巣くうもの
公開日: 巣くうものシリーズ | 死ぬ程洒落にならない怖い話 | 長編
何年か前にあった怖い話を投稿します。
当時の俺は地方大学の学生で、同じ科の連中とグループでよく遊んでいた。偶に混ざる奴もいて、男4~6人で女4人。
一人暮らしの奴の部屋に集まって飲んでいると、よく怪談をしたがる女の子がいた。
決まって嫌な顔をする子もいて、その子を仮にAとする。この子が俺とかなり仲が良かった。
怪談好きな方をBとするが、Bも別に電波系などではなくて、怪談も体験談ではなくネットで得たような怖い話をする子。本当は幽霊も信じていなさそうだった。
寧ろAの方が「視えるんだ」と言っていて、AはいつもBを避けている感じだった。2人で遊ぶことは絶対に無いし、グループでもBとは距離を開けたがっている様子。
俺ともう一人、Aの「視える」を聞いて信じている奴(Cとする)は、『本当に霊感があったら、遊びで怪談するなんて嫌なのかもしれない』と思っていた。
※
ある日、Bと仲の良い男の一人が心霊スポットの話を仕入れて来た。
車で30分程で行ける場所にあるそうで、Bも他の連中も面白がり、その場で肝試しツアー決定。
その場に来ていない他の連中も呼び出そうということになって、俺はAに電話した。
俺自身は行く気だったけど、Aは来ないだろうな…と思い、
「これから○○の辺りに行くってことになったんだ。ただ肝試しだし、他にも来ない奴いると思うし」
と言った。そしたら、Aは遮るように
「それって、何か大きな空き家のこと? その辺りで肝試しって」
「あ、そう。その家の裏に何かあるらしいから」
「………よした方が良くない? ってか、やめなよ。誰かの家で飲んで怪談したらいいじゃん。わざわざ行かなくても」
よりによってAに怪談話を勧められて少し驚いたが、仲間たちは既にノリノリで準備中。
「いや……みんな行く気だし。Aは気が進まないなら、今回は外していいと思うけど」
するとAは少し黙って、
「………Bは行くの?」
「行くよ。一番、やる気満々だし」
「……そうなんだ……じゃ、私も行くから、ちょっと待ってて」
たまげたことにAは本当にその場に来て、Bと一緒に車に乗った。
結局来られない奴もいて、総勢6人で一台のワゴンに乗って出発した。
※
Bは少し空気が読めないところがあって、Aに距離を置かれているのもあまり解っていないらしく、初めは車中で面白そうにお喋りし続けていたが、すぐに欠伸をし始めた。
「バイトとかで疲れてんのかなー。眠い~」
眠そうに呟くBに、Aが
「寝てなよ。着いたら起こしたげる」
「ありがと。ごめん、少しだけ寝る」
Bは運転している奴に断ってうとうとし始め、Aは黙って窓の外を見ていた。
※
現場に着いてもBは起きず、もはや完全に爆睡していた。
「寝かしとく?」
と俺らが顔を見合わせたら、Aが
「連れてくね。後で怒るよ、置いてったら」
とBを担ぎ起こして、強引に車から出したんだよ。
仕方がないからCが背負ってやったんだけど、AはBの手を掴んでいて、他の車の奴らが降りて来たら一番先頭に立って歩いて行った。
※
そこにあった古い家は普通に不気味な空き家で、みんなは結構盛り上がって「うわー」などと言っていた。
Bは起きないまま。AはBの手を掴んだまま。
いよいよ本番で、家の後ろに回ったら何かぽつんと古井戸みたいなものがあった。
近寄って覗いて見ると、乾いた井戸の中に小さな和式の人形の家みたいなものが見えた。
「何だー?」と一人が身を乗り出したのと、Aが
「下がってっ!」と叫んだのが同時だった。
覗いた奴がびびって身体引っ込めたそのすぐ後に、「カシャ……」「ズシャ……」といった、何か金属音のような小さな音がした。
「下がって!下がって!こっち来てっ!」
Aが喚き出すまでもなく、もう何か凄く嫌な感じで一杯だった。
「カシャカシャ」「ガシャズシャ」と変な金属音が、しかもどんどん増えながら近付いて来るんだよ。
その訳が解らない井戸の中から、こっちに向かって…。
もう逃げたいのに身体が動かず、横を見たら案の定仲間がヘタっているし、その間も音は近付いて来ていて、姿は見えないが絶対に何かいたと思う。
「○○(俺)君、もっとこっち来て!!!!」
Aが怒鳴りながら俺の手を掴み、何かを掴ませた。
俺が掴んだのを見たAは、今度は少し横でヘタっている奴を必死で引っ張って、また何かを掴ませている。
と言うか、よく見たら俺が掴んでいるのはBの右足。さっきの奴が掴んだのはBの左手。
Bの右手はAが掴んでいる。Cは相変わらずBをおぶっている。AはBから手を離さず、必死に他の仲間を引っ張り寄せていた。
※
その後のことは、色々とよく解らなかった。
ただはっきり覚えているのは、気が付いたら目の前に何かがいたこと。
白かグレーか透明の、煙なのか人影なのかよく分からない「何か」が俺らの前にいた。
ちょうどその辺りから「ガシャガシャガシャガシャガシャ」「ズシャズシャズシャズシャズシャ」というような金属音が耳一杯に響いてきていた。
いや、こう書くとその煙みたいなものが金属音を立てていたみたいだけど、そうではなかった。
俺らは「煙か人影みたいなもの」の背中を見ていて、それが「見えない金属音の奴」とぶつかり合って止めている…そういう光景だった。
「俺君、C君、動ける? 逃げよ!!早く逃げようよ!」
