巡回ログの余った一行
夜間警備のアルバイトを始めて9日目の深夜、俺の端末の巡回ログに、存在しないはずの15番目の記録が現れた。時刻は毎晩少しずつ早まり、担当者の欄だけが空白のまま。郊…
夜間警備のアルバイトを始めて9日目の深夜、俺の端末の巡回ログに、存在しないはずの15番目の記録が現れた。時刻は毎晩少しずつ早まり、担当者の欄だけが空白のまま。郊…
東京の西のはずれで理容室を継いだ私は、父の言いつけで月末の月曜だけ店を早く閉める。棚の桐箱の髪は、仕舞った量より毎月増えていた。夜通し響く櫛の音と、鏡の前で動か…
引き継いだ取り壊し前の団地の伐採現場で、私は名札のクスノキに打たれた札を数えた。打診ハンマーに返る音、日付が先に来ている札、園児の不思議な一言、そして祖父の字。…
晴れた朝の7時10分、マンションの自動ドアを抜けてきた4階の三浦さんは、髪の先から雫を落とすずぶ濡れの住人だった。床は乾いていて、すれ違う誰も気に留めない。3日…
ほんのり怖い話を十二本厳選。古いホテルの廊下、地下の小さな扉、谷に置かれた傘など、叫ばずに読める静かな不思議を三つの章で案内します。核心は伏せたまま、読む順番の…
市役所の臨時職員として、港町の漁協で古い台帳を取り込んでいた。寄り物帳の赤い栞は毎朝ひとつ先へ進み、最後の鉛筆の行には、まだ失くしていない私の持ち物が書かれてい…
夕暮れの突堤に、毎週木曜の17時半だけ現れる名前のない老人がいた。灯油配達の私に、彼は決まって同じことを尋ねる。古い顧客カードを開いた夜、私は自分の家にも空白の…
引っ越し作業員の俺たちは、出発前に必ず点呼の数を確かめる。取り壊し前の団地で最後の一世帯を運んだ日から、荷台の奥で誰かが一拍遅れて数えはじめた。同じマンションか…
信用金庫で働く私の自宅に、席替えアンケートと書かれた切手のない封書が届いた。隣席の主任の名前を書いて返送した後、札を神社の杉に打つよう指示される。その夜の録音に…
空き家の庭木整理で、私は依頼書どおり木守りの柿を最後の一つまで取った。幹に掛かった古い木製の梯子、乾いた土に残る濡れた足跡、隣家の老婆の礼。夕方の写真には、梯子…
閉館後のスポーツクラブで夜間清掃を始めた私は、三番のシャワー室の排水口に、いつも同じ長さの髪が溜まっていることに気づいた。毛先は鋏で切ったように揃い、量は毎晩少…
深夜2時14分、メニューにない鼠の天ぷらの注文が入った。電源を切ったフライヤーからは、油の弾ける音がしていた。作ってもいない品に、星のレビューだけが先に付いた。…
国道沿いの中古スマホ買取店には、触ってはいけない預かり棚があった。一番端の端末だけが、いつも少し温かい。ある夜、防犯カメラの映像に、とっくに退勤したはずの私が映…
病院の売店で、月末の17時40分に台へ出される代わりの湯呑みは、閉店までに熱湯が冷え、翌朝きまって割れていた。入社初日に搬入口で返事をしてしまった私は、店長が去…
去年の六月、雨が上がった晩に入った注文の住所は、地図にない六丁目だった。更地の先に細い道が伸びていて、下りきったところに坂の下の灯りが並んでいた。受け取った人は…
去年の12月、雪の深い小板という町に一人で行きました。宿のおかみは外湯が七つあると言いました。けれど三日目の晩、案内図にない灯りが坂の下に見えたのです。八つ目の…
去年の11月、県の北端にある神無の谷へ古書の出張買取に入った。奥座敷へ通される前に、この部屋では人の名を呼ばないでくださいと言われた。祠の土台にあった桐の名箱は…
去年の4月から、5歳まで暮らした旧道沿いの町が担当になった。夕方5時の音楽が折り返すと、右手の指の間だけが濡れる。玄関の右端はいつも湿っていて、そこだけ乾かない…
六月の第三金曜だけ、給食のトレーに献立表にない緑の団子がのります。この土地ではあそび団子と呼ばれ、奥の小部屋で二人だけが作り、職員には一つも配られません。翌日、…
湾岸の物流倉庫の四階、E通路の突き当たりに、床を四角く抜いて据えられた丸い石がある。動かせなかったのだと先輩は言い、その前では決して口をきかなかった。ある晩、私…
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