シンジラ様の歯

田舎の風景(フリー素材)

夏休みに婆ちゃんの家に遊びに行き、従兄弟とその友達と遊んでいた時の話。

婆ちゃんの家の近くの山には「シンジラ様」という神様が居るらしく、月に一回シンジラ様にお供え物をしなければならない。

まず玄関の前にその家の家主の名前を紙に書き、その紙の上に食べ物を置いておく。

すると夜な夜なシンジラ様は山から降り、お供え物を貰いに来る。

そして次の日には食べ物が無くなっており、代わりにシンジラ様の歯が置いてある。

その歯には魔除けの力があり、その家を守ってくれるらしい。

ちょうど俺が遊びに来た日はシンジラ様にお供えする日で、みんなはシンジラ様の話で盛り上がっていた。

「○○(俺の事)もシンジラ様に食べ物をお供えしてあげて」と婆ちゃんに言われたので、来る時の車で食っていたお菓子の残りをお供えした。

その日の夜はシンジラ様を見てみたくてずっと起きていた。

そしたら夜中の3時半頃に人影が見えた。大きさは2メートル程だった。

その人影はゆっくりとお供えした食べ物に近付き、手に取って食べ始めた。

俺はもっと近くで見たいと思い、こっそり窓の方に近付いた。

そしてシンジラ様の姿を見てしまった。

体中に草や花が付いていたが、顔は暗くてよく見えなかった。

するとその人物は振り返ってこちらを見た。

そして目が合った。

その時に顔もよく見えた。

顔が木で出来ていて、口や目があるべきところには穴があるだけ。

それがシンジラ様だと解った直後、シンジラ様は食べていた物を置き、ぶつぶつ言いながら何処かへ行った。

俺はシンジラ様の姿を見て怖くなり、布団にくるまって怯えながら寝た。

すると夢にもシンジラ様が出てきた。

夢の中のシンジラ様は、何か凄く怒っているような感じだった。

目が覚めると朝で、何やら居間の方が騒がしかった。

何があったのか聞くと、シンジラ様の歯が置かれていなかったらしい。しかも町中、みんなの家で。

婆ちゃんが「もしかして○○、シンジラ様を見たの?」と聞くので、俺は怒られるかと思い「見てない」と嘘を吐いた。

すると婆ちゃんは、近所の人達と話しに行くと言い残して出掛けてしまった。

残された俺と俺の従兄弟は、従兄弟の友達と遊ぼうという事になり遊びに行った。

従兄弟の友達の家にもシンジラ様の歯が置かれていなかったらしい。

俺達は何をして遊ぶか悩んだ挙句、山に虫を採りに行くことになった。

食べかけのお菓子の残りをお供えしたのが悪かったのか、それとも姿を見てしまったのが良くなかったのか、事実は判らないままだ。

関連記事

ハカソヤ

ハカソヤ ― 封じられた祝詞

これは、私の母の故郷に伝わる、ある特異な風習についての話です。 ごく最近になって知ったのですが、母の実家がある集落には、「ハカソヤ」と呼ばれる、女性だけに伝えられる不思議な習慣…

田畑(フリー写真)

尻切れ馬

これは大学生の頃、年末に帰省した時の体験談です。 私の地元はそこそこの田舎で、駅付近こそビルが多く立ち並んでおりますが、少し離れると田畑が多く広がっています。 私の実家も田…

山(フリー写真)

双子山

ある北国の山間。鄙びた温泉宿で、僕は穴を掘っていた。 脇の木製のベンチに腰を掛けて、夕闇に浮かぶ整然と美しく並んだ双子山を眺めた。 「今日の作業は終わりか。日没まで間も無い…

かんかんだら(長編)

中学生の頃は田舎もんの世間知らずで、悪友の英二、瞬と三人で毎日バカやってた。まぁチンピラみたいなもん。 俺と英二は両親にもまるっきり見放されてたんだが、瞬のお母さんだけは必ず瞬を…

田舎の風景(フリー写真)

山のタブー

子供の頃、近所のおじいさんに聞いた話です。 そのおじいさんは若い頃、一度事業に失敗し実家の田舎に帰ったそうです。 実家には持ち山があり、色々謂れがありました。 しかし…

田舎の景色(フリー素材)

てっぐ様

これは俺の親戚のおばちゃんから聞いた話だ。 おばちゃんは多少霊感がある人らしく、近所では「伝説のおばちゃん」と言われていて、自分でもそう言っている。 俺はそのおばちゃんに昔…

地下のまる穴(長編)

これは17年前、高校3年の時の冬の出来事です。 あまりに多くの記憶が失われている中で、この17年間、僅かに残った記憶を頼りに残し続けてきたメモを読みながら書いたので、細かい部分や…

沼と倒木(フリー写真)

マガガミさん

うちの母方の婆ちゃんが住んでいた村での話。 婆ちゃん家の村には山があるのだけど、その山の中に凄く綺麗な緑色の池がある。 限り無く青に近い緑色と言うか、透明気味なパステルカラ…

山(フリー写真)

山の物の怪

うちの爺さんは若い頃、当時では珍しいバイク乗りだった。 裕福だった両親からの何不自由ない援助のおかげで、燃費の悪い輸入物のバイクを暇さえあれば乗り回していたそうな。 ※ ある…

じいちゃん

黒い襖の奥 ― 家の天井裏にいた“それ”

蝉の声と、じいちゃんのまなざし これは、俺が十年以上も前に体験した実話だ。 当時、俺は田舎にある実家で暮らしていた。 実家は古い日本家屋で、周囲は田んぼに囲まれてい…