薬売りが迷い込む異世界の村

夜の山里の行列

私が薬を担いで山を歩いていたのは、昭和もまだ若いころのことだ。

富山で仕込んだ柳行李を背負い、峠をいくつも越えて、村から村へと配置薬を届けて回る。

それが私の生業だった。

春の盛りで、街道沿いの桜はもう葉を出していた。

私は中国地方の、名を伏せるある山深い土地を歩いていた。

薬売りというのは、土地の者に顔を覚えてもらってなんぼの商いだ。

だから道に外れた小さな集落にも、私は足を運ぶようにしていた。

その日は朝から二つ峠を越え、午後の遅い時刻に、三つめの峠の杉木立にさしかかっていた。

行李の薬箱が肩に食い込んで、汗が背を伝っていた。

峠の道は思いのほか広く、よく踏まれていた。

片側に古い道標があり、苔むした石仏が並んでいた。

ふと足を止めたのは、その石仏のひとつに首がなかったからだ。

打ち欠かれたのではない。

切り口が妙になめらかで、まるで初めから首のない仏として彫られたかのようだった。

私は商売柄、土地ごとの祠や石仏を数多く見てきたが、ああいうものは見たことがなかった。

気味が悪いというより、何かを思い出しかけて思い出せないような、落ち着かない心持ちになった。

私はそのとき、ただ手を合わせて先を急いだ。

いま思えば、あの首のない仏が、ひとつめの報せだったのだろう。

※

峠の頂で一服したあと、私は来た道とは反対の斜面を下ることにした。

反対側に下りれば、地図にある大きな谷筋の村に出られるはずだった。

主軸の道のほかに、斜面には脇道が幾筋も枝分かれしていた。

私は本来、脇道にそれるつもりなどなかった。

ところが、そのうちの一本から、なんとも言いようのない気配が立ちのぼっていたのだ。

道の先がぼうっとかすんで見える。

色で言うなら、薄い紫だった。

夕暮れの靄ともちがう、生あたたかい紫の靄が、その道だけにわだかまっていた。

私はその靄に、妙に惹かれた。

惹かれてはいけないと頭の隅で思いながら、気づくと足はもう脇道へ向いていた。

ここから先が、この話の核になる。

脇道を下っていくあいだ、行く手はずっと紫色にかすんでいた。

時間にして、おそらく一分もかからなかったと思う。

坂を下り終えた途端、紫の靄がふっと晴れ、目の前の景色がくっきりと開けた。

そこには棚田が段々に広がっていた。

向こうには藁葺き屋根の家が身を寄せ合うようにかたまっていて、その集落のまんなかに、こんもりとした小さな丘があった。

私はそのとき、面白い在所に出たものだと、むしろ気をよくしていた。

こういう道に外れた村こそ、薬の得意先になりやすい。

私は田のあいだのあぜ道を、行李を担ぎ直して歩きはじめた。

どこか大きな道に出て、それを西へたどれば、知った街道に戻れるだろうと高をくくっていた。

※

あぜ道を進むうち、少し先で炭を焼いている老爺の姿が目に入った。

窯の煙が、夕方の空に細く立ちのぼっていた。

老爺もこちらに気づいたようで、手にした火かき棒を放り出し、わざわざこちらへ駆けてきた。

私は、あぜ道は田の持ち主のものだから、よそ者が通っては悪いのかと思い、足を止めて頭を下げた。

ところが老爺は、私の挨拶を遮るようにして言った。

「あんた、この辺じゃ見ん顔じゃが、余所者かい」

私はこの村の者ではないが、同じ郡のうちには違いないと思っていた。

だから、「いえ、この近くを回っている薬売りでございます」と答えた。

すると老爺は、声をいくらか強めて、こう言い直した。

「この村に住んどるかどうかを訊いとるんじゃ」

私は、この村の者ではないこと、峠の脇道を下ってきたら迷い込んだことを話した。

老爺の目の色が、そこで変わった。

先ほどとはうって変わって、やわらかな声で言った。

「そりゃあ難儀じゃ。今夜はうちで膳でも囲んで、泊まっていきなされ」

