二度鳴る瀬渡しの汽笛
船頭から聞いた海の怖い話。紀伊半島の南、瀬渡し船でしか上がれない独立磯で、上がりを知らせる汽笛は二度鳴る。一度目で立つなと言われた午後、暦にない干潮が始まり、対…
2ch・5chで語り継がれてきた、洒落にならないほど怖い話——「洒落怖」の世界へようこそ。読み始めたら最後まで目を離せない、本格的なホラー体験談を集めました。
船頭から聞いた海の怖い話。紀伊半島の南、瀬渡し船でしか上がれない独立磯で、上がりを知らせる汽笛は二度鳴る。一度目で立つなと言われた午後、暦にない干潮が始まり、対…
存在しないはずの京都の路地が、雨の日に一度だけ口を開ける。蔵書目録を編む仕事をしていた私が、平成三年の西陣で見つけた一冊の細見図。その見返しには、どの地図にも載…
平成五年の台風のあと、損害調査員の女性が丹後の在で体験した不思議な話です。十九戸のはずの集落で、三人が三つの違う屋号で同じ一軒を指し、段丘の下の草には二十枚の軒…
昭和四十二年、越中の常願寺川で堤を下げる工事があり、私は曳き家の職人として蓑輪という在の十一戸を建ったまま動かした。更地には畳の目が乾いたまま残り、曳いた先の家…
六年前の秋、記録的な渇水でダム湖の水位が二十メートル下がり、沈んだ村の旧道と渡し場の三十七段の石段が湖底から現れました。渇いた年を彫り継ぐ石の標柱、欄干に固結び…
昭和四十四年の日向の山あいで飯場の賄いをしていた私は、夜神楽の晩に番付のない三十四枚目の面が舞われるのを見た。田舎の怖い話として残る椎ノ迫の留の正体と、握り飯が…
昭和三十九年の夏、東京の場末で映画看板を描いていた私に起きた怖い話。下絵に見覚えのない顔が混じり、白く塗り潰すたび、その顔の人が町から姿を消していく。旅一座の書…
昭和五十八年の秋、美濃の山あいで板場三年目だった私が兄弟子と山の在へ膳を運んだ怖い話です。谷を挟んだ二つの在は互いを鏡と呼び、片方が水の下に沈んだあとも向かい膳…
昭和六十三年の秋、瀬戸内の無人島の石切場跡で記録調査に加わった写真係の怖い話です。城へ渡らぬまま残された石には宛名の刻紋が彫られたまま、平場には水の溜まらない筋…
平成十二年の冬、東北の山奥の湯治宿で湯守をしていた男が語る怖い話。引いてはならないと言われた留め湯が業者に持ち出された朝から、源泉の温度計も脱衣所の鏡も深夜の廊…
昭和二十八年の秋、種屋のわたしは四国の在で砂糖しめ小屋を一晩借り、立冬の夜に一人で釜を焚いた。この在では火を借りるとき必ず名を言う。その教えを忘れた晩から、甘い…
平成四年の雪深い城下町。郵便配達の私は軒の途切れた「あき」で雪の中に立つ女に懐炉をひとつ手渡した。雁木の下で知らぬ人に物を渡してはならない。町の古い決まりを破っ…
昭和五十一年、城下町の電話局で度数計の数字を読み写す仕事に就いた。誰も加入していない空き番号の計器だけが、毎月七ずつ増えていく。更衣室のロッカーは一つ減り、記念…
昭和四十三年の夏の終わり、蜂を追って分水嶺を越えた養蜂家が迷い込んだのは、菜の花と藤と蕎麦が同時に咲く谷だった。異世界に行った話として書き残しておく。灰色の蜜は…
深夜の品出しのアルバイトで、俺と先輩は同じ紺のエプロンを着て、地下に残る旧魚市場の氷室へ降りた。だが石段を上がってきたのは一人だけだった。顔を笠で隠し名前も呼ば…
昭和七年の六月、上州の蚕の町で白い麻に名を一つ縫った和裁士の怖い話。雨も降らぬ夜に屋根裏で桑を食む音がして、朝ごとに針目が二寸進み、七十七段の石段が帰りは六十九…
駅の地下二階にある遺失物取扱所を舞台にした怖い話。どの駅からも届いていない番号札のない鼠色の包みに、彫られた名前が毎日入れ替わる真鍮の札が入っていた。規定どおり…
平成五年、大学図書館の地下二階の資料保存室で、私は県北の旧家から寄贈された古い蔵書を繕っていた。虫が食って欠けた文字は、規定どおり推定で墨で補う。やがて誰にも貸…
昭和四十六年、北国の低地の村に赴任した若い駐在巡査が語る田舎の怖い話。圃場整備で沼の古い樋が壊された夜から、戸口に濡れた藁苞が置かれ、撒いたはずの水が桶へ同じだ…
昭和三十三年の秋、巡回映写技師の私は干拓が完工したばかりの有明の集落で野外映写会を開いた。癖で客の頭を数えると、村の人数より三つ多い。潮入れをやめた土地で、幕の…