執着

抽象画

あまり思い出したくないのですが、私が体験した話を書きます。

先にお断りしておきますが、これは幽霊や心霊体験のお話ではないので御了承下さい。

長文ですが、どうかお付き合い願います。

4年前、二十歳の私(仮に洋子とします)が会社勤めをしていた頃の話です。

会社の外壁の修復作業をしに来ていた一人の男性(仮に小野とします)と私は知り合いました。

その人は私よりも17歳も年上だったのですが、見た目が若く見えたため、最初は「27、8歳くらいかな?」と思っていました。

小野と話すようになったきっかけは、私の先輩が小野の友人(その人も修復作業員)に一目惚れし仲良くなり、そこで小野が大層私を気に入っているらしいという話になり、何回か飲みに誘われたのです。

私は小野の事をタイプ云々以前に年上過ぎたので全く恋愛対象外だったのですが、先輩に

「洋子が来ないから、いつも小野の機嫌が悪くて飲み会の場の空気が悪くなる。嫌かもしれないけど、頼むから少しでもいいから来てくれ」

と言われ断れなくなってしまい、一回だけなら良いかと思い飲み会に参加したのです。

話してみると小野は優しく、周りの人達からも信頼されているようで、気さくな男でした。

最初はみんなで他愛のない話で盛り上がっていたのですが、お酒が進むにつれて来るわ来るわ小野からの集中攻撃。

「洋子ちゃんは彼氏いないの?」

「洋子ちゃんはいつもどこで遊んでるの?」

「洋子ちゃんお酒何が好き?」

「洋子ちゃん今まで何人と付き合ったの?」

洋子ちゃん洋子ちゃん洋子ちゃん洋子ちゃん洋子ちゃん洋子ちゃん…………。

私はいい加減うんざりで「…あー……はぁ…そうですねぇ…」とやる気なく答え、呑みに逃げていました。

しばらくして先輩が酔い潰れて眠ってしまったので、私はチャンスと思い「先輩を介抱する」と言い飲み会を後にしました。

その日は特に何も無かったのですが、次の日仕事が休みで家でくつろいでいると、携帯にメールが届いたのです。小野からでした。

「昨日は〇〇ちゃん(先輩の名前)大丈夫だった? かなり飲んでたみたいだけど」

私は一瞬、訳が解りませんでした。

だって昨日、私は小野とメアドを交換した覚えなどこれっぽっちも無かったのです。

いくら呑んでいたと言っても、私はかなりお酒に強い方なので絶対に忘れません。

私が小野になぜメアドを知っているのかと問い質したところ、小野はこう言いました。

「いやあ、ゴメンゴメン。昨日洋子ちゃんがトイレに行っている間に、周りのみんなが『今の内にメアドゲットしてしまえ!』って囃し立てちゃってさ。俺もその場のノリでやっちゃったんだ」

