おじさんの予言

四つ葉のクローバー(フリー素材)

あれは11年前、某ビール会社の販促員のパートをしている時に、ある酒屋に伺った時のことです。

二回目にその酒屋へ訪問の際、お店の娘さんに

「あなたに膜のようなものが掛かって見える。

私の知り合いによく言い当てるおじさんがいるから、そのおじさんに視てもらったら?

でもその人、滅多に立ち飲みにも来ないし、今度来たら聞いといてあげる」

と言われました。

いきなりの言葉に私は驚きましたが、その時は『何かの宗教の誘いかな?』と思いました。

しかしそのおじさんの話を聞いている最中、偶然にもそのおじさんが良いタイミングでニコニコと店に入って来ました。

全くの偶然の出会いで、狐に摘まれたような感覚でした。

そのおじさんは私をジーッと眺めながら、

「これからおっちゃんの言うことは、神さんが言わはることやからよく聞きや。

但し3分の1しか言えへんからな。おっちゃんには全部視えとるけどな」

と言って話し始めました。

以下、おじさんの話。

「……今のご主人は、お子さんを学校にも出してやれないような人やなあ。

肝臓も大分いかれているし、5年後にこの人、入院するで。

この人、悪運をかなり吸ってるし、あんたも婦人系の大病するから気を付けや。

仕事は近い将来、マイクを持つ仕事もする。結構向いてるで。アナウンサーみたいな仕事や。

再婚は30歳頃やし(もう主人と別れることを予測しているかのように)、『店をあんたにさせたる』と言う人が現れるから、その人がええで。

あんた、これから色んな人と出会うし、あんたの後ろに人が無数に見える。

色々としんどいけど、でも31歳からピタッと収まるから安心しいや。

あと左の脳が詰まるから気を付けるように……」

そう言って私の手を開かせ、おじさんは私と手の平を合わせ、

「おっちゃんがあんたの悪運を吸うて運を上げたげよ」

と言うと、私の手の平にパワーを与えるような仕草をしました。

そして、

「さあ、これからあんたの運はどんどん上がるで」

と言ってくれました。

詳しく聞いてもニコニコするだけで、お名前も聞けず、身元も教えてくれませんでした。

何だか変な気持ちでおじさんと別れました。

父とは13歳で生き別れ、19歳で結婚した私は、当時何をしても運が付いていませんでした。

一人目の子供は早産逆子で生まれてすぐ死んでしまい、もう一人すぐに無事産みましたが、生活は苦しく夫が遊び好きだったため、夫のスロット代のなどの多額の借金の返済を抱えていました。

よくやっていたなと今では思いますが、恥ずかしながら24歳にしてファミリーレストランへも行ったことも無く、旅行などの経験も当然無く、とにかく毎日食べられるだけで有難いという感じの毎日でした。

私はそんな感じの生活に追われ、そのおじさんのことはすっかり忘れて日々を過ごしていました。

おじさんと会ってから半年後、主人の浮気が発覚し別れることになりました。

その3年後、疲れが出てか初産の無理がたたってか、急激な酷い腹痛に襲われ入院。

卵管が破れ、そこから内臓に血液が漏れて危うく命を落とすところでした。

別れた主人も、後で聞いたところではちょうどその5年後に肝臓を煩い入院していたとのことでした。

主人と別れてから4年後、友人の強い薦めで、全く経験が無かったにも関わらず葬式の司会の仕事をするようになりまして、毎日沢山の人と出会いました。

仕事も楽しく、とても充実した毎日でした。

30歳で再婚。31歳で下の子を出産。

偶然にも、敷金は無し・家賃3万という夢のような条件で物件を紹介してもらい、商売の経験も特に無かったのですが、主人の薦めで小さな服飾雑貨のお店をすることになりました。

優しい夫と可愛い子供たちに囲まれ、今では人並みな生活を送ることが出来ており、とても幸せに暮らしています。

後は左の脳が詰まるということだけが、まだおじさんの予言で当たっていないことになりますので、怖い気もしています。

おじさんの予言は、今思えばほぼパーフェクトに当たっています。

関連記事

田舎の風景(フリー写真)

指切り地蔵様

俺の実家の近所に『指切り地蔵様』と呼ばれている地蔵がある。 指の部分がちょうど指切りできるように変に曲がっているから『指切り地蔵様』。 小さな頃、その地蔵様と指切りをした…

ジュース(フリー写真)

ワンタ

幼稚園に入る少し前くらいだっただろうか。 子供の頃に、毎日のように一緒に遊んでくれた不思議な動物がいた。 大きさは、自分よりも大きかったから、犬のゴールデンレトリバーぐらい…

金魚(フリー写真)

二匹の金魚

小学2年生の頃、学校から帰って来たら、飼っていた黒い金魚と赤い金魚が死んでいた。 家の中には誰も居らず、心おきなく号泣していたら、遠方に住んでいる叔父二人が突然うちにやって来た…

モデルカー(フリー写真)

形見分け

俺はとある物のコレクターなのだが、コレクター友達であるAがある時突然、余命宣告を受けるような大病に罹ってしまった。 もう手の施しようがないレベルで、元気に動いているのが不思議な状…

変わった妹

高校生の頃、いつも喧嘩してた妹がいた。喧嘩といって他愛もない口喧嘩で、ある程度言い合ったらどちらかが自然と引く。 ニュースであるような殺傷事件には到底至らないような、軽い喧嘩だっ…

襖(フリー写真)

触れてはいけないもの

田舎に泊まった時の話。 私の田舎は米農家で、まあ、田舎独特のと言えば宜しいでしょうか。 とても大きな家で、従兄弟が集まる時は一家族に一部屋割り当てていました。 私が…

図書室(フリー写真)

本に挟まったメモ

高校3年生の時の話。 図書館で本を借りたら、本の中に 『こんにちわ』 と書かれたメモが入っていた。 次の週にまた別の本を借りたら、 『こんにちわ。このまえ…

夜の病院(フリー素材)

赤いパジャマの女の子

15年前に事故で左手首を手術。 夜中に麻酔が切れ、朦朧として唸っていると、傍らに赤いパジャマ姿の十歳くらいの女の子が立っていた。 『痛いの?』と頭の中で声がしたので「うん…

おばあさんの手(フリー写真)

嫁姑

10年程前、祖母が死去。死因は肺炎。寝たきりの老人の方には多いらしい。 祖母は亡くなる三年程前から痴呆が始まり、徘徊したり家中で排泄したり大声を出したり、それは大変だった。 …

和室(フリー写真)

あき様

私の家は代々旅館を営んでおり、大きな旅館のため私が幼少の頃も両親共に忙しく、会話をした記憶も殆どありませんでした。 店の者が毎日学園まで迎えに来るので、学友と遊びに行く事も出来ず…