薬売りが迷い込む異世界の村

夜の山里の行列

私が薬を担いで山を歩いていたのは、昭和もまだ若いころのことだ。

富山で仕込んだ柳行李を背負い、峠をいくつも越えて、村から村へと配置薬を届けて回る。

それが私の生業だった。

春の盛りで、街道沿いの桜はもう葉を出していた。

私は中国地方の、名を伏せるある山深い土地を歩いていた。

薬売りというのは、土地の者に顔を覚えてもらってなんぼの商いだ。

だから道に外れた小さな集落にも、私は足を運ぶようにしていた。

その日は朝から二つ峠を越え、午後の遅い時刻に、三つめの峠の杉木立にさしかかっていた。

行李の薬箱が肩に食い込んで、汗が背を伝っていた。

峠の道は思いのほか広く、よく踏まれていた。

片側に古い道標があり、苔むした石仏が並んでいた。

ふと足を止めたのは、その石仏のひとつに首がなかったからだ。

打ち欠かれたのではない。

切り口が妙になめらかで、まるで初めから首のない仏として彫られたかのようだった。

私は商売柄、土地ごとの祠や石仏を数多く見てきたが、ああいうものは見たことがなかった。

気味が悪いというより、何かを思い出しかけて思い出せないような、落ち着かない心持ちになった。

私はそのとき、ただ手を合わせて先を急いだ。

いま思えば、あの首のない仏が、ひとつめの報せだったのだろう。

峠の頂で一服したあと、私は来た道とは反対の斜面を下ることにした。

反対側に下りれば、地図にある大きな谷筋の村に出られるはずだった。

主軸の道のほかに、斜面には脇道が幾筋も枝分かれしていた。

私は本来、脇道にそれるつもりなどなかった。

ところが、そのうちの一本から、なんとも言いようのない気配が立ちのぼっていたのだ。

道の先がぼうっとかすんで見える。

色で言うなら、薄い紫だった。

夕暮れの靄ともちがう、生あたたかい紫の靄が、その道だけにわだかまっていた。

私はその靄に、妙に惹かれた。

惹かれてはいけないと頭の隅で思いながら、気づくと足はもう脇道へ向いていた。

ここから先が、この話の核になる。

脇道を下っていくあいだ、行く手はずっと紫色にかすんでいた。

時間にして、おそらく一分もかからなかったと思う。

坂を下り終えた途端、紫の靄がふっと晴れ、目の前の景色がくっきりと開けた。

そこには棚田が段々に広がっていた。

向こうには藁葺き屋根の家が身を寄せ合うようにかたまっていて、その集落のまんなかに、こんもりとした小さな丘があった。

私はそのとき、面白い在所に出たものだと、むしろ気をよくしていた。

こういう道に外れた村こそ、薬の得意先になりやすい。

私は田のあいだのあぜ道を、行李を担ぎ直して歩きはじめた。

どこか大きな道に出て、それを西へたどれば、知った街道に戻れるだろうと高をくくっていた。

あぜ道を進むうち、少し先で炭を焼いている老爺の姿が目に入った。

窯の煙が、夕方の空に細く立ちのぼっていた。

老爺もこちらに気づいたようで、手にした火かき棒を放り出し、わざわざこちらへ駆けてきた。

私は、あぜ道は田の持ち主のものだから、よそ者が通っては悪いのかと思い、足を止めて頭を下げた。

ところが老爺は、私の挨拶を遮るようにして言った。

「あんた、この辺じゃ見ん顔じゃが、余所者かい」

私はこの村の者ではないが、同じ郡のうちには違いないと思っていた。

だから、「いえ、この近くを回っている薬売りでございます」と答えた。

すると老爺は、声をいくらか強めて、こう言い直した。

「この村に住んどるかどうかを訊いとるんじゃ」

私は、この村の者ではないこと、峠の脇道を下ってきたら迷い込んだことを話した。

老爺の目の色が、そこで変わった。

先ほどとはうって変わって、やわらかな声で言った。

「そりゃあ難儀じゃ。今夜はうちで膳でも囲んで、泊まっていきなされ」

