裏S区(長編)

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九州のある地域の話。

仮だが、S区という地域の山を越えた地域の、裏S区って呼ばれている地域の話。

現在では裏とは言わずに「新S区」と呼ばれているが、じいちゃんとばあちゃんは今でも裏S区と呼んでる。

まあ、裏と言うのは良くない意味を含んでる。

この場合の裏は部落の位置する場所を暗に表してる。

高校時代は部落差別の講義も頻繁にあるような地域。そこでの話(あくまで体験談&自分の主観の為部落差別、同和への差別の話ではありません)。

今から何年か前に男の子(仮にA)が1人行方不明になった(結局自殺してたのが見つかったけど)。

俺はS区出身者。彼は裏S区出身者だけどS区の地域にある高校に通ってた。

まあ、彼は友人だった。あくまで「だった」だ。

1年の頃は仲良かった。彼が1人の生徒を虐めるまでは。

虐められたのは俺。周りは誰も止めない。止めてくれないし、見てもない。傍観者ですらなかった。

必死にやめてと懇願しても殴る、蹴る。俺は急に始まったから最初はただの喧嘩と思い殴り合ったが、彼と俺の体格では全く強さが違う。

でも、次の日も急に殴ってきた。意味も無く。理由を聞くも答えない。

薄っすらと笑っていたから、もうとにかく怖かった。

ある日いきなりAが学校に来なくなった。俺はかなり嬉しかった。

でも、もうその状況では誰も俺に話かける奴はいなかった。初めての孤独を味わった。

多数の中に居るのに絶対的な孤独だった。それからAが3週間学校を休んだある日、先生が俺を呼び出した。

先生「お前Aと仲良かっただろ?」

俺「いえ…」

先生「うーん…。お前Aを虐めてないか?」

俺「はい?え?俺が?それともAが俺を??」

先生「いや、お前が。大丈夫誰にも言わんから言ってみろ。問題にもせんから」

俺「いや、俺がですか??」

このときは本当に意味が分からなかった。先生の中では俺が虐めてることになってるし。

で、俺は本当のことを言うことにした。

俺「本当は言いたくなかったけど、俺が虐められてました…。皆の前で殴る蹴るの暴力を受けてましたし…」

先生「本当か?お前が?他の生徒も見てたか??」

俺「見てましたよ。っていうか何で先生は俺が虐めてるって思ったんですか?誰かが言ったんですか?」

先生「いや…。いや、何でも無い」

先生の態度がこの時点で明らかにおかしい。何故か動揺してる感じ。それから数分2人とも無言。

その数分後にいきなり先生が言い出した。

先生「Aがな、休んどるやろが?なしてか分からんけど、登校拒否みたいな感じでな、家に電話しても親が出て、居らんって言うてきよるんよ」

俺「…」

先生「そんでな、昨日やっとAと連絡取れて、色々聞いたんよ。そしたらAが言ったのがお前が怖いって言うんよ」

俺「はい?俺が??」

先生「う~ん…。そうなんよ。お前が怖いって言って聞かんのよ」

俺「いやいや、俺が?逆ですけどね。俺はAが怖いし」

先生「ほうか、いや、分かった。もっかい聞くけどお前は虐めてないな?」

俺「はい」

って言うやりとりの後解放されて、自宅に帰った。

実際の虐めって多人数を1人で虐めるものだと思ってた。

中学生の時に虐めを見たことあったからその時のイメージを虐めだと思ったし、よく聞く虐めも大体が多人数が1人にお金をたかる、トイレで裸にする。こういうことをすることだと思ってた。

