あの目(長編)

目

夏休みの少し前くらいの出来事。

俺と友人のA、Bが、夏休み中にN県の山奥へキャンプへ行こうと話していると、それを聞いていた留学生2人が「一緒に連れて行って欲しい」と声をかけてきた。

その2人は俺達とゼミが一緒だったのだが、特に親しく会話した事もなく、仲が良くも悪くもなかったため、『なぜ?』とみんな疑問に思ったが、断る理由も無いためOKした。

当日、今までその留学生2人(C、D)と殆ど話をした事がなかったため、この機会にと話してみると、2人とも少しナルシストっぽいところと自己中なところはあったが、まあ普通なやつだった(少なくとも、その時の俺はそう感じた)。

他愛も無い話を続けながら電車に揺られ、途中からバスに乗り換えキャンプ場に着いたのだが、時期が時期であったため、家族連れやら俺達と同じような学生やらでキャンプ場がごった返している。

A「ここでキャンプするのか? なんか “ゆったり” とか “のんびり” とか、全くできなさそうだぞ?」

俺「そうだな。なんかトイレや流し場なんか、順番待ちの行列になりそうだな…」

すると、会話に加わらず地図とにらめっこしていたBが、こんな事を言い出した。

B「この先2キロ先に砂防ダムがあるっぽいんだが、そこが結構開けていてキャンプできそうだぞ。そっち行かね?」

留学生2人も、ここまで来てこんな混雑は嫌らしく、俺とAも同意見なので、迷わずBの意見に賛成した。

幸いキャンプ道具やBBQ用の道具は持参しているので、何も無い場所でも問題なくキャンプは出来る。

寧ろ、人工的に作られたキャンプ場よりそちらの方が良いんじゃないかとも思えてくる。

俺達は荷物を持って山道を進んで行ったのだが、山道というものを少し甘く見ていた。

最初のキャンプ場に着いたのは昼頃だったのだが、砂防ダムに着く頃には午後15時を過ぎていて、疲れていたが早々にテントの設置と、晩飯の準備を始めないといけなかった。

俺とAは、テントの設置と晩飯用のかまどなどの準備。BとC、Dは、薪拾いにと、2手に分かれて作業をする事に。

俺とAは、黙々と作業をし始めた。

BとC、Dは、何往復か薪を持ってやってきて、『次で最後かな?』と考えていたが、いくら待っても3人が戻って来ない。

手際が悪かったのと遊びながらだったため、予想以上に時間がかかってしまい、もう午後18時を過ぎている。

『そろそろ暗くなるし、早く戻ってきてくれないかな…』などと考えていると、林の中から口論のような声が聞こえてくる。

暫らく俺とAがそれに耳を傾けていると、BとC、Dが口喧嘩をしながら帰って来た。

何かCと留学生2人の間に、険悪な雰囲気が漂っている。

俺とAはこんな所まで来て喧嘩をしたくないため、まあまあと3人を宥め、ひとまず平和に晩飯を済ませ、未だにぶちぶち文句を言っているC、Dをテントに押し込めると、俺とAはBに別のテントの中で事情を聞いてみた。