妙に親切だった。

だが私は、暗くなる前に道を見つけたかったので、丁重に断った。

老爺はしつこく誘ってきたが、やがて諦めたのか、窯の火もそのままに、集落のほうへ小走りに去っていった。

いま振り返れば、あの老爺は、終始そわそわと落ち着かなかった。

放り出された火かき棒だけが、煙のなかに残っていた。

老爺と別れて、私はしばらくあぜ道をたどった。

ところが、この盆地はぐるりと山に囲まれていて、思った方角に村を抜ける道がない。

どの畦をたどっても、田と山裾に行き当たって終わってしまう。

気は進まなかったが、来た坂を登り返し、峠まで戻ってから知った道で帰ろうと考えた。

あの紫の靄の坂を、もう一度登るしかなかった。

坂の下にはすぐに着いた。

いざ登りはじめた。

ここまではよかった。

だが、下ってきたときはあれほど短かった坂が、登れど登れど終わりが見えないのだ。

どれほど登ったのかもわからぬうち、あたりが急に暗んできた。

私は時刻を確かめようと、ふところの懐中時計を取り出した。

祖父から譲られた、よく合う時計だった。

ところが、針が止まっていた。

耳に当てても、いつもの細かな音がしない。

巻き直しても、針はぴくりとも動かなかった。

薄気味悪く思った私は、道を取り違えたのかもしれぬと思い、もう一度坂を下ることにした。

すると、あれほど登った坂は、下りはじめると呆気ないほどすぐに尽きた。

ここで私は、はじめて背に冷たいものを感じた。

あたりはもう、すっかり暮れていた。

それでもこのときはまだ、ただ道がおかしいと思うだけで、あの老爺のことは頭になかった。

坂を諦めて集落のほうへ歩くうち、私はもうひとつ、妙なことに気づいた。

これだけの家がかたまっているのに、どの屋根からも、煙が立っていないのだ。

夕餉どきなら、藁葺きのどこかから炊ぎの煙が上がっていてよいはずだった。

そういえば、犬の声も、鶏の声も、虫の音さえ聞こえない。

ただ、田を渡る風が、稲をさらさらと鳴らす音だけがあった。

その音だけが、やけにはっきりと耳に残った。

あぜ道のかたわらに、古びた案山子が一体、こちらへ背を向けて立っていた。

ほつれた蓑を着せられ、笠の下から藁の首がのぞいていた。

通り過ぎて少し行ってから、私はなんとなく振り返った。

案山子は、さっきと同じく、こちらへ背を向けたままだった。

ただ、笠の傾きだけが、ほんの少し、私のほうへ向き直っているように見えた。

気のせいだ、と私は思おうとした。

だが、その案山子の足もとには、真新しい草履が、片方だけ揃えて置かれていた。

誰かがついさっき、そこで履物を脱いだばかりのように。

私は足を速め、それきり、振り返るのをやめた。

しばらくすると、行く手に無数の明かりと、それに照らされた人影が見えた。

いくらか妙な光景ではあったが、村の衆なら帰り道を訊けると思い、そちらへ近づいた。

近づくにつれ、私は足を止めた。

人々が手にしていた明かりは、松明だった。

昭和のこの世に、松明である。

提灯でも角灯でもなく、燃える松明を掲げた人の群れが、闇のなかにゆらめいていた。

私は、その異様さに飲まれた。

まだ十分に離れていたが、よほど大きな声で話していたのだろう、村人たちの声がきれぎれに届いた。

言葉の中身までは聞き取れなかった。

そのとき、頭のなかで何かが「これはいけない」と鳴った。

私はあぜから田へ下り、稲のかげに身を伏せた。

行李は、田の水のなかに沈めて隠した。

そして、ここでまた、ひとつ奇妙なことに気づいたのだ。

いまは春のはずだ。

田を植えたばかりの、ようやく苗が水に映る季節のはずだ。

ところが、私が身を伏せている田には、稲が高く育ち、穂を垂れていた。

稲が穂を垂れるのは秋だ。

