貸出カードに増えていく名
平成五年、大学図書館の地下二階の資料保存室で、私は県北の旧家から寄贈された古い蔵書を繕っていた。虫が食って欠けた文字は、規定どおり推定で墨で補う。やがて誰にも貸…
平成五年、大学図書館の地下二階の資料保存室で、私は県北の旧家から寄贈された古い蔵書を繕っていた。虫が食って欠けた文字は、規定どおり推定で墨で補う。やがて誰にも貸…
昭和四十六年、北国の低地の村に赴任した若い駐在巡査が語る田舎の怖い話。圃場整備で沼の古い樋が壊された夜から、戸口に濡れた藁苞が置かれ、撒いたはずの水が桶へ同じだ…
昭和の半島の丘で、県道拡張のため古い石の宮を移すことになった石工の私。掘り起こした据石は、村が「負い石」と呼び、災いを負わせて封じてきた石だった。動かしてはなら…
昭和四十四年の冬、越後の山あいにある分校へ赴任した私は、宿直の明け方に雪を掃く音を聞いた。校庭へまっすぐ伸びる一本の跡、数えるたびに増える教室の扉、名簿に増えた…
昭和末期、北の半島の港町。港の拡張工事で、岬に据えられた古い立石が動かされた。封じの蓋を開けた者の血筋へ、因は順を追って回っていく。石工の私が、幼馴染の一家を襲…
山陰の峠で見知らぬ女を乗せてしまった長距離トラック運転手が体験した、洒落にならない怖い話。カチカチと鳴る音、首すじの継ぎ目、袂に忍ばされた人形の指。港まで先回り…
岬の御堂に置き残された朱の封じ甕をめぐる長編の怖い話。黒い着物の老人が唱えた裏返しの言葉、甕を開けようとした二人の目の異変、そして書き換えられた事故の記憶。移し…
先輩から聞いた禁忌を寮の湯小屋で試した夜、それは来た。お祓いでも離れず、三年にわたり憑かれ続けた男の実話風の怖い話。偽の拝み屋の末路、老師が最後に遺した手紙の警…
秋田の山奥にある築百年の古民家を解体していた大工が、太い大黒柱の中に封じ込められた異様なものを見つける。地元の老人が語った禁忌の意味とは。…
四国の山間の集落で、封印が崩れた八尺様に魅入られた青年の恐怖体験。祖父母と霊媒師の必死の護りの中、一夜を過ごした先に待っていたものとは。…
温泉街から離れた古い宿に泊まった晩の話になる。着いてすぐ襖を開けると、押入れの上の段は空で、布団は下の段にあった。炬燵での金縛り、ぬるい湯、低くなっていく窓の音…
祖母の家の押し入れの上の段から、古い風呂敷包みが出てきました。中身は祖母の帳面が六冊です。日付はどれも日曜で、私が隣で四百まで数えて待っていた長い時間に、祖母が…
広島の山あいの町の小さな公園で、サヨちゃんという子と砂のトンネルを掘った。真ん中で手が触れるはずの距離で、俺の手首を掴んだものがある。彼女はいつも滑り台の裏から…
十年前の夏、実家の近くの寺の蔵から、二つの品が盗まれた。一振りの古い刀と、百五十年前の洪水の翌日に俺の先祖が泥の中から拾った金色の像だった。和尚さんは「縁を持っ…
近所のスーパーにいつもいる、いひゃっいひゃっと笑う女。酔った先輩が野菜売り場でからかったその日から、笑い女の声が先輩だけに聞こえるようになりました。無音になると…
親の実家がある山奥の集落には、山に住む神様を信じる土着信仰があった。大学のレポートでヤマガミ様の存在を否定するつもりだった俺は、七軒の聞き込みと一冊の帳面を手に…
林道で五人が転んだ。起こそうとして数えると、倒れているバイクは六台あった。六台目のバイクは錆びて空気も抜けているのに、引きずった跡が斜面から一本だけ続いていた。…
冬の夕方の公園で、昔風の女の子に呼び止められた。魚へんに右と書いて何と読むのか、と。家に帰ると姉に塩を撒かれ、梅雨の頃から咳が止まらなくなった。白南天と霊視で一…
村の道端にいつも座っていた鎌を持った爺さんを、ある日、近所の夫婦が抱えて井戸まで運んでいきました。投げ込んだのだと思ったまま十年ほど抱えていた記憶は、中学の授業…
静まり返った母校の緑色の廊下で、私はトイレの個室に座っていた。上着のポケットの紙には、自分の筆跡で『ばりばり』と二十回。一番奥の個室から、同じばりばりの音が響く…
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