以下はBの語った話。

3回目の薪拾いをしていると、留学生の片割れのDが、川の上流の岩場の先に洞窟を見つけたらしい。

3人がその洞窟の中に入って行くと(洞窟というより、人口的な洞穴っぽかったらしいが)、10メートルほど奥にボロくて小さな祠があったらしい。

Bは何かその祠から嫌な感じがしたため、早急に立ち去りたかったらしいが、留学生2人は大興奮していて、Bの制止を一切聞かずに祠の扉を開けてしまった。

B「おい、やめろよ、こういう場所は意味があるんだ、余計な事するなよ」

C「別にいいだろ、誰も見て無いし」

D「ビビってるのか?」

CとDは、完全にBをバカにしていたらしい。

そして、扉を開けたCが何かを見つけた。

それは半透明の茶褐色で、一見すると琥珀っぽい石のようなものだった。

Bはその石を見た時に何か言い知れない不安感を感じたらしく、とにかくその石を置いて洞穴から出て行かなければいけないと感じたらしい。

そして口論となった。

B「それはこの祠の物だろ? さっさと元に戻してもどろう」

D「俺達が見つけたんだから俺達のものだろ」

C「こんなところに無用心にあるんだから、捨ててあるのと同じだろ。俺達が貰っても問題ないはずだ」

B「誰のものとかそうじゃなくて、それはそこに安置してあるものなんだから、勝手に持ち出しちゃだめだろ!」

C、D「誰がそんな事決めたんだよ!」

B「祠があるってことは、誰かがここを管理してるって事だろ!人のものじゃないか。さっさと戻せよ!」

C、D「大事な物なら鍵くらいするだろ。無いなら捨ててあるのと同じだ!だから俺達の物だ!!!!!」

Bが何を言ってもC、Dは言う事を聞かず、最後には顔を真っ赤にして激怒し始め、そのまま口論をしながら戻って来て、今に至るらしい。

俺とAがC、Dの非常識さに呆れていると、Bはこう言い出した。

「実はさ、あの祠の扉。何かお札みたいなのが貼ってあったんだ…。Cはそのお札を破いて扉を開けていた。あれは絶対何かヤバイものだって…」

Bが真顔でそう話すのを聞いてしまったためか、俺は何か不気味な視線がこちらを覗いているような気がし始め、急に寒気がしてきた。

Aも同じように感じたらしく、押し黙っている。

すると、外でCとDが騒ぐ声がする。どうやら2人は、俺達はほっといて外で酒盛りを始めたらしい。

俺達3人はそこに加わる気にもなれず、留学生2人に「もう寝るから少し離れたところでやってくれ」と伝えると、テントに入って寝る事にした。

その時、CとDどちらか知らないが、ボソっとそいつらの国の言葉で、俺達をバカにするよな言葉を吐いたのをよく覚えている。

発音のニュアンスと表情でそれが解った。

真夜中、俺は何かの物音で目を覚ました。

テント近くの広場を、誰かが歩く音がする。

始めは、誰か小便でも行ってるのかと思ったが、何か様子がおかしい。

足音は2つのテントを中心に広場をぐるぐる回っているようで、止まる気配が無い上に、それどころか段々と足音の人数が増えている。

CとDが何かしているのかとも思ったが、足音から察するに、人数は少なくとも5~6人は居る。

それと何かよく解らないが、妙な違和感も感じた。

俺はただ事では無いと思い、横で寝ているAとBを起こす事にした。

AとBは初め寝ぼけていたが、外の様子がおかしい事に気が付くと目が冴えたらしく、聞き耳を立て始めた。

暫らく聞き耳を立てていると、

B「何かおかしくないか?」

俺「どう考えても今の状況はおかしいだろ」

B「いや、そうじゃなくて…」

A「じゃあなんだよ…」

そこで俺は、違和感の正体に気が付いた。

俺達がテントを張っている場所は、開けているとは言えそこまで広くはない。広さは畳15畳ほどだろうか。

その周囲を大回りに歩けば、普通は草のすれる音や、すぐ横にある川に入って水しぶきを上げる音がするはずだ。

でもそんな音は全くしない。ただ地面を歩く音しか聞こえない。

Aもそれに気付いたらしく、暫らく3人とも沈黙していた。

俺「…やっぱ原因は、Bの言ってた石のせいだよな?」

A「…だよな」

俺達は外に出て何が起きているのかを確認する勇気もなく、そのまま寝る事も出来ずじっとしていた。

