一つの村が消えた話をする

Village1

俺はある山奥の村で生まれ育った。

人口は百人程度、村に学校は無かったから、町の小中学校まで通って行っていた。

村人の殆どは中年の大人や高齢の方で、一部の高校生や大学生の人達も村を離れている。

当時の子供達と言えば、俺と幼馴染の女子のAと男子のBの同世代のみであり、俺達より年下の村人もいなかったから、殆ど仲の良い三人で勉強をし、川遊びをし、釣りをしたりという生活を送っていた。

幼馴染のAは、俺達の中でも一番賢く、はっきり言うと美人で、田舎にこんな子がいるのは割と珍しい方なんじゃないかって、一人思っていた事もあった。

神社の神主の一族で、幼い頃から巫女として育てられてきた。

幼馴染のBは、頼りがいのある奴で、遊びの予定とか内容も殆ど彼が決めていた。

ガタイが良く、豊富な知識で楽しませてくれる親友だ。

ちなみに、町の小中学校も人数が少なく、廃校寸前のような状態だった。

村は全体的に田畑、小川、空き地が殆ど。

古い歴史がある神社、池が一つ。

村人がやっている、八百屋や服屋が一軒。

この村へ行くには、人口数千人程度の町から、村へと続く道なり20キロメートル程度の一本の山道を通る必要がある。

町から村へ行く道は、この一本の道しか無く、交通の便は非常に悪い。

山奥の村と言う事もあって、村の関係者以外の人は殆ど来る事は無い。

と、軽く村と諸々の紹介をした所で、本題に入ろうと思う。

この話は、俺が十五歳の夏、中学三年生の夏から体験した出来事。

非常に現実味の無い話だが、とある事情から、虚構を混ぜずに語る事を誓う。

説明が長いと思われるかもしれないが、なるべく分かりやすく、俺の体験を皆に知って貰う為の余計な配慮だと思ってくれ。

まず初めに、村の行事や伝承について説明しようと思う。

特定出来る者は、この村を特定しても構わない。

しかし、俺は村を仮に特定出来たとしても、ある事情から村に行く事は勧めない。

その点を、深く理解して頂きたいと思う。

神社・祭り・伝承に関して

この村の神社では、数百年前から一年に一度、ある祭りが行われて来た。

この祭りの名前は、多分特定されないと思うから書き込んでおく。

村の祭りは「辿静祭」と呼ばれ、村全体規模で行われる祭りだ。

八月十五日のお盆の日に行われ、村人全員が辿静祭に参加し、村人が露天を開き、世間で言われる「盆踊り」、この村では「鬼無踊り」と呼ばれる独自の踊りを踊ったりする。

最後は神社の巫女が「巫女神楽」、この村では「浄縁神楽」と呼ばれる独自の神楽を舞う事によって、辿静祭は幕を閉じる。

この村の村人には、辿静祭に関する三つの「禁」が伝えられており、その禁は親から子へ、子から孫へと伝えられてきた。

俺自身も、小学生の時に両親から教え込まれ、絶対に破ってはならないと言われてきた。

その禁の内容は、以下に書き込む。

第一の禁

辿静祭前日である八月十四日、神主一族以外の村人は、村の奥にある「障芽池」には近づいてはならない。

第二の禁

辿静祭当日である八月十五日、全村人は必ず人を入れてはならず、村人も村外の外界に必ず出てはならない。

第三の禁

八月十五日・辿静祭当日~八月二十日・辿静祭後日の間に、この村で、村人に、知人に、家族に、自分に何が起きようとも、その事を生涯絶対に村以外で口にしてはならない。

と言ったものだ。

この辿静祭に関する禁が、いつから村に存在するのかは分からないが、村人の先祖達が子孫を思って、この禁を伝えてきた事には変わりない。

禁を破ってしまった場合どうなるか、当時の俺は知る由も無かった。

第一の禁にある障芽池についてだが、この池は村に古くから伝わる池で、障芽池は鬼の住む巣窟に繋がっていると伝えられている。

この伝承は、障芽池の鬼伝説と呼ばれている。

障芽池の森は代々神主一族に管理されており、神主一族以外の村人が周囲に無断で立ち入る事は禁止されている。

神主一族が管理する障芽池には、五重の注連縄と五つの祠が存在し、これらは障芽池を封印しているそうだ。

八月十四日は、第一の禁に従い、神主一族以外の者は障芽池の森に立ち入る事が出来なくなるように、厳重に有刺鉄線で障芽池の森の周囲を覆ってしまう為、障芽池は完全に封鎖される。

八月十日

俺達はいつものように、小川で三人で遊んでいた。

水を掛け合ったり、水鉄砲の様な自家製のおもちゃを使って遊び、昼が過ぎ、弁当を食べ終わり、次の遊びの予定を考えていた。

俺「明日は何して遊ぶ?」

A「私は昼過ぎから浄縁神楽の練習があるから、午前中だけなら遊べるよ!」

B「これからはAも浄縁神楽の練習をする時間が増えるな。俺にとっておきの楽しみというか、やってみたい事があるんだけど、聞いて貰えるか?」

俺「いいぜ」

A「いいよ」

B「これは誰にも言わないでくれよ、八月十四日の夜にさ、障芽池の森に三人で行ってみないか?」

俺「でも、それは禁を破る事になるぜ。辿静祭の前日は、Aの一族の人が出入り口を見回っているだろうし」

A「俺君の言う通りだよ、私はやめたほうが良いと思うし、障芽池の森に行くのは無理だと思うな」

B「二人にそう言われると思っていたから、昨日の夜に障芽池の森の有刺鉄線の網を一部開けて置いたんだ。それに、障芽池の森の中に「祠」がある事を知ってるか?」

B「有刺鉄線を超えて、障芽池に行く獣道から少し外れた所に、ある祠があるそうなんだ。

一昨日、俺の両親が話をしている所を一部聞いただけなんだけどさ、その祠はこの村の歴史が存在する以前からあるらしく、その祠の中にある『石』に触れると、『見える』ようになるそうだよ」

