身代わり

飲食店(フリー素材)

少し昔の話をする。

私の友人が飲食店の店長をする事になった。

その店に行きたいと思いつつなかなか都合がつかず、結局その店に行けたのはオープンから一ヶ月が過ぎようとしている頃だった。

友人は忙しそうに働いていたが、何とか時間を作って席まで来てくれた。

でも、間近で顔を見て驚いた。

土気色と言うか…不気味なほど顔色が悪く、生気が無かった。

話を聞くと、オープン前から二ヶ月近く一日も休日が無いとの事。

しかも朝の7時起きで、仕事が終わって家に帰るのは午前3時。

仕事内容は一日中立ちっぱなし、事務的な雑用も友人が一人でこなしていた。

店長である友人は雇われ店長だけど、補佐役の人がまだ未熟で任せられないからそんなハードワークになってしまっていると言っていた。

友人は泣きそうな顔で、肩が痛い、腰が痛い、首が痛い、頭が痛い、足が痛いと何回も呟いていた。

休みをもらいなよと言っても、忙しい今は自分の代わりが居ないから無理だと首を振った。

翌日は本当に大事な予約が入っているから、今すぐ過労で倒れても休めないと力無く笑った友人を見て、本当に心が痛んだ。

家に帰り、何か力になってやりたいのに何にも出来ない自分を恨めしく思いながら、その夜はいつまでも寝付けなかった。

翌日目を覚ますと、身体中が今まで体験したことのないような痛みに襲われていた。

とにかく頭の天辺から足の先まで痛くて堪らず涙が出た。

身体に力も入らないし、何をするも気力が湧かない。

結局その日は風邪でも引いたのだと思い、大人しくベッドの中で過ごした。

夜になり友人から電話が掛かってきた。

何故か今日は昨日までの疲労が一切無く、嘘のように元気になったと言う。

肩も、腰も、首も、頭も、足も、全く痛くないし顔色も久しぶりに良かったと。

おかげで大事な予約も無事に今終わったんだと話し、声も弾んでいた。

その時、私が一日中苦しんでいた痛みの理由が解ったような気がした。

翌日、目を覚ますと前日の痛みが嘘のように無くなっていた。

その後、友人は少ししてやっとまともな労働環境になった。

今では独立して自分の店を持ち、そこそこ評判の繁盛店になっている。

私はあの日の事を友人に話した事もないし、今後話すつもりもない。

関連記事

ヨウコウ

俺の爺ちゃんは猟師なんだけど、昔その爺ちゃんに付いて行って体験した実話。田舎の爺ちゃんの所に遊びに行くと、爺ちゃんは必ず俺を猟に連れて行ってくれた。本命は猪なんだけど、…

犬と結婚した男

現在、インドには日本の人口の約10倍となる約12億人が暮らしている。ゆえに、それだけ人がいれば変わり者も多い。2012年に『犬と結婚した男がインドいる』とネット上で話題になった…

抽象画

娘と狛犬

5歳になる娘と散歩で立ち寄った神社でおみくじを引いた時、3回連続で凶が出た。こんな事もあるのかと驚きながら家に帰ると、嫁が訝しげな顔で言った。「それ、どうしたの?」 …

戻って来たお手伝いさん

おばあちゃんに聞いた、ささやかな話。母と二時間ドラマを見ていて、「お手伝いさんの名前って大抵○○やねえ」と言ったら、母が「そういやママが子供のころにいたお手伝いさんの一…

人面犬

9月頃、旅行で東北のある県に行った。ついでに遠い親戚に顔を出す事になった。結構な田舎で従姉妹夫婦と子供、旦那の両親が同居してて俺は初見で挨拶したりしてた。お父さんが熱帯…

黒田君

僕が彼に出会ったのは、高校1年生の時の事です。一応政令指定都市ですが、都心ではありません。家から歩いて3分以内に何軒かコンビニはありますが、全部ローソンです。小洒落た雑…

材木(フリー写真)

合いの手

俺の親父が若い時分に、山から材木を切り出す仕事をしていた頃の話。飯場と呼ばれる山の中の宿舎で、他の作業員と寝起きを共にする仕事だったそうだ。その中に民謡のとても上手い…

アパート(フリー写真)

好条件物件

まだ自分が大学在学中、あれやこれやがあって、気分を変えるため引越しをすることにした。大学のそばにある不動産屋で、大学と係わりの強いおばちゃんに条件を提示しつつ、お勧めの物件につ…

ヒサルキで思い出した体験談

あれは私が小学校4年生くらいの頃だった。私が通っていた小学校は全校生徒40人弱と過疎化が進んでいる田舎の学校で、とにかく周りは山や段々畑ばかりで、コンビニなんて学校から10キロ…

雪景色(フリー素材)

もどり雪

一月の終わり、山守りのハルさんは、山の見廻りを終えて山を下っていた。左側の谷から、強烈な北風に舞い上がった粉雪が吹き付けてくる。ちょっとした吹雪のような、『もどり雪』だ…