ崩れていく。締め…
夏の休暇に、亡き叔母の海辺の家を訪ねた。干潟の人影が、毎夕ひとりずつ沖へ増えていく。土地の者は誰も潟に降りないと言う。淡々と綴る、説明のつかない実話怪談。最後の…
図書館のバイト中、毎朝同じ棚から同じ本が落ちていた。最後に借りた利用者の記録をたどると、退会処理済みの文字があった。…
ゲーム好きだった祖母を亡くした春、孫だけで集まってテトリスを遊びました。選んだ覚えのないレベルから始まり、一度もクリアできたことのない私の指が止まらなくなります…
高校時代、五人組だった私たちは、いつも「もう一人いる」気がしていました。修学旅行の夜、各自が持ち寄ったお菓子を広げると、なぜかビスコが六つ。五人しかいない部屋で…
子どもの頃、友人二人と探検した町はずれの製糸工場の廃墟。その闇の奥から響いた若い女のため息に、私たちは一斉に逃げ出しました。三十年後、家族は口を揃えて言うのです…
製本所の主任、五十嵐さんは誰も写っていない写真を見せてくる。弁当は毎日二段で、出張の土産は必ず三つ。創業五十年の慰労会の帰り、真っ暗な家の奥から軽い足音が走って…
雪深い山あいの古い家で、七歳の私を夜ごと訪れた二つの影。布団の中の顔、窓辺の少女、闇の廊下を歩く裸足の足音、そして夢に伸びてくる冷たい手。守ってくれたのは、一匹…
深夜の商業ビルで警備員をしていた私は、午前三時、屋上を映す監視カメラに白い人影を見つけました。天使だと思おうとしたそれは、夜ごと一階ずつ階段を降り、私のいる警備…
終電間際の海沿いの無人駅に、接近放送もないまま十両以上の古い青い列車が音もなく現れました。一両だけ開いた扉の奥は、塗りつぶしたような深い闇でした。北陸本線の霜月…
母を亡くした幼い子を夜だけ預かっていた私は、ある晩から、誰もいない暗い部屋で笑うその子の声を、聞くようになりました。母はどこから来るのかと問われた幼子が指さした…
毎晩午前四時、郵便受けに焦げた十円玉が入れられる。おみくじ、髪の毛と、供えものは日ごとに不気味さを増していきました。覗き穴に現れた女の顔と、残された一言を描いた…
深夜の帰り道、見慣れた公園の電柱が一本だけ、妙に長く見えました。近づいて気づいたその正体と、向かいの家をいまも覗き続けるものの言い伝えを描いた怖い話です。昼に確…
冬山に単独で挑む同僚が、万一に備えて遺言ビデオを撮ってほしいと頼んできました。半年後、本当に彼は山で亡くなります。初七日に再生したその映像が一変する、背筋の凍る…
山あいの古い民家での合宿の夜、先輩が口にした「霊感テスト」。目を閉じ、実家の窓を順に開け閉めするだけの、他愛もない遊びでした。けれど、その遊びには、やるたびに見…
卒業旅行で訪れた、湖畔の古い別荘。深夜に鳴った黒電話から聞こえたのは、テープを早送りしたように歪んだ、女の声でした。その電話を受けた者から、一人、また一人と。受…
出張で泊まった山あいの古い旅館。夜中、押し入れの闇から青白い手がわらわらと伸びてきたのに、疲れと眠気でどうしても相手にできず、私は無視して眠ってしまいました。必…
学生の頃に住んだ古いアパートで、私は頻繁に金縛りにあいました。ある晩、首筋に触れたのは長い黒髪ではなく、もっさりと両脇に降ってくる感触。頭に浮かんだのは、巨大な…