助手席のベルトは締めておけ
長距離トラックの運転手だった私が、先輩から授かった助手席のベルトを締める習慣。三十年欠かさず守ってきたその儀式が、還暦を過ぎたある夜から少しずつ崩れていく。締め…
長距離トラックの運転手だった私が、先輩から授かった助手席のベルトを締める習慣。三十年欠かさず守ってきたその儀式が、還暦を過ぎたある夜から少しずつ崩れていく。締め…
夏の休暇に、亡き叔母の海辺の家を訪ねた。干潟の人影が、毎夕ひとりずつ沖へ増えていく。土地の者は誰も潟に降りないと言う。淡々と綴る、説明のつかない実話怪談。最後の…
昭和の冬、地図にも載らない雪深い湯治宿で、巡回映写技師の私が過ごしたひと冬の怖い話。夜ごと近づく鈴の音、ひとりずつ欠けていく客、触れてはならない宿帳と十三号湯。…
虫送りの火が夏の田を照らす夜、藁の実盛さまには目がなかった。背負って川へ送る私の後ろで、もうひと組の足音が鳴った。振り返ってはならぬ決まりの先で、人形の顔にいつ…
余白の傍注がびっしり詰まった書名なき古書を、亡き学者の蔵書から手元に置いた古書店主。夜ごと読むうち、見覚えのない一行が内心に返事をし始め、その筆跡はやがて自分自…
雪深い町で運転代行を三十年続けてきた私が、ある二月の底冷えする夜に乗せた、古めかしい白髪の老人。久しく動かぬはずの古い車、峠の奥にともる門灯、握らされた古い紙幣…
夜の古井戸から、誰かが釣瓶で水を汲む音が響く。ダムに沈んだ村跡に建つ道の駅で深夜清掃をする七十代の私が、固く蓋をされた井戸の底に見たのは、嫁いだ頃の若い自分の姿…
三十二年前の初冬、京都の古書店を訪れた白髪の老人が一冊の和綴じ本を置いていった。不思議な話だと思いながら棚の奥に仕舞い続けたが、三十年後のある日、その本に縁のあ…
信州・木曽の山あいの分校で代用教員を務めていた三十代の春、体育倉庫の脇に置かれた藤の編み籠を覗き込んだ私は、眠る白目のない赤子と目が合った。校門にあらわれた老婦…
能登の小さな漁港で出会った時空のおっさんと、後日漁協で見つけた古い写真にまつわる不思議な話。真夏の早朝に起きた、説明のつかない実話体験談。…
夏祭りの帰り道、田んぼの畦道で見知らぬ若い女性に「脇道に入ってはいけません」と声をかけられた小学五年生の私。翌朝、その脇道で別の少年が事故に。あの女性は誰だった…
地方の老舗書店で働いて三十年。閉店間際にかかってきた予約電話の主は、亡くなったはずの少女と同じ名字だった。本屋の取り置きをめぐる、ほんのり怖い不思議な話の体験談…
夜勤明けに毎朝寄っていたコンビニで、私と全く同じ服装の人が、いつも十分前に同じ缶を二本買って消えていた。異世界に住むもう一人の私と、同じ街で生きていた当時の不思…
岐阜・飛騨の山あいに残る旧高山本線の廃トンネル跡で起きた不思議な話。元保線員から聞いた、走らない最終便と紙の上にだけ残った時刻表。鉄道ライターが体験した一夜の実…
県立図書館の閉架書庫で本の差し替えをしていた午後、空気の匂いが急に消えました。天窓の光は灰色から夜の青に変わり、館内から人の気配が消えました。異世界に迷い込んだ…
千葉県湾岸の工業地帯を夜に歩いていた女性が遭遇した、時空のおっさんと十二分の不思議な話。音が消え、信号が固定され、知らない道を歩いていた体験談。…
山梨県の廃集落跡を一人でハイキング中に発見した古い鳥居と低い石扉。開口部の奥から人声のような音に引き寄せられそうになった怖い話。帰宅後に撮影した写真に子供のよう…
夜勤終わりに自転車で走っていたはずの国道が、雪の中で消えた。異世界に迷い込んだようなあの不思議な体験は、今も説明することができない。…
母の入院先で毎週見かけた、白いパジャマの老人。優しい言葉に支えられた二ヶ月半のあと、看護師から告げられたのは、誰も入らなかった病室だったという事実でした。…
祖父の一周忌で岡山の山間集落に帰省した私は、長老から囲炉裏の火番を頼まれました。三日間、朝五時まで火を絶やさない夜に見た、六軒の窓の灯りと畦道を歩くものの話です…
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