するとどれくらいの時間が経ったか分からないが、足音がしなくなった。

暫らくの沈黙の後、俺が外に出て確認しようかと2人に話している時、

「%$’!&%#!%’#”%!!」

と、隣のテントから留学生2人の物凄い悲鳴が聞こえてきた。

何と表現したら良いのか、言葉で表現できない悲鳴だった。

俺達が声に驚いてビクッとなっていると、悲鳴に続いて隣のテントで何かが揉みあうような音と、2人が何か懇願するような声を上げている。

俺達は流石にまずいと思い、3人で目配せすると、勇気を振り絞って懐中電灯を片手にテントの外に出た。

外の様子を見た時、そこで絶句して固まってしまった。

隣のテントから2人は引きずり出されおり、2人は地面に頭を抱えてうずくまり、彼らの国言葉で何か叫んでいる。

異様なのはその周囲で、2人の周囲には、ボロボロの服を着た青白い顔の人々が十数人群がり、無言で留学生2人の体に何か黒っぽいものを塗りたくっている。

そのボロボロの服を着た人達は暫くその行為をし続けていたが、不意にそれを止めると、一斉にこちらを振り向いた。

その後の記憶は俺達には無い。

気が付いたら朝になっていて、俺とAとBは、自分達のテントに寄りかかるような形で気を失っていた。

気を失う前、CとDに群がる人たちの顔を見たはずなのだが、俺達3人には、どんな顔をしていたのか全く思い出せなかった。

留学生2人は生きていたが、その姿は異様だった。

体全体に黒い液体を塗りたくられ真っ黒で、塗りたくられていた黒い物は既に乾いていたが、生臭い臭いがしており、とても近付けないほど臭い。

とにかく2人には川で体を洗うように言うと、がたがた震えて泣きながら体と服を洗っていた。

俺達はテントをその間に片付け、2人に「石はどうなったか?」と聞いた。

するとCが自分のリュックを指差したため中を見てみると、タオルに包まれた石が入っていた。

とにかくこれを返しに行き、謝罪しようとBが言った。

しかし、彼らの反応は酷かった。

D「行くならお前達で行けよ」

C「お前達がここに連れてこなければ、こんな事にはならなかった。お前達のせいだ!」

A「ふざけんな!お前らがBの言う事聞かずに、石を持って来たからこんな事になったんだろ!」

俺「そうだ。お前らが原因なんだから、石を返して謝罪するのは当たり前だろ」

CとDは尚も食い下がり、頑なに石を返しに行くのを拒否し、顔を真っ赤にして激怒しながら、俺達に殴りかからんばかりに「お前達のせいだ」と叫び続けた。

すると、それを黙って見ていたBが、

「もういいよ。ならCとDは勝手にしろよ。俺達で返しに行くから」

と呆れたように言うと、一人で石を持って川の上流へ向かったため、俺とAは仕方なく口論を止めBに付いて行く事にした。

CとDはその間に、自分達の荷物をまとめて帰ったらしい。

Bに付いて行くと洞穴があった。

確かにBの言っていたように、何か雰囲気がおかしい。

ここだけ空気が違うというか、言葉では巧く言い表せないが、とにかく妙な気配のする洞穴だった。

俺達は昨晩のこともあったため怖かったが、このままにしておけないため、洞穴の奥に進み石を祠に戻した。

祠の近くに破れたお札が落ちていたので、それで効果があるのかは分からなかったがやらないよりはマシだろうと、持って来ていたガムテープでお札を可能な限り原型に戻るように張り合わせ、元あった祠の扉に貼り付けた。

そして3人で手を合わせて謝罪し帰路についた。

後日談

俺達には、直接的には何も無い。

夏休みが終わり9月になって大学へ行くと、留学生2人がBに「お前のせいだ!」と殴りかかってきた事と、その他諸々間接的に色々と事件が起きたが、それは後で書きます。

結論を書くと、留学生2人は最終的に学校を自主退学し帰国した。

その後、2人がどうなったのかは知らない。

一つだけ言えることは、「あれだけでは済まなかった」という事。

そして結局、祠とその中の石が何だったのかは判らなかった。

ちなみに、『直接的には何も無かった』『間接的に色々あった』というのは、実害が無かっただけで俺とA、Bにも、その後怪奇現象というか何と言うか、恐ろしい体験はしました。