A「そんな話、お父さんからもお母さんからも聞いた事ないけど、本当だったら気になるかも」

俺「俺もAと同じ意見だ。その話は聞いた事ないけど、何か気になる。そんで、何が『見える』ようになるんだ?」

B「それは俺にも分からん。両親が二人で昔話をしている所を少し聞いただけで、その『見える』って言葉の後、父さんが話を変えたからさ」

俺「そっか、色々怖いけど、Bの話を信じてその祠に行ってみるか」

A「私も行く!次の日は辿静祭だからお父さんから早く寝なさいって言われると思うから、なんとか屋敷を抜け出してみるね」

俺「近くまでBと迎えに行くよ、時間はどうする?」

B「夜の八時ぐらいかな、あまり遅いと何かあった時に困るだろうから、時間に余裕をもって行きたい」

俺「了解!」

A「分かった!」

俺「それで、明日はどうするんだ?」

B「Aの都合考えて、お前の家で花札とか?」

A「私は構わないわよ!」

俺「了解!、明日の朝九時頃に来てくれ」

俺達は、禁を守ると言う事の重要性を理解していなかった為、このような事を行うと決めてしまった。

村の歴史そのものでもある神主一族のA、そして親友のBを俺は止めず、彼等の意見に賛同してしまった。

これが、俺の生涯の過ちとなる。

八月十一日

村から離れていた人達が帰ってきた。

大人達、高校生達を合わせても十人程度の人数、この人数と村に留まっている者達を合わせた数が、本当の村人の人口だと言える。

この日から辿静祭の準備が始まった。

神社の参道、社、神楽殿の掃除や、彩の準備。

露店の準備に、村から外界へ通じる道の完全な封鎖網の準備、障芽池の森の封鎖準備等、村全体が慌ただしくなってきた。

この時に、Bが開けた障芽池の森の入り口が塞がれていないか心配だったが、Bによればそれは大丈夫との事。

午前中は俺の屋敷でAとBと遊び、午後は一人で釣りをした。

八月十二日

村の出入り口が完全に封鎖された。

出入り口に通ずる森や林にも封鎖網が施され、村と外界が隔絶された。

障芽池の森の入り口が完全に封鎖され、周囲を神主一族の者達が見回っているようだ。

辿静祭に関する場所の掃除や彩は大体終わり、各露店の場所も分かるほどに準備は進んでいた。

この日は、Aが丸一日、浄縁神楽の練習との事だったので、午前中は勉強、午後はBと釣りをし、一日を過ごした。

八月十三日

辿静祭への大体の準備は整った。

露店も準備が終わったそうだし、後は辿静祭当日を迎えるだけとなった。

神主一族の神主、つまりAの父親から村人全体に召集があった。

辿静祭についての話だそうだ。

禁の最終的な確認と、鬼無踊りの確認、浄縁神楽の予定の確認、最後に神主から重要な知らせがあった。

神主「今年の辿静祭でも私の娘が浄縁神楽を舞う。おそらくは完璧な出来となるだろう。皆も、心して娘を見てくれ」

村人「wwwwwwwwwwwwww」

神主「wwwwwwwwwwwwww」

A「(*ノωノ)」

俺の傍で話を聞いていたAは照れている様だった。

正直、可愛いと思った。

八月十四日 辿静祭前日 昼

今日は辿静祭の前日だ。

村人の召集が再び神主からあり、辿静祭の予定やそれに関する多くの事物が書かれた書類が配布された。

今日の夜、俺達は障芽池の森の祠に向かう。

その予定の最終確認を召集後に済ませた俺達は、Aの屋敷に来ていた。

Aが浄縁神楽を見て欲しいと言った為だ。

Aは、代々の巫女が着ける仮面を身に着け、扇や榊を手にし、浄縁神楽を舞ってみせた。

時間は三分程度だろうか、案外速く終わった。

俺は素直に、浄縁神楽に感動した。

Bも笑顔で拍手をしていた。

八月十四日 辿静祭前日 夕方

夜の予定を三人で再度確認し、各々の屋敷へ戻った。

夕飯を取り、俺は懐中電灯や虫払いの粉、何かあった時の自作の笛を用意し、準備を整えた。

八月十四日 辿静祭前日 夜

夜七時半になったので、俺は両親に、

「Bの家に忘れ物を取って来る」

と言い、Bの家に向かった。

Bの姿が屋敷の待ち合わせ場所に無かった事から、Bは既に家から出ているらしい。

俺はAとの待ち合わせ場所に向かった。

A「お待たせー(^^)/」

俺「両親は大丈夫か?」

A「浄縁神楽の練習をしてくるって言って、抜け出してきた」

俺「そっか、Bが待ち合わせ場所にいなかったんだよ」

A「そうなの!? 予定通りにいくのかな」

数十分してBが到着した。

俺「どこ行ってたんだよ!」

B「ごめん!開けておいた有刺鉄線の確認に行ってた。直されていたら元も子もないからな。直されていなかったから、一先ずはいけそうだ」

A「そうなんだ、そろそろいこっか!」

俺「ああ、数分で着くし、準備確認しながら行こう」

B「了解」

Bが開けた穴の入り口までは、なるべく人通りが少ない所を通って向かった。

俺「やっぱり、神主一族の人達が見回っているな」

はっきりとは見えなかったが、多くの人影が巡回しているように見えた。

B「隙を見て行こう」

A「先頭はBが行ってね、私と俺君は場所を知らないんだから」

B「分かった」

人影が穴の傍を離れた隙に、俺達は移動した。

俺は我先にと穴を潜ろうとした。

俺「おいB!穴通りにくいぞ!」

B「潜れば行けるって」

俺は服の背中を有刺鉄線に引っ掻けながらも、穴を抜けた。

BとAも難無く穴を抜け、森の中に入った。

俺「ここからどうするんだ?」

B「この森を北東に抜ければ、獣道へ出る筈だから、一先ずはそこに向かう」

A「森の中、何か不気味」

俺「ああ」

俺達は懐中電灯を灯し、獣道へ向かって歩き出した。