まさか、たった1人の人間がたった1人の人間を虐めるのに先生まで巻き込み、俺1人だけをのけ者にしようとしてるとは思わなかった。

生まれて初めて人に殺意を抱いた。ぶん殴るとかじゃなく、ぶっ殺したいって本気で思った。

その次の日から俺は学校を休んだ。行く気にはなれんし、行っても1人だし。と思って。

ただ、この登校拒否中にありえないものを見てしまい、俺はちょっと頭がおかしくなりかけた。

起こったのは、飛び降り自殺。

俺の住んでたマンションから人が飛び降りた。

たまたまエレベーターホールでエレベーター待ちだった俺の耳に「ギィーーーーー」って言う奇怪な声と、その数秒後に「どーーーーん!」っていう音。

その「どーん!」と言う音は自転車置き場の屋根に落ちたらしいのだが、それを覗き見たときは本当に吐き気と涙がボロボロ出た。

これはただの恐怖心からなんだが、でも虐めにあっていた俺にはとてつもなく多きな傷だった。

これは本当にトラウマになっていて、今でもエレベーターには乗れない。

会社にある建物のエレベーターはまだなんとか乗れるが、マンションにあるような外の風景が見えるものには全く乗れなくなった。

なぜなら、この時に絶対あり得ないものを見たから。

自転車置き場を見下ろしていた俺が前を向き直した瞬間に螺旋階段が見えた。

そこに、下に落ちてる人間と全く同じ服で髪型(これは微妙で下にあるモノとは異なってたようにも見える)の人間が立ってた。これは多分見ては駄目だったんだと思う。

螺旋階段を下に向かってゆっくり降りていってたんだ。すごくゆっくり下を向いたまま歩いてた。下にあるものと瓜二つの人間が。

ここでエレベーターが来たときの合図の「ピン」って音が鳴ったんでビクってなり後ろを振り向いた。

そこにも居た。と思う。多分いたんだろう。でも良く覚えてない。

今考えれば居たのか?と思うけどその時は居たって思ってた。

「ピン」の音に振り返った瞬間に「どーん」って再度聞こえたんだ。

でも、今度の音はエレベーターの中から、

「どーん、どーーん。どーーーん。どーーーーん」

って。俺はもう発狂状態になってそれから倒れたみたい。

すぐに病院に連れて行かれた。見たもの、聞いたものを全て忘れるように医者から言われて、薬も処方されてそれから1週間は「うぅぅ」ってうめき声を上げてるしかなかった。

1週間過ぎぐらいには大分良くなっていたのだけど、本当は親や医者を騙してた。

良くなってなんか無かった。寧ろその時からその「どーん」って音はずっと付いて回ってた。

その後、学校に行こうと思い出した頃にAの存在を思い出した。俺がそもそもこんな事になったのもAのせいだ。

あいつがあんな虐めをしなければこんな目にも合わなかった。

アイツは俺をこんな目に合わせるような奴だから居なくなればいい。そうだ、この「どーん」って言う音に頼もうって本気で思ってた。

俺は本当におかしくなってたんだと思う。本気でこの「音」の主にお願いしてた。

次の日に学校に行った俺は、昼休みの時に早退したいと先生に言った。

先生も俺がどういう状況かを知っていたからすぐにOKを出してくれた。Aはその日も休みだった。

その帰りがけに先日部落差別を無くそうという講義を学校でしていた叔父さんに出会った。

その叔父さんはAの叔父さんに当たり何度か会って話したこともあった。

だけど、その叔父さんが俺を見た後からの様子や態度が明らかにおかしい。最初見かけた時は普通に挨拶をしたのにその後俺を二度見のような感じで見ていきなり「あ~…」とかいいだした。

俺は「こいつもAに何か言われてんのか?」って感じで、被害妄想を爆発させて怪訝な態度のこの叔父さんを無視して横切っろうとしてた。

その時に急にその叔父さんがブツブツブツブツお経のようなものを唱え始めた。

俺はぎょっとして、その叔父さんを見返した。いきなり「あ~」などと訳の分からない態度を取り出し、それだけならまだしも俺にお経を唱えたのだ。

生まれて初めて自分から人をぶん殴った。

言い訳がましいけど精神的におかしかったから殴る事の善悪は全くなかった。ただ、苛々だけに身を任した感じだった。

いきなりでびっくりしたのか、その叔父さんも蹲って「うぅ」って言ってたが無視して蹴りを入れてた。

Aの親戚ってだけでも苛々してたのもあり、

「こら、お前らの家族は異常者の集まりか?人を貶めるように生きてるのか?お前差別をどうのこうの言ってたが、自分がする分には構わんのか?あ~?何とか言えや、こら!お前らは差別されるべき場所の生まれやけ、頭がおかしいんか?」

