ピアノ騒音殺人事件

公開日: 本当にあった怖い話

IMG_4700

新興住宅地で起きた事件で、新興住宅地の欠陥が現れたものとして、有名なピアノ殺人事件を取上げる。

これは1974年平塚市で起きた事件で、当時大変話題になった事件であり、かつ過去に繋がりのない人々が、団地という密集した形態で住むようになることの、様々な意味を問いかけた事件である。

事件が起きた割には、そこで提起された社会的意味は、あまり問い直されることなく、ますます事件の背景になった要因は肥大化してきているようにも思われるので、現在取り上げる価値があるだろう。

事件の舞台になった平塚の姉崎団地は、県営住宅で、1400戸。

3DKで24世帯ずつ、60棟ぐらいの集合住宅があり、平塚の郊外に建設された新興住宅地である。

事件の3日前に、豊川一家は夫婦と子ども2人で、空き家の募集に当選して、引越してきた。その時幸子が小淵と会っている。

その時のやりとり。

「この上の者だが。近所に挨拶回りはしたかね」

「はい、あのう、一昨日越してきて夕方回りましたけど、上は両方ともお留守でしたから」

「そうか、それならいい」

幸子はそれからすぐに、子どもの佳子に

「エチケットにうるさい団地だわよ。挨拶回りをしないと催促されるんだから」

と言って、急いで封筒を持って上に行き、小淵に挨拶している。

「どうも先程は失礼しました。305に引越してまいりました豊川でございます。遅くなりましたが、どうかよろしくお願いいたします」

「そんなものはいらん。挨拶をすればよい。この下のように、いまだに挨拶に来ないのもいる」

その直後の幸子と、後で被害に遭う志津子の会話。

「挨拶回りが遅いって叱られたわ」

「そのくらいのことは言う人。変人だから、気にしないほうがいいわよ。階段で会ってお辞儀しても、返事もしませんよ」

「誰にでもですか?」

「子どもたちが、おじちゃん、こんにちは、といっても、知らんふり」

「さえ。魚釣りに行くくらいで、家にごろごろしているわね。かおりがピアノを弾くのがうるさいって、奥さんに怒鳴りこませたことがあったわ」

「まあ」

「おたくで、かおりのピアノ、うるさいですか?」

「いいえ。そんなことないわ」

ピアノの音が聞こえることは分っていて、一番離れた部屋で、テレビを点けていれば聞こえない程度だったが、それを幸子は黙っていた。

このやり取りで、団地の人間関係の幾つかが分かる。

幸子と志津子は初対面であるのに、すぐに親しくなっている。しかし、それはある「変人」を媒介にしてである。

小淵は幸子に話しかけたことで、実はとても親切にしてあげたという、普段あまり経験しない感情をもって、しばらく心を落着けていたのである。

被害に遭った宇田一家は、1970年の6月に、小淵に2月遅れで、小淵の階下に引越してきた。

父親の俊は真面目な努力家の労働者で、嫌な仕事も黙々とするので、雇用主に気にいられるタイプであった。

妻の志津子は社交的で、彼女が応募してこの団地に入った。

俊の勤め先からは遠かったが、狭いアパートから抜け出したかったので、大変喜んでいた。

かおりとみどりという2人の女の子がいた。

音楽が好きだった志津子は、団地に入ってからかおりにピアノを習わせるようになった。

事件は1974年8月28日のことだった。

小淵はこの1週間前にスーパーで包丁を買っていた。

宇田俊は朝出かけた。小淵はそれを待っていた。俊には体力的に負けるといつも考えていた。

朝からピアノの音がするので、宇田志津子と次女のみどりがごみを出しに行き、長女のかおりがピアノを弾いている時に階下に降りて行って、まずかおりを刺し、帰って来たみどりを残虐な方法で殺し、そして、その後帰った志津子を刺した。

そして、その後襖に俊宛ての言葉を書いている。

迷惑かけるんだから
スミマセンの一言位
言え、気分の
問題だ、来た時
アイサツにもこないし
馬鹿づらして
ガンとばすとは何事だ
人間殺人鬼には
なれないものだ

その後、電話線を切断し、豊田幸子に階段で会うが、部屋に戻ってから逃走した。

関連記事

半分よこせ

俺がまだ小学生の頃の話。 俺んちは両親が共働きで、鍵っ子というか、夕方までは俺一人だった。 その日もいつもと同じように、居間でコタツに入って寝てたんだよ。母の帰りを待ちなが…

姪っ子に憑依したものは

高校生の夏休み、22時くらいにすぐ近所の友達の家に出かけようとした。 毎日のように夜遅くにそこへ出かけ、朝方帰って来てダラダラしていた。 ある日、結婚している8歳上の姉が2…

老婆の顔

これは私が中学生の頃の話です。 朝練のために朝早く登校した私の友達が、運悪く学校の近くの川で自殺したおばあさんを見つけてしまったのです。 その日はもちろん大騒ぎになり、友達…

見つけて…、お願い…

これはもう25年以上も前ですが、実際に体験した話です。 元々ある場所に起因する話なのですが、当時私が高校2年から3年へ上がる春休み中に、その事は起こりました。 そのある場所…

狐の嫁入り

俺の実家は山と湖に囲まれた田舎にある。 小学校6年の時の夏休みに、連れ二人と湖に流れ込む川を溯ってイワナ釣りに行く事になった。 雲一つも無いようなよく晴れた日で、冷たい川の…

遊園地(フリー写真)

富士見ランド

私が着ぐるみショーのお仕事を始めて一年が過ぎようとしていた頃です。 アンパンマンのショーで、静岡県の『富士見ランド』という現場へ二泊三日で行くことになりました。 その時の…

茶封筒

不思議な預かり物

これは大学の先輩が体験した実話。 その先輩は沖縄の人で、東京の大学の受験のため上京していた時のこと。 特に東京近郊に知り合いもいなかったので、都内のホテルに一人で宿泊してい…

ペンタブレット(フリー写真)

アシスタントの現場で

4年程前、某マイナー系の雑誌でそこそこに人気のあった漫画家さんの所へ、3日間という契約でアシスタントをしに行った時の話です。 引っ越したばかりの、狭いながらも新築で清潔そうなマン…

ベンチに座る女

僕が中学生の頃の実体験。 当時、僕はその辺りでは一番大きなマンションの7階に住んでいました。 受験を控え、一応は深夜まで勉強する事が多かった僕は、2時頃から3時頃までの間に…

ハイハイ

学生の頃、バイト先の店長から聞いた体験談です。 ある日、店長が友人数人と居酒屋で飲んでいた時のこと。 みんな程よく酔いが回ってきた頃、一人だけ酔い潰れていた人がいました。 …