妙に親切だった。

だが私は、暗くなる前に道を見つけたかったので、丁重に断った。

老爺はしつこく誘ってきたが、やがて諦めたのか、窯の火もそのままに、集落のほうへ小走りに去っていった。

いま振り返れば、あの老爺は、終始そわそわと落ち着かなかった。

放り出された火かき棒だけが、煙のなかに残っていた。

※

老爺と別れて、私はしばらくあぜ道をたどった。

ところが、この盆地はぐるりと山に囲まれていて、思った方角に村を抜ける道がない。

どの畦をたどっても、田と山裾に行き当たって終わってしまう。

気は進まなかったが、来た坂を登り返し、峠まで戻ってから知った道で帰ろうと考えた。

あの紫の靄の坂を、もう一度登るしかなかった。

坂の下にはすぐに着いた。

いざ登りはじめた。

ここまではよかった。

だが、下ってきたときはあれほど短かった坂が、登れど登れど終わりが見えないのだ。

どれほど登ったのかもわからぬうち、あたりが急に暗んできた。

私は時刻を確かめようと、ふところの懐中時計を取り出した。

祖父から譲られた、よく合う時計だった。

ところが、針が止まっていた。

耳に当てても、いつもの細かな音がしない。

巻き直しても、針はぴくりとも動かなかった。

薄気味悪く思った私は、道を取り違えたのかもしれぬと思い、もう一度坂を下ることにした。

すると、あれほど登った坂は、下りはじめると呆気ないほどすぐに尽きた。

ここで私は、はじめて背に冷たいものを感じた。

あたりはもう、すっかり暮れていた。

それでもこのときはまだ、ただ道がおかしいと思うだけで、あの老爺のことは頭になかった。

※

坂を諦めて集落のほうへ歩くうち、私はもうひとつ、妙なことに気づいた。

これだけの家がかたまっているのに、どの屋根からも、煙が立っていないのだ。

夕餉どきなら、藁葺きのどこかから炊ぎの煙が上がっていてよいはずだった。

そういえば、犬の声も、鶏の声も、虫の音さえ聞こえない。

ただ、田を渡る風が、稲をさらさらと鳴らす音だけがあった。

その音だけが、やけにはっきりと耳に残った。

あぜ道のかたわらに、古びた案山子が一体、こちらへ背を向けて立っていた。

ほつれた蓑を着せられ、笠の下から藁の首がのぞいていた。

通り過ぎて少し行ってから、私はなんとなく振り返った。

案山子は、さっきと同じく、こちらへ背を向けたままだった。

ただ、笠の傾きだけが、ほんの少し、私のほうへ向き直っているように見えた。

気のせいだ、と私は思おうとした。

だが、その案山子の足もとには、真新しい草履が、片方だけ揃えて置かれていた。

誰かがついさっき、そこで履物を脱いだばかりのように。

私は足を速め、それきり、振り返るのをやめた。

しばらくすると、行く手に無数の明かりと、それに照らされた人影が見えた。

いくらか妙な光景ではあったが、村の衆なら帰り道を訊けると思い、そちらへ近づいた。

近づくにつれ、私は足を止めた。

人々が手にしていた明かりは、松明だった。

昭和のこの世に、松明である。

提灯でも角灯でもなく、燃える松明を掲げた人の群れが、闇のなかにゆらめいていた。

私は、その異様さに飲まれた。

まだ十分に離れていたが、よほど大きな声で話していたのだろう、村人たちの声がきれぎれに届いた。

言葉の中身までは聞き取れなかった。

そのとき、頭のなかで何かが「これはいけない」と鳴った。

私はあぜから田へ下り、稲のかげに身を伏せた。

行李は、田の水のなかに沈めて隠した。

そして、ここでまた、ひとつ奇妙なことに気づいたのだ。

※

いまは春のはずだ。

田を植えたばかりの、ようやく苗が水に映る季節のはずだ。

ところが、私が身を伏せている田には、稲が高く育ち、穂を垂れていた。

稲が穂を垂れるのは秋だ。