って感じでずっと蹴り続けてた。でも、ここで再度予想外のことが起きた。

以下会話。

叔父さん「ははははははははは」

俺「!?なんだ気持ち悪い。いきなり笑い始めやがって!」

叔父さん「あははははは。お前か、お前やったんか。はははは」

俺「??まじ意味分からん、なんがおかしいんか?」(未だ蹴り続けてたけどこの時は大分蹴りは弱くなってる)

叔父さん「ははは、やっと会えたわ。はははそりゃAも%$&#やなー。ははは」(何を言ってるのか意味不明)

俺「は???お前ら家族で俺を虐めようてしよったんか?」(この辺りで怖くなって蹴らなくなってた)

叔父さん「おい、お前がどうしようが勝手やけど、○○←俺の名前 が痛がるぞ。アニキは許しても俺は見逃さんぞ」

俺「は???マジでお前んとこはキチ○イの集団なんか?おい?」

叔父さん「○○君、ちょっと黙っとき。叔父さんが良いって言うまで黙っとき」

俺「いや、意味分から…」

「どーーーーーん」

いきなり耳元で音が鳴った。俺はビクってして振り返ったら目の前にのっぺりとした細面の顔が血だらけのままピクピクしながら笑ってた。俺はまた、発狂した。

この顔の見え方がかなり異常で、通常人間の顔を見る場合に半分だけ見えるって言うのはありえない。

でも、この目の前の顔は、例えて言うとテレビ画面の中にある顔がカメラのせいで半分だけ途切れてて半分は見えてる状態。

その瞬間にAの叔父さんに力いっぱい殴られて、意識を失った。

起きた時に、俺は家の自分の部屋ではなくリビングの隣の両親の寝室で寝かされてた。

時間を見たら20時。リビングからの明かりが漏れてて両親が誰かと話をしてた。

俺が起き上がり、寝室のドアを開けてその人物を見た時にすぐに飛び掛った。

Aの叔父さんとAの叔母に当たる人がそこに座って両親と話てたから、それを見た瞬間にもう、飛び掛ってた。

すぐに親父に抑えられてたけど俺は吼えてたと思う。

Aの叔父さんは「ごめん、本当に悪かったね」を繰り返してたけど、どうしても許せなくて親父の腕の中でもがいてた。

母親がいきなり俺の頬をひっぱたいて「あんたも話しを聞きなさい!」 とか言い出してたけど、俺はもう、親にまで裏切られた感じがして家を飛び出そうとして親父の手から抜け出し、自分の部屋に向かい上着と財布を取った。

が、上着を羽織ろうとした瞬間に上着の腕の中に自分以外の手があった感触がして再度叫んだ。

両親とAの叔父、叔母がすぐに来て、Aの叔母がブツブツ言いながらお経みたいなものを唱え始めだして、おじが俺の服を掴んで踏み始めた。

親父は青ざめながらそれを見ていて、母親は一緒に手を合掌して俺を見てた。

この時は、マジで自分が狂人になったのかと思った。

数分後、俺も落ち着いてきて、両親とAの叔父、叔母と共にリビングへ向かった。

それまでの短い時間、Aの叔父さんはずっと俺に謝ってた。

それからのリビングでの話は今でも忘れられないし、そこで再度起こったことも忘れられない。

以下会話(Aの叔父さん=Bさん、Aのおばさん=Cさん とする)