山の中の村に住んでいるとは言え、多くの獣が徘徊する森。俺達は獣が動き出す夜の森に入った事が無かった。

山犬の遠吠えが響き渡り、足元には蛇や虫がたくさん。

俺とBは平気だが、Aがずっと俺の袖を掴んでいることから、やっぱり女子なんだなと思う所もあった。

歩き始めてから、軽く三十分は経ったと思う。

獣道にはまだ出ない。

俺「おいB、まだ道に出ないのかよ? 方向間違えてないか?」

B「方位磁針を使っているから、そうはならないと思うが」

俺「少し見せてみ」

B「ほら」

俺「確かに、方向は合っているな」

A「大丈夫なの?」

俺「ここまで入ってきた以上、今から帰るとしても森の中で迷うだけだから、獣道へ出るまで歩くしかない」

A「そっか」

B「行くぞ」

俺達は歩き出した。

歩き出して五分程経った時の事だった。

獣道へ出たのだ。

俺「この獣道で合ってたか?」

B「多分そうだと思う、時間的に」

A「どうする?」

俺「確認する為に、この先にある筈の障芽池まで行くっていうのは?」

B「だな」

A「障芽池にあまり近づかないようにね」

俺とBは、そもそも障芽池を見た事すら無く、A自身も小さい頃に一度両親と行ったきりだそうだ。

なので、障芽池に続く道かも分からなかったから、祠に行く前に確かめる必要があった。

数分程度歩いた時の事。

B「獣の声とかしなくなったな」

俺「確かに、山犬の遠吠えとかも聞こえなくなった」

俺「どうしたA?」

Aの元気が無かった。

A「実は、この獣道へ出た時から何か寒気がしてて」

俺「寒気、大丈夫か?」

B「上着とか、貸すぜ」

Aはワンピース姿なので、夜の夏で寒いのも無理はないと思った。

A「何かね、肌に直接くるような寒気じゃなくて、心に直接来るような寒気なのよ」

俺達はAの状態が、良くない事に気が付いていた。

Aは精神的に疲れている時とかに、「何かね」と会話を始めるからだ。

俺「引き返すか?」

B「だが、障芽池を確認しない事には道に迷うだけだぜ」

俺「それもそうか。行けそうかA?」

A「少しなら大丈夫、行こ?」

俺「分かった、何かあったら遠慮なく言いなよ」

B「少し歩く速度を速めるか?」

俺「どうするA?」

A「今のままで良いよ」

俺「分かった」

この時、俺は本能的に良くない感覚を捉えて始めていた。

これが第六感というのかどうかは分からないが。

暫く歩いた時、

B「お?」

俺「どうした?」

A「……」

Bが何か気付いたようだ。

B「この先に小屋があるぜ、あそこで少し休んでいかないか?」

俺「小屋?」

確かに獣道の先には小屋があった。

A「そこで休も?」

俺「ああ」

Aの身が万全で無い以上、そこで休む事にした。

俺は何故か、そこに小屋がある事に違和感を感じなかった。

俺「随分と古い小屋だな」

小屋は草や木で覆われ、空を見上げても一面を覆われており、月明かりが差し込んでいなかった。

B「中に入ろうぜ、Aも俺達も休憩しよう」

俺「ああ」

Bは一人で小屋の出入り口に向かって行き、扉を開けた。

小屋の扉は鍵がかかっていなかった。

A「………」

Aはずっと黙ってしまっている。

中に入ると、Bはそそくさと椅子を探しだし、そこにAを座らせた。

小屋の中は、椅子や机、包丁のような物等、色々な物が転がっており、何かの異臭も感じられた。

Aは椅子に座り、Bは小屋の周囲を物色している。

俺は小屋の中を調べる事にした。

物が散乱している場所から角を曲がり奥へ行った所に扉があった。

俺「なんだこの扉」

俺は扉を開けようとした。

その時、中から

「…ポーン……ポーン」

というような物音が聞こえてきた。

俺は一瞬だけ手を止めたが好奇心が勝り、扉を開けてしまった。

扉の中は和式便所で、変な異臭はここから出ている事が分かった。

和式便所の窓は割れており、外の森が見える。

なんだと思い、便所を出ようとした時、

「ああ…ああああああ…ああああああ」

という声が後ろから聞こえた。

俺「!?」

その声は捻り出した様な声で、声だけでこちらを見ている気配がした。

俺「……」

俺は立ち止まってしまった。

後ろを振り向こうにも、恐怖心が勝り、硬直してしまった。

「あああ…あああああああああ…」

声が聞こえてくる、ゆっくり近づいてくる感じがした。

その時、

B「おい!何やってる!」

と、Bが小屋に戻ってきた。

同時に後ろの声は消えた。

その瞬間に俺はBに引かれ、Bは思いっ切り扉を閉めた。

俺「…………」

B「おい!大丈夫か!」

俺「ああ、Bか」

B「ったく、Aもお前も大丈夫かよ!Aは奥の椅子で寝ちまってるし、お前は扉の前で失禁しながら立ち尽くしちまってるし!」

俺は失禁していた。

恐怖の余り、自分でも気付いていなかったのだ。

俺は今体験したことをBに話した。

B「それが何かは分からないが、とにかくこの小屋から出る方がよさそうだな」

俺「だな」

B「Aも連れて出るか」

俺達は物が散乱している部屋に戻った。

俺「おい、Aは?」

B「あ? あれ、そこの椅子にいた筈なのに」

いつの間にかAが椅子からいなくなっていた。

そして、部屋の角の所から足音がした。

俺「おいA!」

部屋の角の所に行くと、壁と同化した扉があった。

B「なんだその扉」

扉を開けると、階段があった。

二階へと続く階段だ。

俺は正直、この小屋に二階があった事に気付いていなかった。

外から見ても二階と思われる所は全て、木や草で覆われていたからだ。

俺「二階にAは行ったのか?」