春のいま、こんなに実っているはずがない。

終わらない坂、時代遅れの松明、そして春に実る稲。

いよいよ、何もかもがおかしかった。

これは夢なのだろうか、と私は思った。

だが、夢のなかで「これは夢か」と問うた覚えは、私にはついぞなかった。

おそらく心の底では、これが現実だと、私はもうわかっていたのだろう。

やがて松明の明かりは、散り散りに分かれていった。

ある明かりは東へ、ある明かりは西へ、集落の丘を登っていくものもあった。

そして当然、こちらの方角へ近づいてくる明かりもあった。

これほどの人数が、暗い夜に、わざわざ松明を掲げ、寄り集まるでもなく、めいめい別の方へ散っていく。

何かを探しているのではないか。

やたらと余所者かどうかを問うてきた、あの老爺。

もしや、村の衆は私を探しているのではないか。

私はこのとき、村人の目当てを、ほとんど察してしまっていた。

わけはわからぬが、捕まってはいけない。

その一心で、私は田の水路へにじり寄り、濡れるのもかまわず溝に身を伏せた。

しばらくすると、近くで足音がした。

そして、低い声が聞こえた。

「久しぶりの入り者じゃな」

「ああ、この時節に間に合うて、まことに良かった」

「ともかく門へ行ってみよう。入口はあそこしかない。おらんでも、どうせ狭い盆地じゃ、そのうち見つかる」

足音は、そんな話をしながら遠ざかっていった。

私はこの時点で、自分が尋ね者であることを確信した。

門というのは、入口と言うからには、おそらくあの坂のことだろう。

私はひとまず、難を逃れた。

※

身一つのほうが動きやすいと思い、私は田に沈めた行李をそのままにして、稲のあいだをかがんで進みはじめた。

どこでもいい、山へ取りつき、それを越えれば盆地から出られるだろう。

そんな安易な考えだった。

だが、村人の数は思ったよりずっと多かった。

逃げるどころか、松明の輪は少しずつこちらへ狭まってくる。

もう少しで見つかりそうになり、私は耐えきれず立ち上がり、明かりのない方へ駆け出した。

当然、村人たちは追ってきた。

何かを投げつけられた気もするが、構う余裕はなかった。

見知らぬ闇の道、大勢を相手に一人、おまけに足場も悪い。

そんな無謀な逃げが、うまくいくはずもなかった。

私はほどなく取り押さえられ、全身を縄で縛られ、目隠しと布の猿轡をかまされて、どこかへ運ばれた。

抗いもしたが、寄ってたかって押さえ込まれては、おとなしくするほかなかった。

※

運ばれていく道すがら、村人たちはこんな話をしていた。

「これで今年は、村の者を出さんで済む」

「ああ、去年は……」

「まあよい。今年もちゃんと供えられる。これであの御方も、お鎮まりになろう」

その「御方」の名を、私はどうしても思い出せない。

ほかのことは何もかも思い出したのに、その名だけは、いまも靄がかかったように出てこないのだ。

そんな話を聞くうち、私はどこともしれぬ場所に投げ出された。

村人たちは、足音を残して去っていった。

目隠しと縄のままなので、はっきりとはわからなかったが、必死に探ったところ、私は四角く狭い小屋のなかに閉じ込められているようだった。

板の壁は冷たく、隅には湿った藁が積んであった。

それから幾日が過ぎたのかはわからない。

ときおり水と、ほんの少しの食い物を与えられるほかは、猿轡をかまされたまま、ただ放っておかれる日が続いた。

暗がりのなかで、私は幾度も自分に言い聞かせた。

これは夢だ、覚めれば終わる、と。

だが、覚めることはなかった。

ある日、事態は不意に動いた。

いつものように食い物を与えられ、猿轡を締め直され、村人が出ていったすぐあとのことだ。

板戸が、もう一度そっと開いた。

何か忘れ物でもしたのかと、私は身を固くした。

