住所のない開業挨拶状
廃業を控えた活版印刷の老舗をひと月取材した、ライターの私が体験した不思議な話。誰も触れていないのに、夜ごと組まれていく挨拶状の活字。湯呑みはいつも一つ余分。そし…
廃業を控えた活版印刷の老舗をひと月取材した、ライターの私が体験した不思議な話。誰も触れていないのに、夜ごと組まれていく挨拶状の活字。湯呑みはいつも一つ余分。そし…
霧に閉ざされた夜の磯で帰り道を失った私を導いてくれた、白い犬の不思議な話。濡れていない毛、聞こえない足音、砂に残らない足跡。そして十年前の時化の晩、主人を救って…
七十を過ぎて郷土史を学びはじめた私が、市民講座の見学で訪ねた山あいの冬季分校。止まったはずの柱時計が時を刻み、撮った写真の中でだけ机がひとつ増えていた。校舎の中…
山あいの町の役場の窓口で、雨の日になると、誰も押していないのに番号札がひとつ進む。机の隅に現れるのは、もう人のいない集落への古い転入届だった。毎年ちがう筆跡で、…
霧の濃い早朝、一人で防波堤に釣りに出た私が会った時空のおっさんの不思議な体験談です。数分おきの汽笛も海鳥の声も消えた港に、いつもの赤い灯台はなく、見たことのない…
取り壊しの決まった大学の旧標本室で、番号のない瓶の整理を任された五十代の私。札もなく台帳にも載らないその瓶の底には、膝を抱えた白い影が静かに沈んでいた。夜ごと観…
長距離トラックの運転手だった私が、先輩から授かった助手席のベルトを締める習慣。三十年欠かさず守ってきたその儀式が、還暦を過ぎたある夜から少しずつ崩れていく。締め…
夏の休暇に、亡き叔母の海辺の家を訪ねた。干潟の人影が、毎夕ひとりずつ沖へ増えていく。土地の者は誰も潟に降りないと言う。淡々と綴る、説明のつかない実話怪談。最後の…
昭和の冬、地図にも載らない雪深い湯治宿で、巡回映写技師の私が過ごしたひと冬の怖い話。夜ごと近づく鈴の音、ひとりずつ欠けていく客、触れてはならない宿帳と十三号湯。…
虫送りの火が夏の田を照らす夜、藁の実盛さまには目がなかった。背負って川へ送る私の後ろで、もうひと組の足音が鳴った。振り返ってはならぬ決まりの先で、人形の顔にいつ…
余白の傍注がびっしり詰まった書名なき古書を、亡き学者の蔵書から手元に置いた古書店主。夜ごと読むうち、見覚えのない一行が内心に返事をし始め、その筆跡はやがて自分自…
雪深い町で運転代行を三十年続けてきた私が、ある二月の底冷えする夜に乗せた、古めかしい白髪の老人。久しく動かぬはずの古い車、峠の奥にともる門灯、握らされた古い紙幣…
夜の古井戸から、誰かが釣瓶で水を汲む音が響く。ダムに沈んだ村跡に建つ道の駅で深夜清掃をする七十代の私が、固く蓋をされた井戸の底に見たのは、嫁いだ頃の若い自分の姿…
三十二年前の初冬、京都の古書店を訪れた白髪の老人が一冊の和綴じ本を置いていった。不思議な話だと思いながら棚の奥に仕舞い続けたが、三十年後のある日、その本に縁のあ…
信州・木曽の山あいの分校で代用教員を務めていた三十代の春、体育倉庫の脇に置かれた藤の編み籠を覗き込んだ私は、眠る白目のない赤子と目が合った。校門にあらわれた老婦…
能登の小さな漁港で出会った時空のおっさんと、後日漁協で見つけた古い写真にまつわる不思議な話。真夏の早朝に起きた、説明のつかない実話体験談。…
夏祭りの帰り道、田んぼの畦道で見知らぬ若い女性に「脇道に入ってはいけません」と声をかけられた小学五年生の私。翌朝、その脇道で別の少年が事故に。あの女性は誰だった…
地方の老舗書店で働いて三十年。閉店間際にかかってきた予約電話の主は、亡くなったはずの少女と同じ名字だった。本屋の取り置きをめぐる、ほんのり怖い不思議な話の体験談…
夜勤明けに毎朝寄っていたコンビニで、私と全く同じ服装の人が、いつも十分前に同じ缶を二本買って消えていた。異世界に住むもう一人の私と、同じ街で生きていた当時の不思…
岐阜・飛騨の山あいに残る旧高山本線の廃トンネル跡で起きた不思議な話。元保線員から聞いた、走らない最終便と紙の上にだけ残った時刻表。鉄道ライターが体験した一夜の実…