留学生2人に関しては、又聞きで色々聞いているのだけど、それも長いのでまた後日にします。

キャンプから戻ってから数週間は特に何も無く、課題をこなしたりレポートを書いたり、バイトをしたり遊び回ったりと、平和な日々が続いていた。

事件から1ヶ月くらい経った夏休みの終わり頃(ややこしくなるので最初に説明しておくと、俺は学生専用のアパートに住んでいて、AとBも同じアパートの住人)、昼過ぎにBとAが俺の部屋を訪れ、ゲームをしたり漫画を読んだりとゴロゴロしていると、下の階の住人(以下 “住”)が俺の部屋へやって来た。

ドアを開けると、

住「何やってるのか知らないけど、五月蝿いんだけど」

俺「そんなに大音量でやってるつもりなかったけど、ゲームの音五月蝿かった? それとも声が五月蝿かった?」

住「いや、そうじゃなくて。さっきからお前ら、部屋の中を大人数でバタバタ歩き回って、何してるんだよ」

俺「別にバタバタ歩き回ったりしてないんだが…ずっとゲームやってたし…。まあ気になったならすまん。静かにする」

それで下の階の住人は帰ったのだが、何か変だなとは思った。AとBには「下から苦情が来たのでちょっと静かにしよう」と言っておいた。

30分くらい経つと、また部屋のチャイムが鳴った。

出るとまた下の階の住人で、今度はかなり怒っている。

住「お前らいい加減にしろよ。バタバタ歩き回ったり、ブツブツなんか聞こえてきてウザイんだけど。こっちはレポート纏めてる最中なのに、集中できないんだけど」

窓締め切ってかなり静かにしていたのに、こう言われて何か釈然としないが、まあ揉めるのも嫌なのでこう返した。

俺「そりゃ悪かった。注意してたつもりなんだけど、まあいいや。俺達これから出かける事にするわ。それなら問題ないだろ?」

そもそもこのアパートは結構新しいためそんなに音が響く訳無いし、最初に注意された時以来かなり静かにしていたのに理不尽だなと思いながら、AとBに事情を話して出掛けようと切り出した。

今から考えると、今まで結構騒いでもどこからも苦情が無かったので、この時に変だと気付くべきだったかもしれない。

時間は午後14時頃。

取り敢えずゲーセンとかに行って暇潰しでもしようということになり、俺達はアパートを出た。

それからゲーセンへ行ったり買い物したりと時間を潰し、ファミレスで晩飯を食っていると、今度はアパートの管理会社から携帯に電話があった。

不「○○を管理している○○不動産の者ですが、○○○号室の○○(俺)さんでしょうか?」

俺「そうですけど、何ですか?」

不「実はそちらの部屋が五月蝿いと苦情がありまして、お伺いしたのですが、ご不在のようなのでお電話しました」

俺「ああ苦情来たので、昼過ぎから出かけていました。以後注意します」

『またかよ…』と思い、俺がうんざりしながら答えると、不動産屋が変な事を言い出した。

不「昼過ぎというと、何時頃からですか?」

俺「確か14時か14時半頃だったと思うんですが」

不「それは間違いないですか? 注意して欲しいと苦情の電話があったのは、18時過ぎ頃なのですが…」

今の時間は午後20時過ぎ。あれから一度も帰っていないので、どうもおかしい。

AとBに事情を話し、不動産屋には今から帰るので、部屋の前で待ち合わせをする事になった。

アパートに着くと不動産屋(30歳くらいの女の人)が待っていて、苦情の電話をしてきたのがやはり下の階の住人だったので、まずそこへ行く事となった。

出てきた下の階の住人はやはりかなり不機嫌な様子で、話によると、あれから暫らくは静かだったが17時過ぎ頃からまた五月蝿くなり、注意しても誰も出てこないので管理会社に電話をしたらしい。