B「そうだろ、小屋の入り口の扉も閉まってるし」

俺とBは二階の階段をゆっくりと歩いた。

速く歩けば抜け落ちそうな程、階段の木は腐っており、朽ちている。

そして二階の部屋の扉を開けようとした時、

B「おい!待て」

俺「何だ?」

B「扉を良く見ろ」

扉は数百枚と言える数のお札で閉じられており、扉の両端には盛り塩があった。

だが、その盛り塩は黒く、変色していた。

B「扉の雰囲気からして、ここはやばいと思う。だが、その扉と壁の所のお札が破られているから、Aはこの中にいる」

俺「行くしかないだろ」

B「俺が開ける」

Bはそう言うと、思いっ切り扉を蹴飛ばした。

その瞬間、Bは何かの強い力で吹き飛ばされ、階段の一番下へ落ちた。

俺「おいB!」

B「おい!!!部屋の中を見ろ!!!!」

俺は部屋の中を見た。

中にはAが立っていたが、様子がおかしい。

こちらの方を見て、Aは両手を真横に上げている。

俺「A!!!!」

と言い、駆け寄ろうとした瞬間、人の形をした黒い影の様な「何か」がAの後ろから現れ、赤く濁った眼で俺を睨み、追いかけてきたのだ。

俺「!?」

俺は咄嗟に扉を閉め、黒く濁った塩を掴み、階段を駆け下りた。

下に落ちたBは、落ちていた包丁を手にし、身構えていた。

俺「B!!逃げろ」

B「Aがいるんだぞ!!」

俺「!!」

その時、和式便所のある方向からも黒い何かが近づいてきた。

B「クソッ!!!」

Bは包丁を持ったまま、俺と小屋を出た。

小屋を出た瞬間、

A「きゃあああああああああああああああああああああああああああ」

Aの悲鳴が小屋から響いた。

俺「A!?」

B「クソオオオオオオオオオオ」

Bが小屋に戻ろうとするが、黒い何かが追ってくる。

「あああああ…あああああああああああああ」

呻き声を上げながら迫ってくる黒い何かに、Bは持っていた包丁を投げ、俺は掴んでいた塩の塊を投げた。

「あああああああああああああああああああ」

黒い何かの動きが止まった隙に、俺とBは逃げた。

獣道を無我夢中で走って、途中で何度も転んだ。

正直、この辺りの記憶は曖昧で、良く覚えていない。

数分程全力で走り続け、俺が転んだ時、

「ああああああああああ」

耳元で声がした。

それから俺達は無我夢中で走り続け、障芽池の森の周囲に張られた有刺鉄線の前に出た。

俺とBは無我夢中で外の大人達に助けを求め、自作の笛を吹いた。

それに気付いた神主一族の大人達に助けられた。

俺とBが障芽池の森から出てきた事を知り、それは直ぐに村中に知れ渡り、俺とBの両親に家族、神主一族の他にも多くの村人が障芽池の森の入り口付近に集まった。

何も言わずとも、俺とBの服がボロボロである事から大体の検討が付いたらしく、直ぐに神社の本殿へ連れて行かれた。

既に本殿には村人全員が召集されており、異様な雰囲気だったのを憶えている。

神主「最初にお前達に憑いた存在を祓う。辛いのを覚悟しておけ」

と言い、俺とBに無理矢理に酒や酢といった物を飲ませ、身体中に塩を掛けた。

思いっ切り背中を叩かれたと同時に、俺とBは何かを吐いた。

蝋燭の火に照らされた嘔吐物を見ると、俺は無数の髪の毛を、Bは何枚かのお札のような紙を吐いていた。

背中に文字を書かれたと同時に、神主一族による祝詞が始まると、俺とBはそれから何度も何度も嘔吐し、嘔吐物の中には虫のような生き物がいた。

数時間に渡るお祓いの後、俺達は風呂に入らされ、本殿に戻った。

神主「お前達が何をしてきたのか、それから聞こう」

神主と神主一族、そして村人の睨み付ける様な視線の中、俺とBは何をしてきたのかを話した。

俺とBが事の話をしている途中に、神主は俺とBを思い切り殴った。

神主の妻、つまりAの母も話を最後まで聞いた瞬間に気絶してしまったり、俺やBの両親もずっと俯いたままだった。

両親、親族に迷惑をかけた俺は、村から迫害されると思っていた。

神主「話を聞けば聞くほど、俄かに信じられんような内容だが、今から私や一族が話す事は、もっと信じられんような内容だ。心して聞け」

話を聞いた神主や神主一族が語った内容、教えてくれた内容を纏めると、俺達が行った小屋というのは、村の伝承に語られる「鬼小屋伝説」と呼ばれる伝説上の小屋だそうだ。

村人の殆どはこの伝説を知っており、俺とBの話を聞いていた村人の中には、

村人「本当に小屋があるとはね~」

村人「昔は捜した捜したwwww」

と言う者が多くいた。

神主によれば、この小屋は伝説などではなく実在するが、小屋の存在自体から招かれなければ行く事は出来ないらしく、神主自身も過去にこの小屋を見つけようと捜した事があるそうだ。

小屋に招かれれば、招かれた者は無意識に小屋へ向かうようになると言う。

その場合、小屋以外の目的で障芽池の森へ入ると、その目的の先には小屋が現れる。

要約すると、俺達はこの小屋に招かれてしまった為、目的であった障芽池や森の祠に辿り着く事が出来なかった。

神主一族の長老によれば、この小屋の名前は鬼小屋だが、中に住んでいるのは鬼でも幽霊でもないそうだ。

この小屋の中で見た黒い何かと言うのは、この小屋に住む「障者」と呼ばれる存在との事で、この小屋には二体の障者が住んでおり、男性と女性の障者が住んでいる。

そして、男性と女性の障者は元は男性と女性の人間であったそうだ。

村の伝承によれば、数百年前に村と町の道が土石流によって数キロメートルに渡り寸断され、村の農作物が豪雨による小川の増水、水系の崩壊等の自然災害によって駄目になり、村が飢饉に陥った時がある。