Bさん「本当に、殴ってしまってごめんな」

俺「いや、いいです。こちらも苛々してましたので、すみません」

親父「ん?お前なんかしたんか?」

俺「いや、俺がBさんを殴ってしまった」

Bさん「あ、いや、それは俺が○君を見ていきなりお経とか唱えたから嫌な気がしたんやろ?○君のせいじゃないわ。俺がいきなりすぎたんがいけんかったんやから」

親父「申し訳ございません、それは聞いてなかったので」

俺「え?なんの話をしよん?俺がBさんを殴ってBさんがいきなり」

ここまで言って気絶前の事を思い出した。

俺「あれ??俺気絶する前にナニカ見たわ…」

Bさん「うん、そやろな…。俺は○君みてすぐに気付いてなあ。何かおるって、それでお経を唱えたんよ」

母「大丈夫なんですか?何かって何ですか?」

Cさん「えっとね、私らが住んどる地域がなんで裏S区って言われるか知っとる?」

親父「えっと、失礼かもしれませんが、差別的な意味ですよね?」

Bさん「それはそっちだけの認識やな、じいさん、ばあさんによう言われたやろ?裏Sには近寄るなて」

親父「言われましたね。でもそれは部落差別的なもんやと思ってましたけど、違うんですか?」

Bさん「いや、そうや。そうなんやけど、差別があるけ言うても今も言い続けよるんは裏Sの歴史がちと異常なんや」

親父「いや、私も妻も生まれはS区やからその辺は分かってますけど、部落とか集落系での差別ってどっこも同じようなものでしょ?だから、異常っていうのは分かります」

Bさん「はは。そうやろ?そういう風にとらわれてしまってるんやな。裏S区は部落やからって事でも、他国のモンの集まりでもなく昔からこの地域に住んでたモンの集まりなんや」

親父「はい。ただ、違いが私にはちょっと…」

母「あれですか?あの鬼門がどうのとかって言う話ですか?」

Bさん「ん?鬼門の話か。まあ、そんな感じなんやろうけど、裏Sにうちと同じ苗字が多いやろ?」

母「はい。多いですね、A君とことBさんの家は親戚やから当たり前やけど、それにしても多いですね、S区には全然いないのに裏S出身者では結構見かけますしね」

Bさん「あの辺は昔から霊の通り道って言われとんな。ナメ○○○(なんて言ったかは不明)とかそんなの聞いたことないですか?」

親父「いや、名前は知らないですけど、聞いたことはあります」

Bさん「まあ、その地域はそういう地域でして、うちらの家系はほとんどが霊感があるって言われてたんですね。それが原因で発狂する奴もおれば、いきなり何するか分からんって感じでいつの間にかそういう集落、部落になっていき差別されるようになったんですわ」

母「でもそれやと裏S区はかなり広いからおかしくないですか?Bさんとこの家系だけで裏S区自体がそういう風に分かれますかね?」

Bさん「うん、分かれるんやろうな。最初は3、4の家のもんが発狂し始めてて、でも、それが村中で始まってとなって行き、最終的に40〜50件も起きれば、その周辺全体がおかしいって思われるやろうし。昭和の時代にそんなアホみたいな話を信心深く聞く人間が少なくなってきてるしな」

親父「それでも、それで部落になるんかなあ」

Cさん「まあ、うちらの家系ではそう教わっとるんです。だから生まれてきた子らには霊が見えるってことを前提に接しとる。見えん子もおるやろうけど、霊は居るって教えとるんですよ」

俺「いや、それと俺が体験しとるのとBさんの話と何が関係するんですか?」

Bさん「○君。最近Aの様子がおかしくなかった?いきなり学校休んでるのは置いといてそれ以外になんかおかしいことなかった?」

俺「最近っていうか、分からん。急に殴りかかってきたりしてたけど」

Bさん「急にか、なんも言わんかったか?」

俺「いや、急に。意味分からんし。あ!そういうことか。Aが急に異常になったってこと?霊が見え初めて発狂し始めたんっすか?」

Bさん「いや、Aはまともや。でも何をすればいいか分からんかったよ」

俺「は?まともじゃないっすよ。あいついきなり殴り始めたし、しかも笑いながら。皆怖がって俺を助けようともせんかったし」

Bさん「○君、殴られたときに怪我するようなこと受けてないやろ?いや、殴る事自体は悪いことやから庇ってるんじゃなくてな。うちの家系での霊を見つけたときの対応は笑う事なんよ。やけん、異常者に見られることもあるけど、普通は無視してるんやけどな」

母「ってことは、○に霊がついてたって事ですか??」

Cさん「うん、今も憑いてる。それと○君ベランダに誰か見える?」

俺「はい??なんですか?ベランダですか?」

ここで俺は気絶するまえに見たモノとは別のものを見て発狂しそうになった。

Cさん「大丈夫。絶対にココには入れんから」

親父「え?なにがですか?」

親父には見えてないし、もちろん母にも見えてない。

Bさん「あ、いえ。それでね○君にはちょっと憑いてるんや」

俺「あ、あれか…。飛び降りの奴見てしまったからか」

Bさん「いや、違うよ。あれは多分たまたま。本当に偶然。でもその偶然がベランダの奴で、それ以外に憑いちゃだめな奴が憑いとる」

俺「え?」

Bさん「うん、それが憑いちゃだめなんよ。厳密に言うと霊とかじゃなく、うちの家系では××××って言うんよ。それを言葉には出しちゃだめですよ。すぐ移るから」(両親を見て)

