走る男

公開日: 洒落にならない怖い話

ビデオテープ(フリー画像)

とある休日、Aは余りにも暇だったので近所の古びたレンタルショップにビデオを借りに行った。

するとそこはもう閉めるらしく、閉店セール中だった。

店内には古いビデオをどれでも一本百円で売り払っているコーナーがあった。

そこでAはどうせなら埋もれている名作を見つけて得しようと、張り切ってビデオを漁った。

しかし殆ど聞いたこともない駄作ばかりで、Aはガッカリした。

当たり前だ、だから百円なのだ。

暫くして諦めかけたAだが、一つだけ目に留まるビデオがあった。

『走る男』

そうタイトルだけ記された何とも斬新(?)なパッケージのビデオ。

『しょうがない、どうせ百円だし暇潰しになればそれでいいか』

Aは自宅に帰ると早速ビデオを再生した。

タイトルも出ずに、いきなりホームレスのようなボロボロの服を着た痩せ型の男が走っている映像が映し出された。

『手に何か持っている…鋸だ。何で鋸なんか持っているんだ?』

それにしてもこの男、こんな全力疾走しているのにバテるどころか汗一つかかず、スピードを落とす気配さえ一向に見せない。

『ん…? そう言えばさっきからこの男、見たことあるような道を走ってないか?』

Aは段々と胸騒ぎがし始めた。…嫌な予感がする。

『あれ? この道は…? この角を曲がったら…?』

次のカットで胸騒ぎは確信になった。

ああ、ヤッパリだ。この男は家に向かって来ている。

しかし、気付いた時には男は家のすぐ前まで着いていた。

いつの間にかカメラは男の視点になっていた。

画面は古いアパートのAが住んでいる二階部分を映し出している。

急いでベランダから外を覗くと…居る。あの男が。

男は迷わずベランダの柱を鋸で切り始めた。

訳の解らないAは、

「おい!何すんだよ!やめろよ!」

と男に怒鳴った。

すると男はAを見上げた。Aは思わず息を呑んだ。

画面からは確認出来なかったが、男は両目がロンパッてカメレオンのようだ。

そしてボロボロの歯を剥き出しにしてニヤッと笑い、走り出して視界から消えたかと思うと、階段を駆け上がる音が聞こえる。

『ヤバい!ここに来る!』

鍵を閉めようと玄関に急ぐが、男はもうそこに立っていた。

居間まで追い詰め、鋸を振りかざす男。Aは咄嗟にリモコンで停止ボタンを押した。

その瞬間、男は居なくなっていた。鋸も無い。

Aはすぐにビデオからテープを引っ張り出してゴミ箱に捨てた。

Aの部屋のベランダの柱には、深々と鋸の痕が残っていた。

関連記事

呪いの連鎖(長編)

呪いって本当にあると思うだろうか。 俺は心霊現象とかの類は、まったく気に留める人間じゃない。だから、呪いなんか端から信じていない。呪いが存在するなら、俺自身この世にはもう居ないは…

村

閉ざされた集落

もう20年以上前、少年時代の話である。 俺は名は寅、友達は雄二に弘樹と仮名を付けておく。 ※ あれは小学校六年生の夏休み、俺達は近所の公園で毎日のように集まり遊んでいた。 …

ハサミ

ハサミ女

近所に「ハサミ女」と呼ばれる頭のおかしい女がいた。 30歳前後で、髪は長くボサボサ、いつも何かを呟きながら笑っている、この手の人間の雛形的な存在。 呼び名の通り常に裁ちバサ…

ガラス瓶

知り合いに、瓶を怖がる女性がいます。コーラ瓶、一升瓶はもちろん醤油の小瓶も触れない。 そんな彼女に聞いた話。 ジュース容器といえばペットボトル主流の現在だけど、彼女が子供の…

井戸

蠱毒

心の整理が出来てきたので、書こうと思います。長文になります。 ※ 俺には二人の大切な友達がいました。 小学校からの付き合いの友達で、社会人になってからもよく一緒に酒を飲みに行…

女性のフリーイラスト

晴美の末路

へへへ、おはようございます。 今日は生憎天気が悪いようで。あの時もちょうど今日みたいな雨空だったな。 あ、いえね、こっちの話でして。え? 聞きたい? そんな事、誰も言ってな…

日本人形(フリー画像)

ばあちゃんの人形

母から聞いた本当にあった話。肉親の話だから嘘ではないと思う。 母の昔の記憶だから、多少曖昧なところはあるかもしれないけど。 ※ 母がまだ子供の頃、遊んで家に帰って来たら居間の…

んーーーー

現在も住んでいる自宅での話。 今私が住んでいる場所は特にいわくも無く、昔から我が家系が住んでいる土地なので、この家に住んでいれば恐怖体験は自分には起こらないと思っていました。 …

駅のホーム

勘違い

とある路線の通勤時間帯の上り電車。この線は都心でも通勤時間帯の乗車率がずば抜けて高く、車内はまさにすし詰め状態である。 その日は運が悪いことに下り線でトラブルがあり、ただでさえ混…

神降ろし(長編)

2年くらい前の、個人的には洒落にならなかった話。 大学生になって初めての夏が近づいてきた金曜日頃のこと。人生の中で最もモラトリアムを謳歌する大学生といえど障害はある。そう前期試験…