飢餓状態となった村人が作物を探す中、ある日、一人の村の男性が、村の女性を村奥の森の中の小屋に監禁した。

男性は飢餓の極限状態により、監禁している女性を暴行し、奴隷のような状態にした。

簡単に言えば、女を使って遊んだとの事。

女性は飢餓による栄養失調や体力の減少で餓死してしまった。

肉に飢えていた男性は、その女性を解体し、食べた。

男性はその時に得た食人の快楽を求め、次々と村の女性を殺し、食べ始めたと言う。

中には、生きたまま解体され、食人された女性もいた。

女性ばかりを狙うのは、彼が根本的に男性であるからだそうだ。

この男性の情報は村に広がったが、村人の男達はこの男性を捕えるどころか、同じように村人の女性を殺し、共食いしだしたのだ。

殺し合い、食べていく内に人は狂って行き、最初は殺される側だった村人の女性が村人の男性を殺した。

そして、それを見た他の女性も人を殺し、食べ始めるようになった。

数百人いた村人は数十人から数人へと減り、最後の村人の女性を食べた男は、森の中の小屋で自殺したと言う。

この自殺した男こそが鬼小屋の男性障者であり、最初に暴行され、殺され、食べられた女性が女性障者である、

俺とBに憑いていたのは、この障者の両方の力であるそうで、Bには男性障者の力が、俺には女性障者の力が憑いていたそうだ。

村人が消滅したこの村には、後に現在の神主一族の先祖「初代神主」の一家が引っ越し、村復興の始めに村の守り神となる神社を建てた。

家や道に残された村人の骨を村奥の池に水葬した後、村奥の池に集まった村人の怨念を封印し、名前を障芽池と名付け、池自体を名前で縛った。

後世にも自分の力が村を守るようにと、自分の力を封印した石と、その石を祭る祠を村奥の森の中に建てた。

強い怨念が留まり続ける、村奥の森の小屋の二階の扉を封印し、小屋自体を人の認識外へと封印した。

初代神主の力では認識外への封印が限界で、それが招かれれば行けると言う隙を作る結果となってしまった。

初代神主は子孫達に、この小屋を鬼小屋と語り、中に住む者を障者と呼んでいたそうだ。

初代神主は、この村で死んだ村人を弔う為、この村に生きる村人を村の鬼から守る為、この村で生まれた鬼を外界に出さない為、八月十五日に神社で行う村全体での祭り、即ち辿静祭、鬼無し踊り、浄縁神楽を残した。

村の伝承を残す用意をした過程で生まれた、幾つかの綻びを繕う為に、初代神主は最低限の三つの禁を残した。

初代神主は村に引っ越してきた者達、即ち今の村人の先祖達に、永久に村を守れるようにと、この村の伝承を受け継がせた。

長きに渡り、村の伝承は受け継がれてきたが、ある年、村の伝承を知ったある一族が森の祠へ行き、初代神主の力を得ようとする事態が起きた。

何故か森の祠にある石を壊せば、自分達にも力が宿ると思っていたらしい。

一族の企みを知った村人が神主一族に報告した事により、一族の行いは未然に防がれることとなった。

力を得ようとした一族は、村八分の後に村を追放された後、人間関係で失敗し多額の借金を背負い、遂には一族で投身自殺した。

この事から、森の祠や、村の伝承の大半を村人に残さない方針に変わり、この世代から神主一族にのみ管理が任せられ、森の祠の周囲にも封印がなされる事となった。

この当時のB一族は、この方針を無視し、一族内で森の祠の存在を伝えていたらしく、Bは両親の会話からその存在を知る事となった。

森の祠になされた封印は、八月十四日に弱まる為、その封印の組み直しを当代神主は、毎年一人で行う。

神主によれば、組み直された封印は、来年の八月十四日まで弱まる事はないが、強い悪意の絡んだ何らかの手段で、この封印を破壊し、初代神主の力を得る事が可能だそうだ。

神主「この事態を機に、我々一族が隠していた秘密は村人に知られてしまった事になる」

神主「B一族は本来ならば村を追放されるべきだが、今は構ってられん」

神主一族「Aの囚われた小屋へ行く用意が出来たぞ」

神主「分かった。私は一族全員でAを救いに行く。我々にも、初代神主が小屋に施した認識外の封印の解き方は知らされていない。

だから小屋から呼ばれている君達しか、もう一度小屋に行く事は出来ないのだよ。

正直、娘が今も生きているという保証はどこにもない。既に遅いかもしれないが、協力してくれ」

俺「Aは必ず、この場所に連れ戻して来ます、任せて下さい」

B「禁を犯した自分が言うのもなんですが、これは自分に下された天命だと思っています」

神主一族「我々は途中まで君達に付いて行く。Aを見つけたら直ぐにこの清めの水を飲ませ、背中にこのお札を張りなさい。

そして、清めの塩をAの身体全体に掛け、障者が現れたら○○○~と真言を唱えなさい」

神主「真言で障者を数秒止める事が出来ると思うが、止められなかった場合はひたすら走り、我々の下へ来るのだよ。

立ち止まって行けない事を忘れずに」

俺とB「はい」

俺とBは覚悟を決めた。

八月十五日 辿静祭当日 午前一時

俺とB、そして神主と神主一族は、障芽池へと続く獣道の途中にいる。

神主一族の人数は数十人で、頼もしいと思った。

俺「この辺りから、二人で行きます」

B「必ず、Aを助けて来ます」

神主一族「頼んだぞ」

神主「教えた事を忘れずにな」

俺とB「はい」

俺とBは一本の獣道を進む。

途中から、山の獣の声が聞こえなくなってきた。

俺「そろそろか」

B「だな」

暗がりを抜けた先には、小屋があった。

俺とBは、無言で道具の最終確認を行った。

俺「あれ」

B「どうした?」

俺「いや、鋏なんて入れたっけなって思ってさ」

B「裁断鋏か、何かの役に立つんじゃないか?」

俺「そっか」

俺とBは作戦の最終確認をした。

作戦はこうだ。

俺とBで小屋に一気に入る。

下の部屋に障者がいた場合、Bが相手する。

その隙に俺が二階へ行き、Aを助ける。

二階に障者がいた場合、障者を足止めし、Aを連れて一階へ降り、BとAを守りながら神主一族の下へと走り抜ける。

作戦と言うような作戦ではないが、この方法で行くしかないと思った。

俺「行くぞ」

B「ああ」

俺とB「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

二人で突進するように小屋に入った。

下の部屋に障者はいなかったので、下はBに任せ、俺は階段を駆け上がった。

二階の扉を思いっ切り蹴破った。

「ドン!!!!」

俺「A!!」

俺はAの名前を叫び、中に居るであろう障者を威嚇した。

部屋の中には……。

全裸の状態で手を天井から吊るされた紐で縛られ、足を紐で床に固定されたAがいた。

しかし、中に障者はいなかった。

A「○○君」

俺「A!!!」

俺はAが縛られている事よりも、単純に生きていた事に喜び、Aを縛っている紐を鞄に入っていた裁断鋏で切り、清めの水を口に含ませて飲ませ、背中にそのままお札を張り付けた。