そうです。小野は私がいない間に、勝手に私の携帯から自分の携帯へメールし、なんと電話まで掛けているのです。

なんでそんな事するんだと最初は半ばキレ気味に抗議しましたが、小野は何度も何度も謝り、

「ただのメル友でいいから」

と言うのです。

あまりにも何度も謝るので、ただのメル友なら…と思い、その時は許してしまいました。

その後は心配していたほど頻繁にメールも来ず安心していたのですが、ある日突然、

「仕事が終わったら話したい事があるので会いたい」

とメールが来たのです(この頃はもう修復作業も終わっていたので、小野と会うこともありませんでした)。

何だろうと思い会社を出た所で待っていると、小野がすぐにやって来ました。

しかし、その姿を見て私は愕然としました。

なんと小野は真っ白いスーツに身を包み、結婚式で花嫁さんが持っているような小さなブーケを持っていたのです。

私が呆気に取られていると、小野は手に持ったブーケを私に差し出し

「結婚を前提に付き合って欲しい」

と言うのです。

あの時の飲み会から一回も会っていないし、まともに話もしていないのに、何を言っているんだこの男は…と私は呆れてしまいました。

でも流石に会社の前だし誰かに見られるのも嫌だったので、丁重にお断りして、私は小野をその場に残し走って帰りました。

その日の夜からです。小野の様子がおかしくなっていきました。

「さっきはゴメン。急でびっくりしたんだよね? 俺は全然怒ってないよ(^^)/メールちょうだい!」

「洋子ちゃん、なんで返事くれないのかなぁ?」

「俺さぁ、けっこう気ぃ短いんだけど(^_^;)さっきの返事くれないの? いつまで延ばすつもりなの?」

「ゴメン、もうしつこくメール送りません」

「お願い!電話だけでも出て!!」

「洋子ちゃんゴメン洋子ちゃんゴメンね」

こんな内容のメールが朝まで何十通と届くのです。

中にはいつの間に撮ったのか、飲み会の時に私を隠し撮りした写真まで添付してありました。

私はもうなんだか怒りを通り越し怖くなって、急いで小野のメアドと番号を受信・着信拒否にし削除しました(本当は強く言ってやりたかったのですが、小野は私の会社を知っていたので、下手に刺激して会社に来られたらまずいと思い言えませんでした)。

そして小野から最後に届いたメールにはこう書かれていました。

「洋子ちゃん、死にたいって思ったことある?

俺、洋子ちゃんとなら死んでもいいなぁ」

正直、ゾッとました。

けれど小野の執念はそれだけでは終わらなかったのです。

最後にメールが来てから半月ほど経ったある日、家でテレビを見ていた私の携帯に、登録していないメアドからメールが届きました。

「今〇〇町のコンビニにいるんだけど、洋子ちゃん家ってこの辺だよね? 今日仕事休みでしょ? どっか遊びに行こうよ!(^O^)/」

小野からのメールでした。

小野は私の家から数百メートルと離れていない所まで来ていたのです。

一体どうして? どうやって調べたのでしょう。

私は驚きと恐怖でしばらく固まってしまいました。

とにかく携帯を握り絞めて急いでメアドも変え、家から一歩も出ずに『この家がどうか見つかりませんように!!』と祈っていました。

今思えば、友達に来てもらうとか親に電話するとか、色々と対策はあったのですが、情けない事にそんな事も恐怖で分からなくなっていたのです。

幸い小野は私の家までは来なかったのですが、最後に最大の恐怖が私を待っていました。

メアドも変えたおかげか、それから一切音信も無くなったので、私はいつしか小野の事も忘れかけてました。

たまに思い出しては先輩と、

「本当にあいつ、ヤバすぎ。洋子も災難だったね。あんなやつだとは思わなかった」

と話のネタにするぐらいでした(先輩は私と小野を引き合わせた事を本当に申し訳ないと言ってくれました)。

そんなある日、先輩と一緒に休憩していた時の事です。

先輩が携帯を見て急に曇った表情になったのです。

「…どうしたんですか先輩?」

「う? ん…今日朝からずっと知らない番号から無言電話掛かって来てるんだよね。着信拒否にしてもまた別の番号で掛かってくるし…。何なんだろコレ」

「そうゆうの、ビシッと言った方が良いですよ? 私代わりましょうか?」

「うん、ゴメンね」

私は先輩の携帯の通話ボタンを押し、電話に出ました。

案の定、電話の相手はずっと無言です。

私「もしもし? もしもし!」

相手「………………………」

私は頭に来てその相手を怒鳴りつけました。

「テメーさっきからしつけーんだよ!!名乗れやコラッ!!」

「………やっと出てくれたね、洋子ちゃん。……………元気?」

小野のしわがれた声でした。

思わず私は先輩の携帯を投げてしまい、身体の震えが止まらなくなりました。

その後はもう先輩と二人で半泣きになりながら、その日のうちに一緒に携帯を変え、先輩は小野の友人に、小野にもうこれ以上私に関わらないようにと説得をお願いしてくれました。

それからというもの小野からの音信はピタリと無くなり、私も怯えずに済んだのですが、元からあまり男性と関わるのが好きではなかった私は更に輪を掛けて男性不信になり、ストレスで大量に髪の毛も抜けてしまいました。

繋がりは携帯電話だけなのに、あんなにも人というのは誰かを追い込む事が出来るんです。本当に怖かったです。

ここまで読んで下さった方々、ありがとうございました。

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