新聞配達の子が曲がらなかった角
毎朝四時、庭で煙草を吸う私に新聞を渡してくれる高校生がいました。クリスマスの朝から三日のあいだだけ、その子は挨拶をせず、いつもの角を曲がりませんでした。曲がらな…
毎朝四時、庭で煙草を吸う私に新聞を渡してくれる高校生がいました。クリスマスの朝から三日のあいだだけ、その子は挨拶をせず、いつもの角を曲がりませんでした。曲がらな…
子どもの頃からアリス症候群の症状があった自分は、視線を動かせば遠近感を直せるはずだった。大学生のある夜から、右耳の横で女の声がして、ベッドの縁に巨大な青白い顔が…
終電を逃して泊まった鶯谷のホテル。後輩と私は、扉が細く開いた同じ夢を見た。目のない黒髪の女は、眠る後輩の顔に鼻を近づけ、匂いを嗅いでいたという。フロントの男の「…
島根の山あいの奥垣内では、神社の鳥居の前だけは遊んではいけないと決まっていました。だるまさんがころんだの三回目、振り返ると列のいちばん後ろにいた子が消えている。…
幼稚園の頃、母に起こされて毎週通った夜のセミナー。暗室の映像、銀はがし、立入禁止の札の先の廊下に並ぶ名前の札。突き当たりのドアには私の名前があり、ドアノブが一斉…
近所のスーパーにいつもいる、いひゃっいひゃっと笑う女。酔った先輩が野菜売り場でからかったその日から、笑い女の声が先輩だけに聞こえるようになりました。無音になると…
霊園の裏手の山道に、公衆電話が一台だけ立っていた。友人が見つけたのは電話機の下の金属板の正の字で、そのときはまだ三画だった。受話器から聞こえた「かあとみ」の意味…
冬の夕方の公園で、昔風の女の子に呼び止められた。魚へんに右と書いて何と読むのか、と。家に帰ると姉に塩を撒かれ、梅雨の頃から咳が止まらなくなった。白南天と霊視で一…
中学三年の秋、友人の家の離れには、ドアを挟んで内と外に二枚の札が貼られていました。風の強い晩が明けると、セロハンテープの形だけをきれいに残して、外側のお札が消え…
中学三年の冬、私は間違えた問題のページだけ、解答冊子の角の右上を爪で折る癖がありました。模範解答の誤りに赤ペンで斜線を入れて夕飯から戻ると、赤い線も折り目も消え…
一人暮らしを始めた部屋で、夜になると下からざわつき声が聞こえるようになりました。苦情に行った階下の住人は、同じ声が上から聞こえると言います。天井裏を調べる日の朝…
十条の斜面に建つ柊荘には、どの部屋にも床から三尺の高さに小さな穴がありました。覗くといつも真っ赤です。壁紙だと思っていたその赤の正体に気づく怖い話です。建物はも…
秋田・阿仁川の上流にある笛内という集落では、雪が降る前に、一軒につき一本だけ竹を立てるのだそうです。三十年前のテレビで、その場面だけ音が消えていた理由と、抜いた…
幽体離脱を試していた夜、絵の具をこぼしたような空間に迷い込みました。光の部屋で出会った宇宙人が語る、火星の生き物アクァッホの正体と人類の歴史、ナスカやマヤ、ピラ…
幽霊騒ぎの続く会社の寮で、視える俺と嗅げる人のZが一晩を明かした。胸の上に乗ったのは、頭が野球ボールほどの黄色い服の女。Zのニオイ分析が始まると、幽霊の方が先に…
実家の仏間の戸棚に、髪を納めた箱が一つあります。坊主だった曾祖父が、山を越えた先の村から持ち帰ったものです。村ぐるみで隠されていた業と、藪の中の盛り土から出てき…
真夜中のコンビニ帰り、ビルの隙間にハイヒールの女性が消えた。翌日の昼は、行き止まりの壁。次の夜は子どもが入っていき、暗闇から伸びた手が私の腕を掴む。地図アプリの…
夜道で細く開いた戸から手招きされ、お婆さんに差し出されたのは薄黄色の細い蝋燭でした。愛媛・内子の木蝋の町に残る、蝋燭を置いて次へ回すという作法。断ったはずの掌に…
昼のマンションで、俺は八階のおばさんと運送屋と三人でエレベーターに乗った。箱は一階へ向かわず、七階の赤い空へ扉を開いた。降りた二人は戻らず、管理人は言った。この…
夕方の有線放送で「どう、わかったかな」と問われ、五歳の私はつい返事をしてしまいました。鹿児島・大隅の茶の集落に伝わる、放送に返事をしてはいけないという決まり。そ…
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