そして、塩を身体に振りかけた。

俺はAを抱え、二階の階段を降りる直前、

A「○○君!後ろ!!」

俺は後ろを向いた。

男性障者「OmyいえkrOOOOOOsrあcjんじcjぞscjじおn」

後ろには、首を吊ったままこちらを見つめる黒い何か、いや、男性障者が俺には聞き取る事の出来ない言葉を発している。

俺「○○○~!!!」

俺は神主から教わっていた真言を唱えた。

だが、男性障者はこっちに近づいてくる。

俺「何だよ!!!!!」

俺はAを抱えたまま、後ろに下がって行く。

A「△△△~!!!」

その時、Aが俺の知らない真言を唱えた。

男性障者「んこvそkvmぢんヴぉzm???」

男性障者の身体が痙攣しているように見える。

俺はAを抱えたまま、階段を駆け下りた。

そして俺達は小屋を抜け出した。

B「おい○○!!!早く行くぞ!!!」

俺「ああ!」

俺達は獣道を走っている。

女性障者「あああああああああああああああ…ああああああああああああ」

俺「来たか」

B「○○○~!!!」

女性障者「あああああ……ああ…あ………」

Bが教わった真言を唱えると、女性障者は姿を消した。

女性の方には効くようだ。

B「効いたみたいだな」

?「ポーン………ポーン」

聞いた覚えのある音、嫌な予感がする。

女性障者「あああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

突然、女性障者が雄たけびをあげながらBの足元から出現し、Bの脚を掴んだ。

俺「B!!!!!!!」

B「○○!!!!!先に行け!!」

Bはそのまま女性障者に引きずられて行った。

Bを後で必ず助けると誓って、俺はひたすら走った。

神主一族の下へ着いた。

神主「よく戻ってきた!!B君は?」

俺「捕まった。俺とAを逃がすために」

神主「そうか」

神主一族「Aをすぐに本殿へ!!」

俺と神主、神主一族は直ぐに村に戻った。

そこで、ある事を村人から神主へ伝えられる。

村人「B一族が先程、この村を出て行った」

神主「!?」

神主一族「禁を破るとはな」

村人の話を纏めると…。

神主一族が村から障芽池に行っている間に、その隙を付いて、B一族全員が車に乗り、村の出入り口の封鎖を強行突破したそうだ。

今日は辿静祭当日であり、村から出ることは第二の禁を破った事になる。

B一族が村を出て行った理由は、恐らくは村八分による追放を恐れた為だと考えられた。

俺は、自分の息子で跡取りでもある子の帰りも待たずに、保身の為にこの村から逃げて行ったB一族が信じられず、正直、罰でも当たればいいのにと思っていた。

八月十五日 辿静祭当日 午前六時

神社の本殿へと通されたAは、身体の穢れを消滅させる為の禊を行う用意がされた滝へと向かった。

禊にはAの両親が付き添うらしい。

俺はその間、本殿にもう一度呼ばれ、神主一族の方と話をする事になった。

神主一族「単刀直入に言わせて貰うが、B君についてだが、恐らくはもう手遅れだろうと思う。

Aは若い女性と言う点が、障者にとっては生かす利点になった為、監禁され、遊ばれる程度で済んだかも知れないが、B君は若い男性だ。

男性障者にとって、男性は邪魔にしかならない。

その部分だけで、B君は殺されるだろうからな」

俺は助けると誓った時、薄々感じてはいた。

もうBを救う事は出来ないのではないかと。

俺は分かっていながらも、親友を失った事に涙した。

神主一族「彼の魂は、あの小屋に永遠に留まり続けるだろう。

彼はあの小屋で『第二の男性障者』となる。

我々に障者はどうする事も出来ない。あの存在は既に輪から外れた存在なんだよ」

神主一族「君がまだ、あの小屋に呼ばれているのならば、もう一度小屋に行けば会えるだろうな。

だが、今度は確実に君は殺されるよ?

それに、君が死ねばAは一人になるんだよ?

その事を忘れずに」

俺は泣きながらも、泣いても済む問題では無いと分かっていた。

神主一族は、俺の聞きたかった事を全て話してくれた。

俺が死ねば、Aは一人になる。

Bには悪いが、俺は死ぬわけにはいかない。そう思った。

この時、自分が非道だと初めて認識した。

八月十五日 辿静祭当日 午前十時

Aの禊が終わり、障者によって障られた部分、簡単に言えば身体全体の清めが始まった。

Aと俺は全裸に白装束を纏った状態で、祝詞の途中で何度も冷水を身に浴びる。

Aは途中で涙ぐんでいる所もあったが、三時間の清めを乗り切った。

最後は自分の身体から何かが消えていくように体全体が軽くなった。

清めを終えた俺は、神主からAの事について教えて貰った。

神主「Aや君の穢れ障りは、これで完全に消滅した。

Aについてだが、身体の至る所から障りが抜けて行くのを私は見た。

恐らくあの小屋では監禁と同時に、暴行に近い行為を何度もさせられたのだ」

当然の事だが、神主の手は怒りに震えていた。

俺に何故、その話をしたのかを神主は語った。

神主「いずれ君がAの傍に付いて、正しい判断を下す時がくるだろう。

Aは君の身を気に掛けている。

今度こそ、君が正しい判断をする事を私に誓ってくれ」

俺は神主の予言めいた言葉を聞き、今度こそAを守ると強く誓った。

八月十五日 辿静祭当日 午前十一時

清めが終わった後、飯を食べ終わった俺とAは、神主一族の屋敷、つまりAの家で寛いでいた。

Aが小屋に囚われる直前以来、俺はAと会話をしていない。

俺から話を切り出して見る事にした。

俺「あのさ、暇だから花札やろう?」

A「良いよ。こいこいね?」

俺「ああ!」

やっとまともな会話が出来た!