母「××××」(なんて言ったか忘れた…。バラ??なんとかだったけど不明)

俺「!?」

母「これで私に憑いたけん○は大丈夫でしょうか?」

Bさん「いや、そういうもんでもないけど、本当にそれは言わないでください」

母「息子が困るのは一番いやですから」

Bさん「多分、それをするともっと困ります」

俺「もう、やめていいよ。っていうかなんなん?俺が霊に呪われててAはそれ見て俺を殴ってたん?でも、それはおかしいやろ。そんなんします?普通。っていうか、笑いながら殴ったらいいん?霊が追い払えるん?」(ちょっと困惑してて捲し立てた)

Cさん「ごめんね、そういう風にしか教えてなかったからやったんやろうね」

Bさん「御祓いする時にはな、絶対に笑いながら相手を追い出すんよ。こっちは余裕だ、お前ごときって感じで。んで憑かれてる者を叩くと憑いてるものが逃げ出すって感じなんよ。もちろんお経やったりお呪いやったりが必要なんやけど、あいつは見様見真似でやってしまったんやろうな」

俺「でも、あいつ蹴ったりもしたし」

Bさん「うん、それは行き過ぎやな。でも、Aが学校休んでる理由は○君が怖いって。まあ、○君に憑いてる者が怖いってことなんやけどな」

それから数分そういう話をした後に、Cさんが御祓いをするための道具を駐車場に取りに行って、Bさんが俺を守る形で周りを見張ってた。

その後準備が整い、御祓いが始まったけど、今まで見たどの御祓い方法よりも異常だった。

神社のような御祓いでもなくお寺のようにお経を唱えながら木魚を叩いてる訳でも無い。ただただ笑いながらお経を読んでる感じ。

そのお経もお経という感じではなく「ブツブツブツブツ…」を繰り返していて、ただ小声で話してるような感じだった。

それから何度か手を叩かれたり、頭を払われたりした。

それが終了してBさんが「もう大丈夫」と俺に言い、Cさんが「もう見えないでしょ?」っていうのでベランダを恐る恐る見てみたが何も無かった。

次の日から俺は普通通りに学校に行くようになった(ただし、エレベーターは1人で乗ることが出来ないためいつも親と一緒に乗ってた…) 。

ただし、この日Aに異常が起きたらしく、その日の夜に「Aが居ないんだけど○君の家に行ってないか」という連絡がAの父親からあった。

次の日からBさんやAの両親が捜索願いを出して探してたらしいが、家に家出をするといった感じの手紙が置いてあり家出人の捜索のため警察が捜索をするということは無かったらしい。

Aの親が電話をしてきた理由は、その手紙に俺の名前が何個も書かれていたことが起因らしい。

俺は霊が乗り移ってたからと言う理由があったからと言ってAを許してはなかったから、どうでもいいって思ってた。

Aが行方不明になって3日目の朝に「どーーーん!」っていう音が聞こえて起きた。

俺はもう、そんなことがないと思ってたから本当に汗がびしょびしょになり、すぐに親の部屋に逃げ込んで、少し経って夢での出来事だったことに気付いた(というかそういう風にした)。

ただ、その日にAが飛び降り自殺をしており、時間帯も朝方であったと聞いて、その夜から怖くなってきて1人で寝ることが出来なくなった。

遺書が見つかって居る事から自殺で間違いないようで、遺書の中に俺宛の部分があり

「ごめん、本当に悪かったね。多分俺らの家系は部落でちょっと頭がおかしい家系が多いんやと思う。自分の家系のせいにしたくないけど、お前を殴ったのは本当に悪かった。ごめん」