Aがそう叫び、俺らは必死で身体を動かして車へ向かい、何とか乗り込んで逃げ出した。
Cがハンドルを握る車の中で俺が振り返った時はもう何も見えなかったけど、金属音だけは結構長いこと耳に残っていた。
その後、帰り着くまでずっと爆睡していたBに「何も出なかったから起こさなかった」と説明して帰らせた後、みんなで震えながら明け方まで飲んだ。
※
数日後にAを掴まえて経緯を聞いたら、げんなりした顔で色々教えてくれた。
あの古井戸がマジで危ない本物だったのは予想通り。
「家の正面にいる分には大丈夫だけど、裏に回って井戸まで見たらダメ」
とのことだった。
問題は俺らを助けてくれた妙な影なんだけど、Aは凄く嫌な顔で、
「あれはBの……何ていうか、憑いてるものなの」
と言った。
AがBを避けてたのは、嫌いだからではないとのことだった。
ただBに纏わり憑いているものがいて、それが凄く強くて薄気味悪いものだったそうだ。
初めはBに取り憑いている霊かと考えたが、どうしても違和感があり…。ある日、Bから出てくる『それ』を見て、不意に気付いたのだそうだ。
『それ』は『Bの中』にいるのだと。
「……Bがあれのいる世界に繋がってて出入り口になってるのか、それともB自体があれの棲む場所なのか、どっちかだと思う」
Aもよくは解らないようで、とにかくそれはBから出てきてまた戻って行くのだと言っていた。
他の霊的なものは全部Bを避けるそうで、多分あれのせいで近寄れないのだとも。
「あれは私たちを守ったんじゃないし、Bのことも大事だとかじゃないと思う。ただ、ドアとか家が壊れたら困るでしょ。だから…。
何とかした方が良いのかと思っても、Bは本気では霊を信じていないようだったし、普通の霊じゃないから祓えるとも思えなかった。
だから放って置いたけど、自分は近寄りたくなかったんだ」
とAは言った。
ただ、『それ』がBを深刻な危険から守っているのは知っていた。
そしてあの日、俺らが本当に危ない場所に行くと感じ、止められないならBの中にいる『それ』に守ってもらうしかないと考えてついて来たのだと言う。
「あれが守るのはBだけだからね。少しでも離れたら、井戸から来ていた方に憑かれて人生終わってたよ。○○君も、他のみんなも」
そう言われて背筋が寒くなったのを紛らわそうとして、
「……でも、何だろうな? Bに憑いてるのって。結構よくないか? 結局守ってくれるんなら」
そう言ったら、Aは羨むような蔑むような複雑な眼を向けてきた。
「あのね○○君。お腹に棲みついた寄生虫が孵化するまでは守ってくれるって言ったら、それって嬉しい?」
「……」
……何となく、言いたいことが解った。
Bに巣くっているモノは、とにかく自分だけの都合でBの中に居座ったり顔を出したりする訳で、ひょっとしたらBから何かを奪っているのかも知れない訳で…。
いつか自分の都合でBをぶち破って出て行ったりするかもしれない訳で、その時には周りにも影響するかもしれない訳で、しかもBは本気で何一つ気付いていない訳で。
「放っとくしかないんだよね」
そう言ってAは溜め息を吐いた。
「井戸から出てきた方も、凄かった。神様が最悪の状態になったみたいな感じだった。
並みの霊能者とかじゃ負けちゃうだろうって思うくらいの奴だった。
あんなのと渡り合えるBの『あれ』も、どうせ何やってもどうもできない」
※
それから時間が経って、俺もAもBも社会人。
ふと思い出したのでここに書き込みました。
理由はBから連絡があったから。
結婚した上に子供も生まれ、元気にやっているそうです。
Aに電話してそう言ったら、
「Bが寿命になるまで、あれが大人しくしてくれたら、それが一番いいよね」
と言っていたところからして、AはBが今もあれを背負っていると確信しているようです。
普通の霊と違う、そして人間の中にいる『何か』って、何なんでしょうね?
いや、井戸の底のミニハウスから来た金属音も気になりますが。
どちらでも良いので、誰か心当たりでもあったら教えて下さい。
※
その後の投稿
上で井戸の底のミニハウスと、知り合いの中に棲んでいるモノの話を書いた者です。
タイミングの悪い時に書いたようで、残念でした。
おまけに、その後アクセス規制に巻き込まれました。
オカ板に何か知っている人でもいないかな…と考えたのですが。
余談ですが、Bは怪談と共に時々、
「本当の霊体験がしてみたい!一度もないんだよね」
と言っていました。
上の話の前後にも肝試しやらコックリさん系の遊びやらを試していたようですが、全敗らしかったです。
後にAが言ったところでは、
「無理だと思うよ。アレはB本人には見えないようになっているみたいだし、他の霊は霊感のあるなし以前に、何も全くBに近付かないから。
井戸のあの音はちょっと並じゃなかったから、近付こうとしたんだろうけど。
だからBのアレも、Bを眠らせて全力でやったんじゃないのかな。これは想像だけど」
そう言えば、あの夜はAがあれだけ叫んだのに、Bは目を覚ます気配もなかったな…と思いました。
※
ちなみに俺はそれより前にBが雑談で、
「家で一人でコックリさん(のような心霊系の遊び)をしたけど、反応ないし、眠くなってそのまま昼寝しちゃった。あーゆーのってなかなか成功しないね」
と言うのを聞いた記憶があります。
……いや、成功していたのかも……と言うか、だとしたらその時は何が来ていたんだか……。