鎌爺

a23_鋼付カット鎌-2

小学生の頃、田舎に住んでいた時の話。

その村には鎌爺という有名な爺さんがいた。その爺さんは身内の人が面倒を見ているらしいが痴呆症らしく、いつも同じ道端に座っていてボーとしている人だった。

そしていつも手には何故か草刈り用の鎌を持っていた。そのせいでみんなから鎌爺と呼ばれていた。

僕は近くにある百貨店や友人の家に行く時にこの鎌爺の前を通るのが物凄く怖かった。

何せボケているし、その手にはいつも草刈り鎌。いつ襲って来てもおかしくない。

ある日、僕が友達の家の近くで遊んでいた時のこと、激しく車のクラクションを鳴らす音が聞こえてきた。

『なんだろう?』と思い、音の鳴る方を見てみると、軽トラックが道路に停まっていた。

そして道路の真ん中には鎌爺が座っていた。

鎌爺を道路からどかそうとしてクラクションを鳴らしているらしいけど、鎌爺の方はいくらクラクションを鳴らされても動ぜず、ただぼーっとあらぬ方を見ていた。

僕はその様子をしばらく遠くから見ていた。

やがて二人の夫婦が車から降りた。夫婦はこの辺りに住んでいる人らしく、今から畑に行く途中のようだった。

その夫婦は車から降りると鎌爺を二人で抱えた。僕は鎌爺を車の通行の邪魔にならない、端の方に連れていくのだろう…。

と思っていたが、違った。

その夫婦は、鎌爺を抱えると真っ直ぐ僕の方へとやってきた。僕はなんだか少し怖くなり、その夫婦に見つからないように、他人の家の物陰に隠れてその夫婦を見ていた。

その夫婦はトラックの停めているところから少し離れた所にある井戸の所までその鎌爺を抱えて行った。

井戸の所まできて鎌爺を降ろすと夫婦は一息ついた。

僕は何をするつもりだろうとそれを見ていたが、しばらくしてまた鎌爺を持ち上げた。そしてそのまま井戸の中に…。

はっきりとはその瞬間を見ることはできなかった。あまりの恐ろしさに目を逸らしてしまったからだ。

僕は怖くなりその場を逃げ出したかったが、あの夫婦に見つかると自分も井戸の中に放り込まれるのではないかと思い、とにかくその場を動かずにその夫婦がその場を去るのを待っていた。

やがて、その夫婦は何事もなかったように軽トラックに乗り込むとそのままその場所を去った。

それを確認して僕は、走って家に帰り母親にそのことを説明した。しかし、母親は信じてくれなかった。

考えてみれば、昼間の、それも近くに割と民家の密集しているところである。そんなことが白昼堂々行われるとは信じられない。

あまりに唐突な出来事で、僕自身もなんだかいまいち実感がなかったくらいだったし、投げ込まれる瞬間をはっきりと見た訳でもなかった。

結局、僕の言ったことは誰にも信じてもらえなかった。僕もあれはもしかしたら僕の勘違いだったもかも知れないと思うようになった。

井戸に投げ込んだように見えたけど、鎌爺を井戸の脇、僕から見えない位置に置き直しただけじゃないかと。

だけどその日から鎌爺の姿を見ることがなくなった。

何日かして、父親に何気なく「鎌爺はどうしたの?」と聞いてみた。

父親の話だと病気になっていて、今はずっと家で寝たきりらしいそうだ。

僕は鎌爺のことが気になっていて、本当に鎌爺が生きているのか確認したくなり、家に行ってみようと思った。

鎌爺の家は僕の家から歩いて10分ぐらいの距離にあるんだけど、鬱蒼とした森みたいなところにあって、夜には絶対来たくない場所だった。

友達にちょっと見に行かないかと誘ってみたけど用事があるとか何とかで結局誰も誘えなかった。

ここで止めとけば良かったのに、当時の僕は好奇心が旺盛で昼間だし大丈夫かなと思い一人で行くことにした。

普段は大人しくても呆けた老人の行動は読めないので工作に使っていた小刀を一応護衛代わりに持って行くことにした。

父親から鎌爺の家もある場所を聞き、その場所に一人で向かった。

鎌爺の家は、いつも鎌爺が座っていた道端からそう遠くない所にあった。僕は鎌爺の家の前を通り過ぎるふりをしながら中を見てみた。

家は結構大きかった、人の気配がなくてがらんとした感じだった。僕は通り過ぎてしばらく少し離れた所から家の様子を眺めていたが、鎌爺の姿を見ることはできなかった。

しばらくそうして見ていると、見覚えのある軽トラックが、鎌爺の家の方に向かってやってきた。

あの時の軽トラックだった。軽トラックはそのまま鎌爺の家の中に入っていった。

僕はまた引き返して、鎌爺の家の前をまた通り過ぎた。家の中に軽トラックが停めてあった。

そしてあの時、鎌爺を抱えていた夫婦が軽トラックから荷物を降ろしていた。どうやらその夫婦が鎌爺の身内の人らしかった。

一瞬嫌なことが頭をよぎった。もう関わるのはやめようと思い、その日はそのまま家に帰った。

それから何週間か過ぎ、近くに住む同じ学校に通っている2つ上の親戚の子の家に泊まることになった。夜、眠るときに僕はその親戚の子に何気なく「鎌爺って最近見ないね」と言った。