この後花札をやりながら、昨日の夜、つまり障芽池の森に入った時から、今日の清めが終わるまでの記憶が全く無かった事や、昼食を食べている時から幽霊の様な存在が見える様になった事を聞いた。

小屋での記憶が無くとも、Aは心身ともに傷付けられたことには変わりない。

これを生涯の教訓にすると、Aに、そしてBに誓った。

Aは両親から、Bは家族と共に引っ越したと伝えられていた。

八月十五日 辿静祭当日 午後三時

神社の神楽殿の前に、神主によって村人全員に召集が掛けられた。

重要な話だそうだ。

俺とAも神楽殿の前に向かった。

神主「突然だが、今年の辿静祭を中止する。

ここまで用意をしてくれた皆には感謝するが、昨日から予想外の事が多発している。

鬼小屋絡みの件、B一族の逃亡の件、森の祠の中の霊石が破壊されていた件だ。

森の祠の件についてだが、私は昨日の朝、再封印の為に森の祠に行った。

その時は、森の祠の周囲の封印は破られておらず、霊石も破壊されてはいなかった。

今日の朝、森の祠に異常が無いか確認しに行くと、封印が破られており、祠の石、初代神主の霊石が破壊されていた。

破壊された霊石からは、微塵の霊力も感じ取れなかった事から、霊力を何者かが奪った後、あの霊石を破壊したと考えられる。

初代神主の霊石は、この村のあらゆる封印を支える力であり、封印の維持が不可能になった今、全ての封印は崩れ、封印されている存在が溢れ出し、この村には災厄が訪れる」

当然の如く村人は慌て始めた。

森の祠の霊石を破壊した犯人…。村人は大声で言わないだけで、B一族の仕業だと気付いていた。

神主「今より、この村での全ての禁を廃止する。

我々一族は、この村を脱出する事を決断した。

今夜にもこの村を出ていく。

以上だ」

予想外の展開となった。

村に災厄? 俺は軽く混乱した。

昨日から色々な事があった。

だが、それは村全体に影響する事は無いと、心のどこかで思い込んでいた。

しかし、思い返せば村に災厄が訪れる原因の全てが、俺の責任。

俺の家族はどうするのか、その事が頭を過った。

A「○○君の家族は、私の家族と一緒にホテルに移動するそうだよ」

俺「そうなのか!?」

A「お父さんと○○君のお父さんが話しているのを聞いてね」

俺「そっか」

何故か安堵した。

Aと一緒に居られる事からか、それとも村を出るからなのか。

この時の俺は、色々な思いが頭の中を回っていたように思う。

八月十五日 午後五時

神主の話から二時間が経った。

あの話を村人が聞いてから、村中は大騒ぎになっていた。

逃げ出す用意をする者、ここに残ると主張する者、揉める者、あちらこちらで見られた。

俺の家族は、Aの家族(神主一族)と共に俺の家族が運営するホテルへ一時的に移動する事となった。

学校も変わるそうだ。

A「村ともお別れだね」

俺「そうだな」

A「この村、どうなっちゃうのかな」

俺「俺にもどうなるかは分からない」

神主に俺が直接聞いた事によれば、初代神主が残した、自分の霊力を封じ込めた霊石の力は、本当の所は初代神主が死ぬ直前の年まで効力を発揮したが、死後すぐに効力は無くなってしまったらしい。

そこで初代神主の子孫達は、辿静祭に関する禁を作り、その禁を恐れ、守ろうとする村人の念を、何らかの方法で石に集める事で霊石と化し、その霊力を核として村のあらゆる封印や結界を保っていたそうだ。

その霊石が破壊され、霊力が奪われた今、村に施された何百と言う封印や結界が徐々に崩壊しているらしく、全てが完全に崩壊するのは五日後の八月二十日。

完全に崩壊した時、村に留り続けてきた災厄が訪れると。

正直、この伝承のどこが真実なのか、未だに隠されている事があるように思ってならない。

神主は祠の封印が破られた件に関して、自分自身でも疑問があるらしい。

その疑問を纏めると、まず祠の封印を破った者は、痕跡からして一人だそうだ。

B一族は祠の場所を知っている事は確かだったし、霊石の破壊されていた周囲には多くの靴後が残っていた為、霊石を破壊したのはB一族で間違いない。

だが、祠の周囲に施された封印を解くには、例え祠の場所が分かっていたとして、そこに行ったとしても、『近づいた者の生気を欠く封印』の前では無力になり、どうしても祠に近寄る事は出来ない。

