凪の晩に浜へ来るナギサマ
平成六年の夏の終わり、半島の役場で働く私は、先に逝った母の故郷の漁村で、古い土地台帳に「凪番」という家の役を見つける。凪いだ晩に海の向こうから上がるナギサマ、呼…
夜中に一人で読んではいけない、と分かっていても止まらない。背筋がぞっとする怖い話・ホラー短編をまとめました。実話風の体験談から本格的な怪談まで、幅広い怖い話を揃えています。
平成六年の夏の終わり、半島の役場で働く私は、先に逝った母の故郷の漁村で、古い土地台帳に「凪番」という家の役を見つける。凪いだ晩に海の向こうから上がるナギサマ、呼…
昭和五十七年の秋、川霧の立つ山あいの町で市史を編んでいた私は、丘の祠に納められた木札を写真に撮ってしまった。その晩から、灰色のコートを着た名取りの女が借家の戸や…
昭和の山奥、ダム工事の飯場で働いていた二十歳の夏のことだ。決まりを破って入った夜の裏山で、御神木に古釘を打ちつける女を見てしまった。危険な好奇心が招いた取り返し…
昭和三十三年、谷あいの旧庄屋に泊まった配置薬の行商人は、毎晩だけ運ばれる一人分の膳の謎を追って、灯のともらない中二階へ上がってしまう。封じられた戸の向こうの引っ…
昭和のダム計画で、水に沈む村を一軒ずつ調べていた私たちは、外れの溜池にある、触れてはならない古い石蓋を起こしてしまう。やがて主任は知らぬ名を点呼のように呼び始め…
怖い話。深夜に取材音源を文字起こしする四十代のライターが、二人だけのはずの対談に低く混じる三人目の声に気づく。相づちはやがて録音の中の会話ではなく、いま聞いてい…
怖い話。北国の表具師が亡き師匠の蔵で見つけた黒漆の函には、決して数えてはならない結び目があった。山の向こうへ渡り戻らぬ集落の人々の面影を結いこんだ数え函。数える…
物流倉庫の夜勤で、棚の最上段に立つ作業員の影を見るようになった。誰もいないはずの位置に静かに立つその影は、夜が更けるたびに少しずつこちらへ近づいてくる。防犯カメ…
佐賀県北部の農村の旧街道沿いに並ぶ石地蔵。帰省するたびに数えてきたその数が、いつの間にか増えていた。誰も置いていないのに。実話をもとにした怖い話。…
祖父の一周忌で岡山の山間集落に帰省した。長老から「三日間、夜通し囲炉裏の火を絶やすな」と頼まれた。それがどんな怖い話だったのか、今も私はうまく説明できない。実話…
毎月の夜間点検で川向こうの同じ場所に人が立っていた。怖い話として語り継ぐべき実話体験談。祠の写真と葬儀の遺影が重なった夜の記憶。…
三十年前の出張中、東北の山間集落で車が故障した私は夕暮れの農道を歩いていた。段々畑の中に、片足で腰をくねらせながら近づいてくる、顔の見えない人影がいた。…
父から引き継いだ棚田の水路管理。「向こう岸に何かいても見るな」と言われていたが、ある夜の見回りで向こう岸に人の形をしたものを見た。翌朝、管理していた分水板が一枚…
建て替え前の旧病棟。空室のナースコールが瞬き、担当一覧に知らない名前が混ざる。三時十四分、私のIDで誰かが彼女のカルテを開いていた。…
深夜のタクシー無線に、営業所が出したはずのない配車指示が入るようになった。訪ねた住所はいつも更地だった。『三時台の住所』と呼ばれる怪異を、個人タクシー運転手が淡…
長距離トラック運転手が深夜の峠でエンジントラブルに見舞われた夜、山の斜面に灯りを見つけた。暦は昭和三十八年を示し、老婆は「夜明け前に出ないと外には戻れない」と言…
廃駅での撮影ロケ中、カメラのファインダー越しに奇妙な影を見た。フィルムを現像すると、肉眼では何もなかったはずの場所に、人の形をした影が三つ四つ並んでいた。…
祖父の七回忌で帰省し、遺品整理をしていると古い連絡帳が見つかった。亡くなった人の名前に命日が書き込まれていた。そして最後のページには、自分の名前があった。…
帰省した朝、幼い頃通った商店街が消えていた。地図にも記録にもない。でも古い写真の中には確かにあの商店街がある。地元の老婆が言った。「覚えていると、他のものが消え…
廃線になった長野の山間部の駅跡を取材した写真家が出会った老人。宿で写真を確認すると、老人の影だけが最初から写り込んでいて、しかもその影の向きが太陽と逆方向だった…