俺があの時に出かけたまま帰っていないことを話すと、最初は疑っていたが、買い物をした時とファミレスで飯を食った時のレシートの時刻を見せると、流石に納得した。

不「あの…もしかして空き巣では?」

住「さっきまで五月蝿かったから、まだいるかも」

A「マジかよ…○○(俺)、お前鍵ちゃんとかけたか?」

俺「ちゃんと掛けたけど、お前も見てただろ。つーか、俺の部屋入って何盗むんだよ(笑)」

B「取り敢えず部屋に行ってみて、確認すればはっきりするんじゃね?」

ということで、俺とAとB、それと不動産屋と下の階の住人で、俺の部屋へ行ってみる事となった。

俺の部屋に着くと、予想通り鍵は掛かっていた。

空き巣が鍵をした可能性も無くはないので、俺が鍵を開けて中の様子を見たが、玄関から見た範囲におかしなところはない。

全員で俺の部屋に入り、部屋の中やユニットバスの中なども調べたが、やはりなにもない。

出て行く前に飲んだジュースのペットボトルなどもそのままで、人が入ったような痕跡はまるで無い。

下の階の住人は何か釈然としない顔をしていたが、人がいた痕跡は全く無いのが現実で、「どこか他の部屋の音を俺の部屋の音と勘違いしたのでは?」などと話していると、玄関横のユニットバスの部屋から、

「…ズズズズズ…」

「…ガコッ…ガコッ…」

と、変な音が微かに聞こえてきた。

俺「何? 風呂場からだよな?」

B「さっき見た時は何も無かったけど…」

不「何か臭くないですか?」

取り敢えず中を確認しようと扉を空けた瞬間、異様に生臭いというか、腐臭に近い臭いがしてきた。

鼻を押さえて中を覗き込むと、バスタブの排水溝から、黒い液体がゴポゴポと湧き上がっている。

臭いの元はそれらしく、排水溝の奥から「ガコッ…ガコッ…」と、変な音は相変わらず聞こえてくる。

あまりの臭さに、顔をしかめながら窓を全開にし換気扇を回していると、俺はある事に気が付いた。

この臭いって、キャンプの時にCとDに塗られた、黒い液体と同じじゃないか?

俺「A、Bちょっと…この臭いって…」

A「ああ、お前もそう思ったか」

B「…偶然だよな…」

そんな話を俺達がこそこそと話ていると、ハンカチで鼻と口を押さえた不動産屋が

「騒音の原因はこれかもしれませんね。明日業者に来てもらうので、○○(俺)さんはこちらでホテルを用意します。そちらで一泊してもらえませんか。これではここにいるのは無理でしょうし」

と提案してきた。

本来ならこの提案は受けるべきなのだが、俺は臭さと同時にあの時の恐怖が蘇っていたため、とてもこれから一晩一人で過ごす勇気は無い。

不動産屋には、「今日はAかBの部屋に泊まるのでそれは良い」と言い、そそくさと全員を部屋から出し鍵を閉めた。

とてもじゃないが、あの部屋にこのまま居続けるのは、臭いもあるがそれ以上に『やつら』が来そうで恐ろしかったから。

下の階の住人は、配水管が詰まったか何かして、変な音がしていたのだろうと納得し、俺に「誤解をしてすまない」と軽く謝罪をすると帰って行き、不動産屋も明日の予定を軽く説明すると帰って行った。