代々の神主は、この封印が弱まった所を修復しに行く為、弱まっている封印の前である方法を使う事によって、なんとか再封印が可能となる。

霊石が破壊されたのは、神主が再封印をした直後なので、弱まるも何も万全な状態だ。

要約すると、人には祠の封印は破れないが、人外の存在ならば封印を破り、B一族を祠の中へ通す事が出来る。

俺は胸騒ぎを感じていた、何か忘れてはいないかと。

八月十五日 午後七時

俺とAの一族を乗せた専用の車両が村を離れた。

同時に、両一族の重要な物や必要な物を乗せた大型車両も村を出た。

俺は『何か忘れているような気がする、こんな結末になる最初の段階の当たりで、何か気付いていなかったか?』と心の中で呟いた。

A「何か忘れ者?」

俺「嫌、気のせいだったみたい」

俺はあまり思い詰めないようにした。

そして俺とAは、村を後にした。

後日談 八月十六日 午前八時

俺はホテルでAと花札をしていた。

俺「 (´?????`)こいこい!」

A「( ´´?∀´?` ) 」

俺「( ´?` ) こいこい!」

A「( ・?ω・?)」

俺「(?? ⌒ ??????? ⌒ ??) ニゴッ こいこい!」

A「(p>□<q*))○○君!! 」

俺「キタ━ヽ(∀゚ )人(゚∀゚)人( ゚∀)人(∀゚ )人(゚∀゚)人( ゚∀)ノ━!!」

俺「五光だ!!」

A「。・゜・(/Д`)・゜・。うわぁぁぁぁん 」

俺「俺の勝ちだね(。?????) wwwww」

A「見てよ!!!」

A「ほら!!四光!!」

俺「(´、ゝ`)ニヤリ 速く出さないAが悪いのさ}

俺「wwwwwwww」

A「( ´Д⊂ヽエーーン 」

今日は五光を出せるなんて、何かツイてるなんて思いながら、Aと楽しく花札をしていた。

神主によれば、昨日村を脱出した人は三十人近くいるらしく、殆どが老人の方だそうで、その殆どが老人ホームに暮らす事になるそうだ。

真夜中に村を出た一家によれば、田圃の畦道に身長百二十センチ程度の顔が血に塗れ、手が六本生えた獣が立ち尽くしていたそうだ。

その獣の傍を車が通りかかると、足元には山犬の頭が転がっており、脳髄を引き出して遊んでいたそうで、こちらには見向きもしなかったらしい。

神主によれば、この獣は食人された村の子供達の怨念が形を変えて現れた存在らしく、人を襲わないが、人以外の動物を玩具にするそうだ。

これも村に封印されていた怪の一種らしい。

神主「今話したような怪の一種に、現象となって現れる怪そのもの、そしてその怪の元とも言われる「因縁」は、村から放たれている。

所縁、因縁と言った存在は、村と関係した者、あの村を知る者、村の怪そして因縁を知る者に取り憑き、更に因縁を拡大していく。

因縁によって起きた災厄があの村をこれから襲う。何れ村が無人となる時、あの村は因縁の溜まり場、怪の溜まり場となるだろう」

俺は村に特別な未練がある訳ではない。Bとの事も非道ながら断ち切った。

そして何より、自分自身、親族自身に、そしてAの身にまだ何も異変など起きていなかったから、あの村が妖怪とかの吹き溜まりになろうとも、知ったこっちゃない。

そう思っていた。

最後に村を出てきた他の一族によれば、最終的に村に残った人達は二十人程らしく、老人や中年の大人が殆ど。

八月十七日から、村の中で黒い人影を見る者が増えた。

その人影は赤く濁った様な瞳で、奇声を上げながら不規則な動きで追いかけてくる。

それを見た者は、次々と精神を病んでしまったと言う。

精神を病んだ数日後には自殺、あるいは奇声を上げながら障芽池の森へ走って行ったり、家族に噛みついて肉を食い千切ろうとする異常な行動が見られたそうだ。

それを見かねた人が村を出ようとすると、服を脱いだ大勢の村人が車の上に乗っかってきたらしい。

精神を病んだ人達の中でも数日持ち応えた者は、決まって全裸で村の中を夜中に集団で徘徊し、家の中に人を見つけては奇声を上げて飛び掛かり、人を何処かへ連れ去っていくそうだ。

こんな事態になれば、警察も動かざるを得ない。

八月十八日に警察が村へ入った。

しかし、幾ら家の中や森の中を捜しても、生きた村人は誰一人として見つからなかった。

その変わりに、あちらこちらで死体が発見された。

自宅の風呂釜の中で茹で上がっている遺体、小川に水死体として浮かんでいる複数の遺体、神社の木で首を吊っている複数の遺体、そして森の中で首を吊っていたBの遺体など、多くの遺体が見つかった。

それら全ての遺体の傍には、本人の物と思われる遺書が置いてあり、集団自殺、事故死、病死と言う事で片がつくらしい。

ただ、村を出て行った人数と、村で死んでいた人数が合わないらしく、未だに発見されていない死体が存在するとされている。

この件に関しては、村の有力者の多くが、事件をなるべく公にしないように手配したそうだ。

俺はBの遺書とされる物を見せて貰い、不自然な点に気付いた。

今から書き込むのは、Bの遺書の一部。

「八月十四日、午後六時。

この遺書が見つかる頃には、俺は死体で見つかっているだろう。

俺は今から障芽池の森へ行く。

未練が無い事は、ここに綴って置く。

ある時は笑い、ある時は怒ってくれた、○○とA、今までありがとう」

この遺書が書かれている時間帯は、俺とBが待ち合わせをしていた一時間半前で、俺とAの所にBが遅れてきた頃には、既に自殺していた事になる。

しかし、そう考えると俺とAの所に遅れて来て、鬼小屋に行き、村に戻り、また鬼小屋へ行き、障者に連れ去られて行ったBは? …と言う事になる。

仮に、俺とAの元へ遅れて来たBは既に死んでおり、それから行動したBが他の何者かだったとしても、俺は彼の事をBだと思う。

村に警察が入り、事実上この村の村人がいなくなってから数日後に神主一族の一人が自殺した。

Aとは血縁が遠い人ではあったが、良くAの面倒を見てくれた人だ。

神主「次は我々か。Aだけでも逃がさなくては」

神主によれば、村を離れた村人に憑いて居た因縁が、数日経った頃に姿を変え、縁があるものにそれは作用しだしたそうだ。

村に残っていた村人の多くが死んだ今、村を離れていた者に災いを齎す為に、因縁は活動を起こし始めた。

神主一族の一人が自殺して十数日、Aの両親と俺の両親は、両一族の知り合いが経営する施設に俺とAを預けた。

どちらの両親とも最後の別れの言葉は、

「因縁は自分達で祓え」

だった。

当時はこの言葉の本当の意味を、理解出来なかったと思う。

それから数日後、Aの両親、そして俺の両親は交通事故で他界した。

Aと俺の両親が死んだ時刻は、場所は違えど殆ど一緒だった。

「ある交差点の交通事故で即死」

施設の管理者からそう伝えられた俺とAは、涙が枯れるまで泣きじゃくった。

俺達は長い夢を見ているんじゃないか…とね。

その数日後、俺の祖父母と曾祖夫母が、放火による火災で他界。

更に数日後、残ったAの親族全員があの村に行き、一家心中したとの事だ。

正直怖くて、Aと俺はテレビを見なかったが、記事になっただろうと思う。

当時は、何故俺達が施設に預けられたのか、自分でも良く分からなかったが、俺の両親も、Aの両親も、敢えて自分達との関係を断つことで、俺達を因縁から間一髪の所で救ってくれたのだろうと、大分遅くなってから気が付いた。

結構長々と村の消滅について語ってしまった。

俺は、因縁の元となっている場所に行き、やるべき事をやる予定でいる。

昔、俺に憑いた因縁を祓える人がいると聞き、呪術に関係する村へ行った事がある。

その村も、その呪術が原因で村人の多くが死んだそうだ。

俺は多くの因縁を人に繋げてしまった。

この村の因縁を祓う事は出来ないが、多くの人に散らせる事によって、因縁その力を弱める事が出来る。

この話を読んだ人達の中には、村の因縁と関わりをもってしまう人がいるかもしれない。

もし身近に災いを齎してしまった場合は、冷静に行動する事を勧める。

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