親戚の子は鎌爺のことについて知っていた。今は病気で寝たきりになっているらしい、だけれども鎌爺は最近、夜になると家を抜け出してあちこちうろつくようになっているらしい。

そして、その親戚の子の友人は最近その鎌爺を見たらしい。その友人は夜中に畑のあぜ道で、屈んで何かを食べている鎌爺を見たんだそうだ。

何だろうと思いよくみると、犬を鎌でさばいて食べていたんだという。その友人はそれを見て恐ろしくなって逃げ帰ったそうだ。

その後も、学校中で鎌爺の色々な話は何度か聞いた。元々、怖がられ、気味悪がられていたけれど、夜にうろつくようになり、奇っ怪な行動をするようになり、更に色々な噂を聞くようになった。

学校側や子供達の親は、最初の内はよくある学校の怪談話のようなものだと思っていて、あまり真剣にこの話を聞いてはいなかったが、確かにボケて鎌を持ち歩いているような老人が、夜な夜なうろついているのは危険だと思ったらしく、鎌爺の身内のあの夫婦に、夜中に出歩かせないよう言いに行ったらしい。

そういうことがしばらく続いた跡、その夫婦は引っ越して行った。友達の話だと、鎌爺は病気が悪化して大きな病院に入院することになったらしい。それで、夫婦は病院の近くに住むことになったそうだ。

だけどその後も、鎌爺を夜に見たと言う話は度々聞いた。みんなは、鎌爺がまだ生きていると思っていたが、僕はもう鎌爺が死んでいると思っていた。

何度か井戸の中を覗き込んで、死体がないか確認しようかとも思ったが、僕はあの一件以来、どうしても井戸に近づく気にはなれなかった。もし本当に死体があったらと怖かった。

それから2年くらいして、僕はその村を引っ越すことになった。それから鎌爺がどうなったのかは判らない。

地下の井戸(長編)

これを書いたら、昔の仲間なら俺が誰だか分かると思う。 ばれたら相当やばい。まだ生きてるって知られたら、また探しにかかるだろう。 でも俺が書かなきゃ、あの井戸の存在は闇に葬ら…

廃屋(フリー写真)

人形の右手

私が幼稚園児の頃の話。 幼稚園の隣に木造二階建ての廃屋がありました。 当時の私はその建物(隣接大学の旧校舎らしい)が何なのか判らず、ただ先生の 「あそこで遊んではい…

少年のシルエット(フリー写真)

自称長男

警官をしている友人が、数年前に体験した話。 そいつは高速道路交通警察隊に勤めているのだけど、ある日、他の課の課長から呼び出されたらしい。 内容を聞くと、一週間前にあった東…

山道(フリー素材)

上位の存在

厳密に言うと、この話は俺が「洒落にならない程怖い」と思った体験ではない。 俺の嫁が「洒落にならない程怖い」と思ったであろう話である。 俺の嫁は俗に言う視える人で、俺は全くの…

小屋の二階

俺がまだ大学生だった頃、サークルの仲間と旅行に行った。 メンバーの殆どが貧乏学生だったので、友達に聞いた安い民宿で泊まることにした。 民宿のすぐ隣に古い小屋みたいな建物が建…

学校の校門(フリー背景素材)

ジェニー人形

昔、父親に愛人が居た。 数年後、母にバレて別れる事になったのだが…。 それが原因でその愛人さんは精神的に不安定になり、私や私の姉達の通学路に立って、おかしな言動をするように…

森(フリー写真)

色彩の失われた世界

俺がまだ子供の頃、家の近所には深い森があった。 森の入り口付近は畑と墓場が点在する場所で、畦道の脇にはクヌギやクリの木に混ざって、卒塔婆や苔むした無縁仏が乱雑に並んでいた。 …

抽象的(フリー素材)

ムシャクル様

前職が前職だったので、不思議な話を聞く機会はそれなりにあった。 老若男女問わず、「こんなことがあったんだが、何もしなくて大丈夫か」「あれは一体何だったのか」などを寺に尋ねに来る人…

かんひも

僕の母の実家は、長野の山奥にある。信州新町という町から奥に入って行った所なんですけど。僕がまだ小学校3年生くらいの頃だったかな? その夏休みに、母の実家へ遊びに行ったんですよ。そ…

奇声を発するおっさん

俺はあるマンションに住んでいるんだが、2ヵ月くらい前、真上の部屋に人の善さそうな初老のおっさんが引っ越してきた。 朝にゴミ出しをしていると「おはようございます」と笑顔で挨拶してく…