残された俺達は、恐らく真っ青な顔をしていたと思う。

俺「ただの配水管の詰まりか何かだよな? あれは関係ないよな?」

A「俺達関係ないだろ…石持ち帰ろうとしたのはCとDだし」

B「…偶然だろ。ありえねーよ」

とにかく3人とも「偶然だ」ということで済ませたかったが、臭いが正にそのままな上に、変な音というのも気になる。

みんな一人で夜を明かすのは恐ろしかったのか、今晩はBの部屋に3人で泊まる事にした。

それからBの部屋で朝まで起きているつもりだったのだが、何か妙に3人とも眠気があったため、午前1時過ぎ頃に寝る事にした。

深夜3時頃、俺はBに起こされた。Aも起されたらしい。

何で起したのか聞いてみると、Bが言うには、窓の外から大勢の話し声が聞こえていて、それが徐々に近付いて来ているらしい。

聞き耳を立ててみると、確かに何か聞こえる。

A「神経質になりすぎじゃないか? 誰か外で話してるだけだろ」

B「いや…でも」

俺「何だよ」

B「ここ3階だぞ。何で下じゃなくて、横から声が聞こえるんだよ」

確かに言われて見ればそうだ。

気のせいなのかもしれないが、何か気味が悪い。

ひとまずもう寝ていられないので、電気を点けてゲームの続きでもしようと、Aが電気を点けるため天井の方を見た。

Aがそのまま絶句して硬直している。

何事かと俺とBが、Aの見ている方を見てみると…。

何十人という青白い顔が、俺達の方を無表情に凝視していた。

体は無い。顔だけが天井に何十と張り付いている。

「うああああああああああ」

俺達はもう恐怖心で恐慌状態になり、着の身着のままBの部屋を逃げ出した。

俺とA、Bは、もう部屋に戻る気になれなかった。

明るくなったらすぐ神社かお寺で御払いをしてもらう事にして、そのまま恐怖心を紛らわせるためカラオケボックスで、日が高くなるまで無理にハイテンションになって歌い続けた。

午前10時頃、俺達は携帯で2駅先に神社がある事を調べ、そこで御払いをしてもらうため電車に乗った。

俺は電車の中である事に気が付いた。

俺達を見ていた顔、普通の人の顔ではなかった。

青白いとか死人っぽいとか、そういうのではない。

おかしかったのは、そいつらの目。

普通の人の目は大雑把に書くと、

<◎> <◎>

だよな。

俺達が見た顔の目は、

<◎>

が縦になっていた。

上手く伝わるだろうか?

目が横に水平では無く、縦に平行になっていた。

/ヽ   /ヽ
◎    ◎
、ノ   、ノ

こんな感じ。

要するに人じゃない。

後から聞いてみると、AとBもそれに気付いていた。

神社に着き、神主の人に事情を話すと、かなり胡散臭そうな顔をしていたが、俺達があまりにも必死な顔で話すので、一応最後まで真剣に聞いてくれて、御祓いもちゃんとやってくれた。

神主の人が言うには、その祠に二度と近付かないなら多分大丈夫だろうとのこと。

御祓い後は、俺達に妙な事は起きていない。

もう一つ、キャンプの時に一斉に振り向いた顔。

それも同じ目をしていた事を、なぜか御祓い中に不意に思い出した。

以上が俺達の体験。

翌日不動産屋から電話があったのだが、業者に見てもらったところ、配管には何の問題も無かったらしい。

一応何かが逆流してきたのは事実なので、他の部屋や地下の配管も調べたが結局何も無く、暫らく様子を見るという事になったとか。

その後、配水菅の逆流などは起きていない。

御祓いが効果あったのだと思いたい。

ちなみに、掃除業者が入って、俺の部屋のユニットバスを綺麗に掃除してくれたのだが…。

暫らく臭いが取れず、臭いが消えるまで俺は不動産屋の用意してくれたホテルで10日ほど暮らす事になった。

何か少し得した気分だった。

キャンプから帰った後、CとDに何が起きたのか、2人と交流のあった人達の話を繋ぎ合わせて書きます。

ほぼ全部が伝聞なため、どこまで正確かは分からない。

あと伝聞ばかりなため、オカルトはあまり関係ないかも。

夏休みが終わり大学へ行くと、C、Dとそこそこ交流のあった友人が俺達に話しかけてきて、変なことを言ってきた。

CとDがキャンプに着いて友人に話したらしいが、長いので要約すると…、

俺とA、Bと一緒にキャンプへ行った(そこまでは合っている)。

問題はそこからで、キャンプ地で洞窟を見つけたのだが、CとDは面白そうなので見てみたいと、行ってみようとしたという。

一緒にいたBは暗がりが怖いのか怯えていたが、独りになるのも嫌なようで付いて来た。

洞窟の奥には小さな建物があり(祠の事だろう)、それだけだったので引き返そうとすると、Bが建物の扉を開けて、中の石を持ち出そうとしていた。

CとDがそれに気付き、注意したが聞き入れられず、そこで喧嘩になった。

そこまで聞いて、俺は事実と違うと話したが、友人は何か思わせぶりに「まあ分かってるから最後まで聞いてくれ」と先を続けた。

その夜、石のせいで俺とAとBが幽霊に襲われ、ガタガタ震えながら泣いて謝っているのを見かけたので、CとDは勇気を振り絞って飛び出し「石は返すから」と幽霊を説得し、追い払ってあげたらしい。