だが、今まで決して外されなかった目隠しが、やさしくほどかれた。

猿轡を外す手が、ひどく小さく、あたたかかった。

この者は、村の衆とは何かが違う。

そう思ったあのときの感じは、いまも鮮やかに残っている。

目隠しが取れても、目やにで瞼が貼りつき、ようやく開いても光がまぶしく、あたりを見るまでには手間取った。

ようやく見えたそこには、小さな提灯を抱えた少女が立っていた。

歳のころは十ばかり、色の褪せた木綿の着物を着ていた。

提灯の灯は、ふつうの蝋燭の色ではなく、青みがかった白い光だった。

私は、やさしくされたとはいえ、もう容易には人を信じられなくなっていた。

この子を突きのければ逃げられるか、などと考えていた気もする。

だが少女は、口を開くなり「だいじょうぶ」と言って、竹筒の水を差し出してくれた。

※

いま思えばおかしな話だが、「だいじょうぶ」のひと言と水だけで、私はすっかり安心してしまった。

受け取るなり、私は水を飲み干した。

礼を言おうにも、長く猿轡をかまされていたせいで、口がうまく回らなかった。

少女は、足音を立てぬよう小屋のなかを歩きながら聞いてくれと言った。

だから私は、しびれた足を引きずり、ゆっくり歩きながら、その子の話に耳を傾けた。

少女が語ったのは、こういうことだった。

この盆地は、私たちの住む里とは、少しばかり別の場所にあるという。

いまの言葉でいえば、異世界とでも呼ぶよりほかにない場所だったのだと、私は後になって思っている。

ふだんは何の行き来もないが、ごく稀に、道がつながることがあるらしい。

そのとき迷い込む者が、幾年かに一人あらわれる。

今年は、それが私だった。

この盆地は外とつながっていないので、もと来た坂を戻っても無駄であること。

山を越えようとしても、けっして越えられぬこと。

少女は、そう静かに教えてくれた。

逃げる気力ももう尽きかけていたが、それでもこの話には、私はいくらか気落ちした。

※

少女は、さらに語をついだ。

この盆地の丘には「御方」がまつられていること。

年に一度、その御方に供物をたてまつらねば、災いが盆地を覆うこと。

供えをおこたった年は、田が枯れ、流行り病がはやり、幾人もが戻らぬ人となったこと。

だから村の衆は、毎年かならず供物をたてまつる。

だが、村のうちから供える者を出すのは忍びない。

ゆえに、今回のように外から迷い込む者があれば、すぐに捕らえて小屋に閉じこめ、その者を供物にあてるのだという。

私はあと三日で、丘の御方に供えられる。

そう聞かされても、供物という言葉に、まるで実感が湧かなかった。

ここまでの扱いを思えば、信じられぬ話ではなかった。

だが私は、もうどうにでもなれと、投げやりになっていたのだと思う。

そんな私を見て、少女は言った。

「でも、まだ逃げられる。もとの場所へ帰れる」

※

帰れる、と聞いて私は驚いた。

外とのつながりはないと言ったばかりではないか。

少女によると、自分は一時のあいだだけ、来た道ともとの里をつなぐことができるのだという。

そんなことができるのかと問うと、ふつうの者にはできないと答えた。

村の誰も、自分にそんな力があるとは知らない。

もしこれが知れたら、迷い込む者がかえって増えてしまう。

逃がしたのが露見すれば、こんどは自分が丘へ供えられる。

そう言って、少女はうつむいた。

話が終わると、少女はすぐに私を急きたてた。

「はやく逃げて」

そして、ここからあの坂までの、おおよその道のりを教えてくれた。

何も言えぬまま、私はその子に背を押されるようにして小屋を出た。

最後の逃走は、呆気なかった。

村人ひとり目に入らず、ふつうに歩いていたら坂に着いた。

ふつうに登っていったら、首のない石仏の並ぶ、あの峠に出た。

そして私は、宿に帰って眠った。

※