って書かれてた。

それからその次の夜にお通夜があり、俺も両親と共に行ったのだが、俺はすごく嫌がってた。

ただ、親が

「一応供養だけはしとかな。変なことあったら嫌やろ?」

って言うので仕方なく行くことになった。

お通夜もかなり変わっており、通常のお通夜と違い遺影など無く、その代わりに紙にAの名前が書いてあり、それを御棺の側面にびっしり貼り付けていて、近付くのも嫌になるような不気味さを漂わせていた。

Bさん曰く、

「写真を置くと写真の顔が変形するんだよ、それを見るのが耐えれないほどの奇怪なモノだからこの地域ではこういうやり方でやるんだ。名前の書いた紙をびっしり貼ってるのはコイツはAだ。××××ではないんだ、っていう証なんだ」

との事。

その時Aの父親が俺に話し掛けて来て、

「迷惑かけてごめんね」

とAが家出したときに書いた手紙と遺書を見せてきた。

遺書の部分は上記の通りだが、この時は本当は見たくなかった。

家出をした際に書かれた手紙には、

「○←俺の名前 にあいつが憑いてたんだけど、ずっと俺を殺そうと見張ってる。叔父さん(Bさんのこと)が○のあいつを御祓いしたからもう大丈夫って言ってたけど、あいつは俺に来たみたい。でも、おとうさんはあいつを御祓いできないだろうし、おかあさんの家に行ってきます。行く道であいつが憑いて来たら、他に行ってみるね」

とあった。

Aの両親は別居中だったため、Aは母親方の実家に向かったらしかったが、そのまま行方不明になったらしい。

ただ、何故か警察は家出だと言って、行方不明というよりは家出人としてしか扱わなかったそうだ。

その手紙は本当に見なかった方が良かったって思った。

あいつとか書かれてるし、意味も不明なので、その日までの現実離れした出来事をかなり思いだされて怖さで震えてきた。

Aの自殺した時間が朝方だったことも怖さを増して、ここには居たくないって本気で思った。

俺がおかしかったんじゃなく、こいつらが異常だって思った。

お経も無く、変な平屋のような場所に棺桶が置かれており、びっしりとAの名前が書かれた札を貼っていて、その挙句親戚の何人かは笑っているのである。

韓国だかどこかで “泣き子” といって泣くだけの為に葬式に参加してるってやつがいるって気味の悪い話も聞いたことがあるけど、この集落に伝わる葬式も気味が悪いを通り越して異常でしかなかった。