翌朝にCとDが、昨夜の事は石のせいなのだから返しに行こうと俺とAとBを誘ったが、恐ろしくて行けないということで、変わりにCとDが返しに行って、そのまま帰った。

俺はあまりのバカバカしさに、怒りすら湧いてこなかった。

何であの晩の事が、CとDの武勇伝みたいになってるのかと…。

俺は友人に、話の内容が大きく改変されている事、大筋で俺とA、Bの位置がC、Dと入れ替わっており、しかも所々に妙な脚色まである事や、俺達が2人の巻き添えで夏休み中酷い目にあった事を伝えると、友人は「だろうな(笑)」と、全て解っていたかのように笑いかけてきた。

ちなみにその友人は、自分も妙な現象を見るまで、幽霊の話はネタだろうと思っていたとか。

友人が言うには、キャンプから戻って数日後。

CとDの姿を見かけると、後ろに黒いモヤのようなものが見えたり、C、Dと一緒にいるとブツブツと囁き声のようなものを聞いたりと、怪現象が続いたので、恐らく原因を作ったのはCとDだろうと直感的に感じていたらしい。

更にこの直感に追い討ちをかけたのが、話を聞いて2週間後くらいからCとDはCの部屋に篭るようになり(親が金持ちらしく、そこそこ立派なマンションに住んでいた)、金を下ろすのと飯を買いに一階のコンビニへ出かける時以外は殆ど外に出歩かなくなってしまった。

そのため友人は「やはり原因を作ったのはこの2人だったか」と、妙に納得したとか。

友人はこれ以上は詳しく知らないらしく、その後2人と会っていない。

というか、電話をしても出ようとせず、友人に会おうともしない上に、篭っている事情も一切話さないため、今どうしているのかは知らないという。

この話を聞いた後、夕方近くにBから携帯に電話があった。

Bが言うには、CとDがキャンプでの話を改変してあちこちに言い回っていたため、Bや俺達は霊現象を別にしても、ヘタレのレッテルを貼られてしまっていて、誤解を解かないとまずいようだ。

Aにも連絡を取り、なんとか誤解を解く方法はないかと話し合ったが、結局良い案は浮かばず、一人一人誤解を解くしかないという結論になった。

この後、実はある出来事を切っ掛けに、誤解はある程度解けたのだが、それは省きます。

大雑把に書くと、CとDがゼミの教授に泣き付いて来たのだが、その時話した内容がそれまでの「武勇伝(笑)」と違っていたため、それを切っ掛けに2人の嘘はばれた。

この一件があるまで俺とA、Bは、CとDも俺達が御祓いした神社へ連れて行くつもりだった。

しかし、酷いようだが、あれだけ怖い思いをした挙句に、こんなデマを流されたので最早その気は無く、俺はA、Bと話し合って留学生2人を放置する事にした。

大学が始まってから2週間後、ようやくCとDが大学に現れた。

俺達はもう2人に関わる気が無かったので、2人を無視していたのだが、AとBが学食で飯を食っていると、CとDが現れて因縁を付けてきたらしい。

俺はその時、別の友達と大学の外で飯を食っていたので難を逃れた。

以下2人の話。

AとBが他の友達数人と飯を食っていると、CとDが同じ留学生仲間何人かと、仲の良い日本人何人かを連れて、2人のところにやって来た。

そして「お前らのせいで酷い目にあっている」と大声で喚き散らしてきたらしい。

留学生2人の話を要約すると…。

あれから毎晩のように無言電話がかかってきたり、水道の蛇口から例の臭い液体が流れ出したり、夜中に窓を外からバンバンと激しく叩く音が聞こえてきたり、駅のホームで電車を待っていると後ろから突き飛ばされてホームに落ちそうになったり、青白い顔の例の連中に後を付回されたりと、かなり色々起きているらしい。