翌朝、目を覚ました私は、過ぎた日数に呆然とした。

私の覚えでは、ゆうべ宿で行李を解いて、ふつうに横になったはずだった。

ところが起きてみると、全身が痛み、ゆうべから十日あまりが過ぎていた。

宿の主人は、私が幾日も戻らぬので、番所に届けようとしていたという。

田に沈めたはずの薬の行李は、どこにも見当たらなかった。

そしてなにより不思議なことに、私はあの盆地での出来事を、その後しばらく、すっかり忘れていたのだ。

※

忘れていたはずのこの記憶を、なぜいまになって思い出したのか。

私を助けてくれたあの少女が、夢に出てきたからだ。

暗がりのなかで、少女はずっと、こちらを弱々しい目で見つめていた。

その夢から覚めたとき、私は「御方」の名を除いて、何もかもを思い出した。

あの異世界の盆地で過ごした、恐ろしい幾日を。

そして、思い出したことがもうひとつある。

薬の道を私に仕込んでくれた、源助という年かさの同業の男のことだ。

源助は数年前の春、この界隈を回ると言って出たきり、戻らぬ人となっていた。

当時はただ、山で道を踏み外したのだろうと、誰もがそう噂した。

だが、いまならわかる。

源助もまた、あの紫の靄に誘われ、丘の御方に供えられたのだ。

私はそう、確信している。

※

それにしても、いまになって少女が夢にあらわれるのは、どういうわけだろう。

あの弱々しいまなざし。

あの子の身に、何かあったのではないか。

根拠はない。

だが、私を逃がしたことが、とうとう村の衆に知れてしまったのではないか。

そして少女はいま、私に何かを求めているのではないか。

そう思えてならないのだ。

一度は私を助けてくれたあの子が、こんどは私からの助けを求めている。

源助がいなくなったとき、まわりの者が浮かべた、あの不安げな顔も忘れられない。

事実を知っていながら、見て見ぬふりはできない。

※

私はいま、薬売りをやめ、同じ中国地方の小さな町で暮らしている。

先日、思いきってあの峠へ行ってみた。

だが、首のない石仏の脇に、紫の靄の道などなかった。

ただの杉木立で、盆地などどこにもなかった。

少女の夢も、しばらくは見なくなった。

あの盆地など、本当にあったのかと疑いはじめた、ちょうどそのときだ。

今日の夕方、泊まった宿で微睡んでいると、あの少女がまた夢にあらわれた。

そして、あの弱々しい目で、じっとこちらを見ていた。

私はこれから、もう一度あの峠へ行ってくる。

根拠はないが、なぜか今なら、あの道は開いている気がする。

私ひとりが行って、何が変わるのかはわからない。

前のように、すぐに捕らえられるかもしれない。

運よく少女に会えたとして、そこからどうすればよいのかも、わからない。

※

はじめは、ただちょっとした覚え書きのつもりだった。

それが、思いのほか長く、覚えているかも怪しいところまで、こまごまと書いてしまった。

早く発ちたくて気は急いているのに、こうして筆が止まらぬのは、やはりまた、あそこへ行くのが少し怖いのかもしれない。

私があの盆地について知っていることは、あの少女の話で得たことだけだ。

だから本当のところ、私自身、あの場所のことはよくわからない。

言葉づかいも、大まかな流れも、おおよそは合っているはずだが、細かなところは違っているかもしれない。

こんな、信じがたい上にとりとめのない話を、ここまで読んでくださって、ありがとうございました。

私はもう、行きます。

最後に、ひとつだけ。

この話を信じてくださらなくともよい。

だが、もしこの峠に心当たりのある方は、どうかそこへは行かないでいただきたい。

まちがっても、紫にかすんだ脇道へ、足を向けないでください。

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