タグ: 実話怪談

戻り叩きと五十二段の石段

平成七年の大晦日、広島・尾道の斜面に建つ浜本荘で、戸が四回ずつ叩かれました。覗き穴には誰もいません。石段は数えるたびに五十一段と五十二段が入れ替わり、私の部屋の…

西を向いた樽

昭和五十三年、鳥取の倉吉の醤油蔵に入った私は、蔵頭がただ一本だけ口を西へ向けて置く樽に気づきました。若い諸味の匂い、内側に二本ある輪、逆巻きの輪竹、遅れていく柱…

ビスコ

高校時代、五人組だった私たちは、いつも「もう一人いる」気がしていました。修学旅行の夜、各自が持ち寄ったお菓子を広げると、なぜかビスコが六つ。五人しかいない部屋で…

存在しない廃墟

子どもの頃、友人二人と探検した町はずれの製糸工場の廃墟。その闇の奥から響いた若い女のため息に、私たちは一斉に逃げ出しました。三十年後、家族は口を揃えて言うのです…

家族

製本所の主任、五十嵐さんは誰も写っていない写真を見せてくる。弁当は毎日二段で、出張の土産は必ず三つ。創業五十年の慰労会の帰り、真っ暗な家の奥から軽い足音が走って…

肝試し

高校二年の夏、廃校になった分校にひとりで泊まった郡司が消えました。翌朝かけた電話は繋がり、向こうからものすごい風の音がした。しかし携帯は寝袋の中にあった。二十年…

疫病神

雨の日、ずぶ濡れの男が玄関に立ち、この家には悪いものが憑いていると告げて去りました。その日から一家を順に襲う、次々と持っていかれる災い。山あいの古い農家と屋敷神…

坂を駆け上がるもの

夜中に屋上から双眼鏡で街を眺めるのが、私のひそかな趣味でした。ある晩、坂の途中の自動販売機の脇に立っていた、痩せて骨の浮いた白い影。目が合うと、それは満面の笑み…

遺言ビデオ

冬山に単独で挑む同僚が、万一に備えて遺言ビデオを撮ってほしいと頼んできました。半年後、本当に彼は山で亡くなります。初七日に再生したその映像が一変する、背筋の凍る…

鳴らない七枚目の板

平成六年の夏、岐阜の乗鞍の麓にある古いヒュッテで、山岳部の後輩が霧に巻かれたまま戻りませんでした。その晩、暗い廊下に立っていた後輩に、私はザックの底のことを頼ま…

空き家の板壁

夜勤明けの深夜、空き家のはずの古い理髪店の板壁に、つまずいて右手を突っ込んでしまいました。すると壁の中から、汗ばんだ生暖かい手が、私の指を一本ずつ握り返してきた…