ばりばり

chimera_strange_dream_dark_III_by_Animalerrant

先日酷く怖い夢を見た。

私は学校にいた。中学校だ。もう随分前に卒業した。これが夢だとすぐに気づいたのは、あまりにも校内がしーんと静まり返っていたからだ。

何より今の自分に中学校に来る用事などない。少々不気味ではあったが、緑色の廊下や歩くとミシミシいう教室は懐かしかった。

しばらくぶらついていると、廊下の隅にあるトイレが目に付いた。

「はは、懐かし」

中学時代の私は胃腸が弱く、授業中にトイレに駆け込むこともしばしばあった。だから、変な言い方だがトイレは結構身近な存在だった。

「キィッ」とドアを開けて中に入る。相変わらず汚い。私はなぜか吸い込まれるように個室に入った。

洋式トイレにどかっと腰を下ろす。

「何で、俺こんなことしてんだ…?」

そこでようやく私は自分の行動の異常さに気づいた。そう、”なんで私は夢の中でトイレの個室なんかに入っているんだ” と。

じわじわと恐怖感が芽生え始めた。

「怖い…怖い! 何で俺トイレなんかに入ってんだよ…!」

軽いパニック状態に陥り、キョロキョロと周りを見回した。すると、動いたはずみでかさっという音が上着のポケットから聞こえた。

何だろうと思って引っ張り出してみると、それは何の変哲もない一枚の紙。くしゃくしゃに丸まっていた。

開いてみる。そこには私の筆跡と思しき字でこう書かれていた。

”ばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばり”

「ばりばり…?」

意味が解らない。元々字が汚い私であるが、そこに書かれている字はそれに輪をかけて汚く、ひどく焦って書いたような印象があった。

首をかしげて疑問符を浮かべていると、一番奥の個室から物音がした。

「!!!」

びっくりした。誰もいないと思っていたのに。音は断続的に続いていた。

自然とそっちに耳を傾けると…、

「ばり…ばりばり、ばりっ…ばりばり」

心臓が飛び出るかと思った。ばりばり…紙に書いてあったのはこのことだ。

でも、この音源がなぜあるのかは全く見当がつかなかった。ただ言えることは、なにか軽い感じの音ではなく、なんとなく重い感じの音だった。

私は今すぐ逃げ出したい気持ちだったのに、どういう訳か壁をよじ登って上から音源の個室を覗き見ることにした。もちろん細心の注意を払って音一つたてないようにだ。

私は見た。私の個室からは隣の隣に位置するため、すべて見ることは出来なかったが、音源が人間であることは分かった。それも女の子だ。黒髪の。おかっぱで。

そう、まるでみんながイメージする ”トイレの花子さん” そのまんまだ。髪の毛が邪魔で何をしているかは分からなかったが、そいつが何やら頭を上下に動かすたびにまたあの「ばり、ばり」という音が響いた。

私は自分でも驚いたが、信じられないほどの勇気を持って更に身を乗り出した。そこで私は見た。

少女が、人間の生首を頭蓋骨からばりばりと食ってるのを…私は絶叫した!

『もうなりふりかまっていられない!殺される!』

ドアを蹴破って個室を飛び出した。足がもつれて男性用便器に激突したがそれどころじゃない!

振り向けば一番奥の個室が薄く開き始めていた。

『やばいやばいやばいやばいやばい!!!』

全力疾走。トイレを出て階段を目指す。母校だけあって校内の地理は完璧だった。自分がいるのは地上三階。3段、4段飛ばして階段を駆け下りる。すぐに一階にたどり着いた。

そこで私は異様な光景を見た。

下駄箱には片足の無い少年や、和服姿の女の子、そのほかにも妖怪のような気持ちの悪いやつらがうようよしていた。

でも、そいつらは私を珍しがっていたようだが敵意は無さそうで、すぐに襲いかかってくるような気配はなかった。私はほっと安心する間もなく、校庭に出る扉に飛びついた。

一つ目の扉にはカギがかかっていて開かなかった。二つ目も三つ目も、四つ目にもカギがかかっていたのだが、これだけ内カギのような仕様で、ひねれば簡単に開くカギだった。開けるなり、また蹴破るように外に飛び出した。

「やった!助かった!」

『やった、助かった…?』自分で言ってなんだか変な感じがした。何で外に出ただけで助かったなんて言えるのだろうか。ここにきてやっと私は思い出した。

「…俺、この夢見たことある…」

そう、前に一度だけこれと同じ夢を見たことがある。あのばりばりというメッセージも前の夢で自分が書いたものなのだろう。

この扉を出てすぐ右手にフェンスを切り取って作ったような簡単なドアがある。前の夢では、そこを出た瞬間に目が覚めたのだ。

だから、ゴールが近いということを知っていたから「助かった」などと言ったのだ。例えばりばりが追っかけてきたとしても、ダッシュで走ればもう追いつかれないという自信すらあった。

そう思って、私は扉の方を見た。

絶句した。

私が通っていたころのその扉は常時開け放たれていた。それなのに今は閉まった状態であり、おまけにごつい錠前までしてあった。

「うそ…うそうそウソだろふざけんなっ!!!」

私はすっかり忘れていたのだ。最近小学校や中学校も物騒になってきており、登下校時間以外は全ての門を閉めておくことになっていたのだ。

私が前にこの夢を見たときにはそんな規則はまだなかった。だから門はいつも開いていた。私はどうして良いか全く分からず、天を仰ぎ見た。すると、トイレの窓から誰かがこちらを見つめているのに気がついた。