春のいま、こんなに実っているはずがない。

終わらない坂、時代遅れの松明、そして春に実る稲。

いよいよ、何もかもがおかしかった。

これは夢なのだろうか、と私は思った。

だが、夢のなかで「これは夢か」と問うた覚えは、私にはついぞなかった。

おそらく心の底では、これが現実だと、私はもうわかっていたのだろう。

やがて松明の明かりは、散り散りに分かれていった。

ある明かりは東へ、ある明かりは西へ、集落の丘を登っていくものもあった。

そして当然、こちらの方角へ近づいてくる明かりもあった。

これほどの人数が、暗い夜に、わざわざ松明を掲げ、寄り集まるでもなく、めいめい別の方へ散っていく。

何かを探しているのではないか。

やたらと余所者かどうかを問うてきた、あの老爺。

もしや、村の衆は私を探しているのではないか。

私はこのとき、村人の目当てを、ほとんど察してしまっていた。

わけはわからぬが、捕まってはいけない。

その一心で、私は田の水路へにじり寄り、濡れるのもかまわず溝に身を伏せた。

しばらくすると、近くで足音がした。

そして、低い声が聞こえた。

「久しぶりの入り者じゃな」

「ああ、この時節に間に合うて、まことに良かった」

「ともかく門へ行ってみよう。入口はあそこしかない。おらんでも、どうせ狭い盆地じゃ、そのうち見つかる」

足音は、そんな話をしながら遠ざかっていった。

私はこの時点で、自分が尋ね者であることを確信した。

門というのは、入口と言うからには、おそらくあの坂のことだろう。

私はひとまず、難を逃れた。

身一つのほうが動きやすいと思い、私は田に沈めた行李をそのままにして、稲のあいだをかがんで進みはじめた。

どこでもいい、山へ取りつき、それを越えれば盆地から出られるだろう。

そんな安易な考えだった。

だが、村人の数は思ったよりずっと多かった。

逃げるどころか、松明の輪は少しずつこちらへ狭まってくる。

もう少しで見つかりそうになり、私は耐えきれず立ち上がり、明かりのない方へ駆け出した。

当然、村人たちは追ってきた。

何かを投げつけられた気もするが、構う余裕はなかった。

見知らぬ闇の道、大勢を相手に一人、おまけに足場も悪い。

そんな無謀な逃げが、うまくいくはずもなかった。

私はほどなく取り押さえられ、全身を縄で縛られ、目隠しと布の猿轡をかまされて、どこかへ運ばれた。

抗いもしたが、寄ってたかって押さえ込まれては、おとなしくするほかなかった。

運ばれていく道すがら、村人たちはこんな話をしていた。

「これで今年は、村の者を出さんで済む」

「ああ、去年は……」

「まあよい。今年もちゃんと供えられる。これであの御方も、お鎮まりになろう」

その「御方」の名を、私はどうしても思い出せない。

ほかのことは何もかも思い出したのに、その名だけは、いまも靄がかかったように出てこないのだ。

そんな話を聞くうち、私はどこともしれぬ場所に投げ出された。

村人たちは、足音を残して去っていった。

目隠しと縄のままなので、はっきりとはわからなかったが、必死に探ったところ、私は四角く狭い小屋のなかに閉じ込められているようだった。

板の壁は冷たく、隅には湿った藁が積んであった。

それから幾日が過ぎたのかはわからない。

ときおり水と、ほんの少しの食い物を与えられるほかは、猿轡をかまされたまま、ただ放っておかれる日が続いた。

暗がりのなかで、私は幾度も自分に言い聞かせた。

これは夢だ、覚めれば終わる、と。

だが、覚めることはなかった。

ある日、事態は不意に動いた。

いつものように食い物を与えられ、猿轡を締め直され、村人が出ていったすぐあとのことだ。

板戸が、もう一度そっと開いた。

何か忘れ物でもしたのかと、私は身を固くした。

