休職して帰郷する夜、乗り換えるはずのない山中の無人駅に降ろされた。唸り声しか出さない古い制服の駅員。祭囃子の鳴る誰もいない集落。義足の老人が手帳に書いてくれた地…
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製本所の主任、五十嵐さんは誰も写っていない写真を見せてくる。弁当は毎日二段で、出張の土産は必ず三つ。創業五十年の慰労会の帰り、真っ暗な家の奥から軽い足音が走って…
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高校二年の夏、廃校になった分校にひとりで泊まった郡司が消えました。翌朝かけた電話は繋がり、向こうからものすごい風の音がした。しかし携帯は寝袋の中にあった。二十年…
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九月の初め、東北の遠い親戚を訪ねました。熱帯魚好きのお父さんと畑へ向かう途中、小屋で生まれたばかりの子犬たちを見つけます。ところが最後に生まれた一匹だけ、顔が人…
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物心がつく前から、僕には「前にもここにいた」という口ぐせがあったそうです。母の実家の細い道でだけ、足がすくむ。入ったことのない部屋を、なぜか知っている。やがて祖…
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祖母が遺した古い家で暮らしていた頃、二つになる娘は二人きりのとき、私を祖母だけの愛称でそっと呼びました。誰も教えていないはずの古い子守唄、祖母しか知らない昔の出…
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廃業した古い個人医院を改装した学習塾での話です。真夏でも冷える奥の教室、日ごとに濃くなる消毒液の匂い、誰もいない部屋から響く子どもの咳。ある夜、頼れる先輩講師に…
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雨の日、ずぶ濡れの男が玄関に立ち、この家には悪いものが憑いていると告げて去りました。その日から一家を順に襲う、次々と持っていかれる災い。山あいの古い農家と屋敷神…
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風邪で家に一人きりの昼下がり、警察を名乗る男が玄関の外に立っていました。戸を開けようとした瞬間、誰もいないはずの背後から聞こえた、しわがれた声。城下町の古い平屋…
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雪深い山あいの古い家で、七歳の私を夜ごと訪れた二つの影。布団の中の顔、窓辺の少女、闇の廊下を歩く裸足の足音、そして夢に伸びてくる冷たい手。守ってくれたのは、一匹…
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北東北の寒村に残る土着のイタコを録音するため、私は年に三日だけの大祭に立ち会いました。場所と日が揃わねば口を開かない理由、そして白い布で目を覆い続ける理由。禁を…
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山陰の谷にひっそりと残る十七戸の集落に、奇妙な子守唄が伝わっていました。目ん玉でんぐりがえして寝ろ、と歌うその意味を、私は裏山が薄い緑に光る夜に思い知ります。ね…
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机の天板がすべて液晶になった、八千万円の教室。まばたきの減っていく子どもたち、誰も座っていないはずの一台、そして電源を落とした画面に残る白い像。養護教諭の目を通…
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家に伝わる決め役という役目。姪の病で実家が土地を手放そうとした夜、母は私に電話をかけたと言います。しかし私は、その電話を取っていません。発信元は、十六年前に解約…
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成績だけで生徒を差別する担任教師から、二年間ずっと嫌がらせを受け続けた同級生の澪さん。いつも笑っていた彼女が卒業の日に呟いた「ぜんぶ、返すから」という言葉。その…
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小学生の夏、緑地公園で体長十三・五センチのトノサマバッタを捕まえた。学校はすぐに標本を撤去し「気にしないように」と告げた。十数年後、両親から捕獲場所の真実を聞い…
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鏡に映った自分の目を見つめ、「お前は誰だ」と問いかける。ただそれだけのまじないに、悪友の修二はのめり込んでいった。やがて電話越しに聞こえたのは、聞き覚えのない平…
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苦手だった実家の犬ゴン。その犬が世を去って数年後、深い眠りの中で夢に現れ、私にある宣告を残した。目覚めると天井はやけに高く、隣には見知らぬ男が眠り、鏡には一匹の…
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米国政治史に燦然と輝くケネディー家であるが、ジョン・F・ケネディ大統領の暗殺に続き、弟のロバート・ケネディも大統領候補指名選中に暗殺されたことを始めとして、その…
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甲府盆地の外れで借りた元養蚕農家の納屋から、昭和六年の手書きの見積書が七枚出てきました。家の傷む順番も、下三桁の金額も、六十年前の紙と静かに重なっていきます。順…
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