しかも、最近はその頻度が多くなってきていて、あまり外に出る気も起きないのだとか。

一頻り話すと、CがBの胸倉を掴み「お前のせいだ、お前が原因だ!」と殴りかかってきた。

それを見ていたAや友人達がCを取り押さえた。

すると、暫らく喚いていたCと、A達を引き剥がそうとしていたDは、窓の外を凝視して動かなくなり、暫らくすると「あああああああああああああああ!」と絶叫しながら逃げて行った。

CとDは何かを見たらしいのだが、AやBとその友人達、それとCとDの仲間には何も見えなかったらしく、暫らくCとDが逃げて行った先を呆然と見ていた。

CとDの仲間は、2人が逃げて行ってしまったためどうすることもできず、そのまま帰って行った。

俺はAとBからその話を聞いて、夏休み中のこともあって怖かったが、まあ自業自得だろうとしか思わなかった。

ちなみにCを引き剥がそうとしていたAによると、微かにではあるがCから、例の生臭さというか腐臭というか、『あの臭い』がしていたらしく、多分またどこかで塗りたくられたのではないか、とも言っていた。

CとDはゼミが同じなのでその後も何度か顔は合わせたが、お互い会話する事も無く、学食での一件のように因縁を付けられる事も無かったが、2人は会う度に俺達を睨み付けていた。

そんな事が暫らく続いたある日、事件が起きた。

どうも2人が失踪してしまい、5日ほど全く連絡が付かないらしい。

それから更に3日後、2人は民家の庭で泥だらけで震えているところを警察に保護されたとか(泥だらけと聞いたが、俺達は恐らくまたあの液体を塗られたのだろうと思った)。

ちなみに、失踪前にある出来事があったため、俺達は何か大きな事件が起きる事が想像できていた。

それは何かと言うと、2人が失踪する前日、俺達が大学の帰り道でCとDを見かけたのだが、2人の後ろを十人ほどの集団が付いて行っているように見えた。

何となくその後姿を見ていると、その集団の内1人がこちらを振り向いた。

その時、俺とA、Bは硬直した。

格好は普通のサラリーマン風だったのだが、そいつの顔に付いている目は、俺達が夏休み中に見た『あの目』だった。

一瞬だったが間違いない。外が明るかったのではっきりと見てしまい、非常に気持ち悪かった。

CとDがなぜ数日間失踪したのか、その間何をしていたのか、その辺りは判らない。

その事件の後、2人は暫らく入院していたが、親が2人を連れて帰国し、そのまま大学を自主退学したらしい。

彼ら2人の身に何が起きているのか、今後何が起きるのか、それは考えたくも無い。

どちらにしろ、ろくな事になはらないだろう。

最後に、私見だが一連の事件では必ず生臭さというか腐臭のする黒い液体が関わっている。

もしかするとあの液体が、『気持ち悪い目の集団』が標的を追跡する目標になっているのではないかと思った。

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某ファミレスの駐車場で、交通事故を目の前で目撃したある女性の話だ。 直線道路で対向車が急に反対車線に飛び出して来ての正面衝突事故だった。 飛び出した方は軽自動車で、相手はト…

寝たフリ

小学校の先生Aから聞いた話。 高校の部活の合宿で、20人くらいが一つのでかい部屋に布団敷いて詰め込んで寝るってシステムだった。 練習がきついからみんな疲れて夜10時には寝ち…

ビジネスホテル

警備のアルバイト

学生時代、都心のビジネスホテルで警備のアルバイトをしていました。 従業員の仮眠時間帯、深夜12時から明け方の5時まで、フロントの業務と巡回を一手に担っていたのです。 門限…