だが、今まで決して外されなかった目隠しが、やさしくほどかれた。

猿轡を外す手が、ひどく小さく、あたたかかった。

この者は、村の衆とは何かが違う。

そう思ったあのときの感じは、いまも鮮やかに残っている。

目隠しが取れても、目やにで瞼が貼りつき、ようやく開いても光がまぶしく、あたりを見るまでには手間取った。

ようやく見えたそこには、小さな提灯を抱えた少女が立っていた。

歳のころは十ばかり、色の褪せた木綿の着物を着ていた。

提灯の灯は、ふつうの蝋燭の色ではなく、青みがかった白い光だった。

私は、やさしくされたとはいえ、もう容易には人を信じられなくなっていた。

この子を突きのければ逃げられるか、などと考えていた気もする。

だが少女は、口を開くなり「だいじょうぶ」と言って、竹筒の水を差し出してくれた。

いま思えばおかしな話だが、「だいじょうぶ」のひと言と水だけで、私はすっかり安心してしまった。

受け取るなり、私は水を飲み干した。

礼を言おうにも、長く猿轡をかまされていたせいで、口がうまく回らなかった。

少女は、足音を立てぬよう小屋のなかを歩きながら聞いてくれと言った。

だから私は、しびれた足を引きずり、ゆっくり歩きながら、その子の話に耳を傾けた。

少女が語ったのは、こういうことだった。

この盆地は、私たちの住む里とは、少しばかり別の場所にあるという。

いまの言葉でいえば、異世界とでも呼ぶよりほかにない場所だったのだと、私は後になって思っている。

ふだんは何の行き来もないが、ごく稀に、道がつながることがあるらしい。

そのとき迷い込む者が、幾年かに一人あらわれる。

今年は、それが私だった。

この盆地は外とつながっていないので、もと来た坂を戻っても無駄であること。

山を越えようとしても、けっして越えられぬこと。

少女は、そう静かに教えてくれた。

逃げる気力ももう尽きかけていたが、それでもこの話には、私はいくらか気落ちした。

少女は、さらに語をついだ。

この盆地の丘には「御方」がまつられていること。

年に一度、その御方に供物をたてまつらねば、災いが盆地を覆うこと。

供えをおこたった年は、田が枯れ、流行り病がはやり、幾人もが戻らぬ人となったこと。

だから村の衆は、毎年かならず供物をたてまつる。

だが、村のうちから供える者を出すのは忍びない。

ゆえに、今回のように外から迷い込む者があれば、すぐに捕らえて小屋に閉じこめ、その者を供物にあてるのだという。

私はあと三日で、丘の御方に供えられる。

そう聞かされても、供物という言葉に、まるで実感が湧かなかった。

ここまでの扱いを思えば、信じられぬ話ではなかった。

だが私は、もうどうにでもなれと、投げやりになっていたのだと思う。

そんな私を見て、少女は言った。

「でも、まだ逃げられる。もとの場所へ帰れる」

帰れる、と聞いて私は驚いた。

外とのつながりはないと言ったばかりではないか。

少女によると、自分は一時のあいだだけ、来た道ともとの里をつなぐことができるのだという。

そんなことができるのかと問うと、ふつうの者にはできないと答えた。

村の誰も、自分にそんな力があるとは知らない。

もしこれが知れたら、迷い込む者がかえって増えてしまう。

逃がしたのが露見すれば、こんどは自分が丘へ供えられる。

そう言って、少女はうつむいた。

話が終わると、少女はすぐに私を急きたてた。

「はやく逃げて」

そして、ここからあの坂までの、おおよその道のりを教えてくれた。

何も言えぬまま、私はその子に背を押されるようにして小屋を出た。

最後の逃走は、呆気なかった。

村人ひとり目に入らず、ふつうに歩いていたら坂に着いた。

ふつうに登っていったら、首のない石仏の並ぶ、あの峠に出た。

そして私は、宿に帰って眠った。