うちの両親もさすがにこの状況は怖かったらしく「もう、帰るか」と挨拶も早々に切り上げた。

それから数日後にBさんが両親に言ったのが、俺に憑いてたのはAのおばあさん(つまりBさんの母親)で、それが××××になって憑いていたとのこと。

もう、そんな話はどうでも良いから聞きたくもなかったけど、聞いといてとの事なので聞かされた。

飛び降り自殺をした人間も裏S区出身者で××××に追いかけられてた事。

俺に取り憑いた理由は分からないが、以前Aの家に行った時に憑いたのかもとの事などを聞かされた。

そこで俺も怖いと思っていたことを2つ聞いた。

1つ目はBさんに殴られる前に見た顔について。

2つ目は、飛び降りしたはずの人間が階段に居て下の遺体の元に駆け寄ろうとしていたアレは何なのか。

そうするとBさんは、

「2つ目については、死んだ人間は死んだことを分からない事が多い。だから下に自分が居たので取りに行こうとしたんじゃないかな」

との事。

ただ、そこで邪魔をされると呪いをかけようとするとの事。

ここで俺は邪魔をしてないと口を挟んだところ、

「お前、エレベーターを呼んだだろ?『ピン』って音が邪魔なんだよ」

ってBさんの口調がかなり強い言い方に変わった。

本当に飛び跳ねそうになった。俺の両親もかなりびびってきてた。

Bさんはその口調のまま言った。

「お前なあ、見ちゃだめだろ?俺はいいがお前はだめだろ?見んなよ。俺をみんなよ。なあ?おい。聞いてるか?おい?」

って感じで。さすがに親父が怒って

「何言ってんだ?怖がらせてどうする!」

というとBさんがビクンってなって、

「あ、ごめんなさい。申し訳ない、ちょっと来てたので聞いてみようと思ったんです、申し訳ない」

って言い出して口調を戻した。

「見ては駄目だったと言っても、見たくて見たんじゃないから、もういいだろ?な」

と自問自答を繰り返し、その後俺に向かって

「もう、絶対に大丈夫、本当に申し訳なかった。この亡くなった奴も××××に追いかけられてて、○君に乗り移ってたあいつに怒ってしまって、○君のとこに着たみたい」

との事 。

1つ目の質問については、

「それが××××」との事(この名前はもしかしたら日本語とかでは無いか、もしくは方言なのかなあと、この時に思った) 。

そしてAのおばあさんが××××になってしまった。でもAの父親が自分の母を消すのは心許ないとの事で御祓いを避けてたとの事。ただしAが亡くなってしまったため流石にもう腹を決めたらしく、御祓いを昨日済ませたと聞いた。

そしてBさんが帰るとの事だったので玄関で見送りした。

Bさんが玄関を出た直後に、いきなりBさんの笑い声が聞こえた。

「あはははははは。ははははは」

って。

俺はびくっとなり膝から崩れた。

親父は「やっぱりあそこの連中はおかしいわ」と、怖さからか、それとも本当に怒ってるのか怒鳴る感じでそう言ってた。

母は「もう、あの人らに関わるのはやめようね」と言い出して、涙目になっていた。

あんな話をしていて、笑いながら御祓いすると聞いていても、流石に家を出た瞬間にあんな笑い声を張り上げている奴を同じ人種とは思えない。

「あはははははははは」と笑っててその声が聞こえなくなって初めて3人とも動けるようになり、リビングに戻った。

俺が

「あいつらはおかしいよ、絶対異常やって。っていうかあいつエレベーターで帰ったんやろうか?」

と言ったら、親父が

「あいつとか言うな、一応年上やろうが。はあ…もう、関わらんようにしとけ」

と言って鍵を閉めに行った。

その直後に「早く帰れ!!」っていう怒鳴り声が聞こえて、心臓が止まりかけた。母親も「ひぃ」ってなってた。

親父が鍵を閉める前に夕刊が郵便受けに入っており、それを中から取ろうとしたら、上の部分に引っ掛ってしまっていたので、外から取ろうとしたらしい。

しかし、Bさんがまだエレベーターホールでニヤニヤしてたらしい。

親父はぶち切れてて「警察呼ぶぞ!」とか言い出しており(怖かったんだと思う)、横の家の人とかも出てきて、Bさんは、

「え、い、いや、今帰ろうとしてたとこです。え?なんですか?」

とか言ってたらしい。

言った瞬間に又ケタケタと笑い始めてエレベーターに乗って帰ったらしい。

親父が「塩撒け。塩!」と言い出し、狂ったように塩を撒いていたので、隣人からしたら親父も異常に見えたかもしれない。

その後、両親と一緒に有名な神社に行って御祓いを受けて、家を引っ越した。

S区からは移動してないため同じ学校の地域だったが、俺は他の地区の学校に転入をしてもらい、それ以降は一切裏S区には近づいていない。

今は新S区と名前を変えてるが、地域性自体は変わってないようであり、従兄弟の通うS区の学校では未だに同和教育があり、地域は言わないものの差別的な事が現実にあると教えてるとの事。

しかしあくまで部落、集落への差別としか言わず、裏S区の事情、情報は皆無で裏S区と呼ぶと教師が過敏に反応し「新S区だ」と言い直したりとかもするそうである(これは九州特有の人権主義、日教組等によるものだと思うけど)。

Bさんに関しては一切関わりを絶っているため、今はどうなってるかは不明。

うちの両親はこの事件までは裏S区に関しての差別意識は皆無だったが、これ以降はかなり毛嫌いしており、その地域の人達との関係をかなり制限している。

俺はそれ以降霊的な出来事は皆無だけど、エレベーターだけは1人で乗れず、恥ずかしながら1人で寝ることも出来ないので妻にすごく馬鹿にされている状態。

終った直後の頃はトイレに行く時も親を起こして(高校生なのに…)行ってたくらいに心身が恐怖で埋まってた。

俺に関しては裏S区の出身と聞くと、差別というよりも恐怖だけが全身を駆け巡り、話も出来なくなる。

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