ばりばりと目が合った。

鳥肌がぶわっとたった。全身の毛穴が開く感じ。背筋が凍ったような気がして、体温も急激に下がっていった。

「逃げなきゃ!逃げなきゃ!逃げなきゃ!」

私はとにかく走った。あいつから少しでも離れなきゃいけなかった。そこで私は思い出した。

たしか給食センターの車が入る門がある。あれはかなり低いのでよじ登ることだってできるだろう。

そこへ向かってがむしゃらに走った。確かめてはいないが、すぐ後ろにばりばりがいるってことが何となく分かった。しかも自分より速い。

50メートルもしないうちに追いつかれるような勢いだった。もうここからは感覚というものが殆ど無かった。

ただ走って、門が見えて、それを全身で這うようにして登った。最後は転がり込むように門の外へ身を投げ出した。

「助かった。今度こそ」

そう思った。訳もなく。ただ絶対自分は助かったという安心感があった。

私は視線を外から学校へと向けた。ばりばりとの距離がどれだけ縮まっていたのか確かめておきたかった。振り向いた瞬間、私は再び肝を冷やした。

ばりばりとの距離は無きに等しかった。もう目と鼻の先にあいつがいた。私の頭蓋骨を両手で掴み取らんとばかりに、これでもかと伸ばした状態で固まっていた。そしてあいつはこう言った。

「今度は殺せると思ったのに」

そこで私は目が覚めた。

当然のごとく全身は汗びっしょり軽くめまいすらした。起きて私がした行動は、この夢を忘れないようにノートにメモを取ること。あまりにも怖い夢だったので後で誰かに話したかったのだ。

しかしメモなんて滅多にしたことないのですぐにノートは見つからなかった。本棚の奥にあった古びたノートをやっと見つけ、開いた瞬間また私は絶句した。

”ばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばりばり”

ノートの最後のページには確かにそう書いてあった。私は恐怖のあまりしばらく動けなかった。

一度目の夢は殆ど記憶にないが、割と楽に逃げ切れた気がする。二度目は今話した通りだ。でも三度目は…考えただけでぞっとする。

はっきり言って今度またあの夢を見たら逃げ切れる自信はない。

もし今後、新聞か何かで ”寝たまま死んでしまった人” なんて記事があったら、それはもしかしたら私かもしれない。絶対そんなことは起きて欲しくないけど。

養鶏場(フリー素材)

ヒギョウさま

今はもう廃業していますが、私の母方の実家は島根で養鶏場をしていました。 毎年夏休みになると、母親と姉、弟、私の4人で帰省していました。父は仕事が休めず、毎年家に残っていました。 …

異世界で過ごした日々

これまで3回ほど異世界に行ったことがあります。 1回目は多分、9歳か10歳の頃。2回目は23歳の頃、3回目は10年前の36歳の頃でした。 あの世界に行くのはいつも決まって、…

公園(フリー背景素材)

七人の神様

結婚してすぐ夫の転勤で北海道へ引っ越した。 知り合いも居らず、気持ちが沈んだ状態でいたある日のこと。 何となく友達の言っていた話を思い出し、それを反芻しながら道を歩いてい…

イエンガミ

先日亡くなった友人(暗子)が実は生きていて、暗子を助けようとしていた友人(陽子)が行方不明になった…という出来事がありました。 心霊系の話ではないし、かなり長くなります。そして最…

エレベーターのボタン(フリー写真)

走って来る人影

その日は仕事帰りに買い物のため、自宅近くのショッピングモールに寄りました。 時刻は20時過ぎだったと思います。 そのショッピングモールは、デパートと言うには小さ過ぎる地方の…

坊主斬り

飢饉の年の事である。 草木は枯れ果て、飢えのために死ぬものが相次いだ。 食人が横行し、死人の肉の貸し借りさえ行われる有様だった。 ある日、寺の住職が庄屋の家の法事に招…

日本人形(フリー画像)

ばあちゃんの人形

母から聞いた本当にあった話。肉親の話だから嘘ではないと思う。 母の昔の記憶だから、多少曖昧なところはあるかもしれないけど。 ※ 母がまだ子供の頃、遊んで家に帰って来たら居間の…

天使(フリー素材)

お告げ

私は全く覚えていないのだが、時々お告げじみた事をするらしい。 最初は学生の頃。 提出するレポートが完成間近の時にワープロがクラッシュ。 残り三日程でもう一度書き上げな…

妖怪カラコロ

専門学生の頃に深夜専門でコンビニのアルバイトをしていた時の話。 ある日の午前1時頃に駐車場の掃除をしていると、道路を挟んだ向こう側の方から何か乾いた物を引き摺るような、 「…

広島県F市某町の『お札の家』

2年程前の話ですが、つい最近完結した話があるので書いていこうと思います。 長くなりそうで申し訳ないのですが、霊感0の自分が唯一味わった霊体験です。 広島県F市某町、地元の人…