翌朝、目を覚ました私は、過ぎた日数に呆然とした。

私の覚えでは、ゆうべ宿で行李を解いて、ふつうに横になったはずだった。

ところが起きてみると、全身が痛み、ゆうべから十日あまりが過ぎていた。

宿の主人は、私が幾日も戻らぬので、番所に届けようとしていたという。

田に沈めたはずの薬の行李は、どこにも見当たらなかった。

そしてなにより不思議なことに、私はあの盆地での出来事を、その後しばらく、すっかり忘れていたのだ。

忘れていたはずのこの記憶を、なぜいまになって思い出したのか。

私を助けてくれたあの少女が、夢に出てきたからだ。

暗がりのなかで、少女はずっと、こちらを弱々しい目で見つめていた。

その夢から覚めたとき、私は「御方」の名を除いて、何もかもを思い出した。

あの異世界の盆地で過ごした、恐ろしい幾日を。

そして、思い出したことがもうひとつある。

薬の道を私に仕込んでくれた、源助という年かさの同業の男のことだ。

源助は数年前の春、この界隈を回ると言って出たきり、戻らぬ人となっていた。

当時はただ、山で道を踏み外したのだろうと、誰もがそう噂した。

だが、いまならわかる。

源助もまた、あの紫の靄に誘われ、丘の御方に供えられたのだ。

私はそう、確信している。

それにしても、いまになって少女が夢にあらわれるのは、どういうわけだろう。

あの弱々しいまなざし。

あの子の身に、何かあったのではないか。

根拠はない。

だが、私を逃がしたことが、とうとう村の衆に知れてしまったのではないか。

そして少女はいま、私に何かを求めているのではないか。

そう思えてならないのだ。

一度は私を助けてくれたあの子が、こんどは私からの助けを求めている。

源助がいなくなったとき、まわりの者が浮かべた、あの不安げな顔も忘れられない。

事実を知っていながら、見て見ぬふりはできない。

私はいま、薬売りをやめ、同じ中国地方の小さな町で暮らしている。

先日、思いきってあの峠へ行ってみた。

だが、首のない石仏の脇に、紫の靄の道などなかった。

ただの杉木立で、盆地などどこにもなかった。

少女の夢も、しばらくは見なくなった。

あの盆地など、本当にあったのかと疑いはじめた、ちょうどそのときだ。

今日の夕方、泊まった宿で微睡んでいると、あの少女がまた夢にあらわれた。

そして、あの弱々しい目で、じっとこちらを見ていた。

私はこれから、もう一度あの峠へ行ってくる。

根拠はないが、なぜか今なら、あの道は開いている気がする。

私ひとりが行って、何が変わるのかはわからない。

前のように、すぐに捕らえられるかもしれない。

運よく少女に会えたとして、そこからどうすればよいのかも、わからない。

はじめは、ただちょっとした覚え書きのつもりだった。

それが、思いのほか長く、覚えているかも怪しいところまで、こまごまと書いてしまった。

早く発ちたくて気は急いているのに、こうして筆が止まらぬのは、やはりまた、あそこへ行くのが少し怖いのかもしれない。

私があの盆地について知っていることは、あの少女の話で得たことだけだ。

だから本当のところ、私自身、あの場所のことはよくわからない。

言葉づかいも、大まかな流れも、おおよそは合っているはずだが、細かなところは違っているかもしれない。

こんな、信じがたい上にとりとめのない話を、ここまで読んでくださって、ありがとうございました。

私はもう、行きます。

最後に、ひとつだけ。

この話を信じてくださらなくともよい。

だが、もしこの峠に心当たりのある方は、どうかそこへは行かないでいただきたい。

まちがっても、紫にかすんだ脇道へ、足を向けないでください。

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