鶯谷のホテル

公開日: 心霊体験 | 本当にあった怖い話

ホテル(フリー素材)

これは実際に体験した不思議な話です。

皆さん、鶯谷をご存知でしょうか?

山手線沿線でありながら最も人気の無いエリア。江戸時代にあった遊郭が今も尚息づくソープランド街「吉原」の玄関口です。

駅の周辺にはラブホテルが立ち並び、再開発の波に取り残されたというか、忘れられたとでも言うべきでしょうか、町並みは古くどこか陰鬱な空気が漂っています。

夜になると、風俗嬢を呼ぶために男達が一人でホテルに入って行く姿は不思議な光景です。

これは今から2年前のことですから、割と最近の話です。

その日、私と後輩は鶯谷で風俗遊びをすることになりました。

鶯谷のホテルには、風俗遊びをする客の為に風俗店を紹介した冊子が置いてあります。

その冊子を見て気に入った店に電話をし、女の子をホテルに呼ぶというシステム。俗に言うホテトルです。

しかし、鶯谷のホテルでは風俗嬢が殺される事件が何件か発生しており、風俗嬢の間ではやはり鶯谷は人気が無く、都落ちして来た女性が多く働いているのでした。

私達は、まずホテルを探しました。

入り組んだ細道を練り歩き、やっと最安値のホテルを見つけると、フロントには初老の男がやる気なさそうに座っていました。

私がそのオーナーなのか従業員なのか分からない男に声を掛けると、

「うちはさ、君達みたいに若い人が好きそうな今風のホテルじゃないからぁ」

とやんわり断ってきます。

「いや、いいんです。ただ遊びたいだけですから」

「でも、本当に今風じゃないよぉ?」

男はそう言いながら、渋々鍵を二部屋分渡してくれました。仕事が増えることを嫌がったのだろうか。

男に呆れつつも部屋に入り、早速店選びを始めましたが、生憎気に入った店がありません。

それは後輩も同じようでした。しかし、今更キャンセルは不可能。

折角ホテルに入ったのだからと、小一時間ほど寝てから帰ろうということになりました。

いざ寝ようとすると、後輩が「あの、ソファーで寝るので一緒の部屋で寝てもいいですか?」と言う。

ああ、そういうことか…。理由はすぐに解りました。

実は彼は自称霊感持ちであり、その類を全く信じない私は、彼の言う能力は神経質なところから由来しているのだと自己解決していました。

理由を問うと、案の定でした。このホテルには嫌な感じがするとのこと。

特に断る理由も無いので承諾すると、彼はささっと自分の部屋から荷物を持って来てソファーに横になりました。

私にはそれが、お化けが怖くて眠れない小学生のように見え、少し滑稽でした。

そんなことを考えている内に、私達は眠りに就いてしまったようです。私は夢を見ていました。

そこは私達が泊まっている部屋でした。

廊下に通じる閉めたはずの扉が僅かに空いており、そこから微かに差し込んでくる白熱球の明かりが不気味さを演出していました。

扉の横にはソファーが置いてあり、そこには後輩が寝ています。

ただそんな光景が、じーっとカメラで撮影しているかのように見えていました。

夢の中で、ふと『ああ、これは夢だな』と気付くと目が覚めました。

部屋には昭和を感じる赤い絨毯、壁に掛かっている安っぽい絵、内装にそぐわないミスマッチなテーブル、扉の横には白いソファーがあり後輩が寝ていました。

ただ、扉だけはきちんと閉まっていました。寝起きの頭でぼんやりしていると、突然ソファーで寝ている後輩が胸をのけ反らせ、足をエビのようにばたばたと激しく動かし始めました。

咄嗟のことで状況を飲み込めずにいると、「ギャーーーッ!!!」断末魔の叫びとは、あのことでしょうか。

突然のたうちまわりながら彼が叫び始めたのです。私は聞いたこともないような人の叫び声を耳にして、何も出来ずにいました。

『何か恐ろしいことが起きている!』そんな気がして、心臓は鼓動を早めました。

私がようやく彼をゆすって起こすと、安堵からか彼はほっとした表情を浮かべ、頭を抱えながらゆっくりと何が起きたのかを説明してくれました。

実は彼もまた私と同じ夢を見ていたそうです。しかし、彼は私よりも長く夢を見ていました。

夢の中、僅かに空いた部屋の扉の向こうから、目の無い黒髪の女がゆっくりと入って来たと言うのです。

そして、その女は寝ている自分の顔を覗き込むと鼻を近付けてきたようです。どうやら匂いを嗅いでいたそうです。

私は自分と後輩の夢がリンクしていた事実を知り、鳥肌が立ちました。

当然すぐにチェックアウトしましが、その際フロントの男にその出来事を話すと、

「まあ、うちも50年近くやってるからねぇ」

と、嫌なことを連想せずにはいられない答えが返ってきました。

後日談ですが、後輩はその日以来、明らかに様子がおかしくなりました。

異常に自分の匂いを気にするようになり、心配した恋人が心療内科に連れて行く程でした。

診断結果は自臭病ということでしたが、私にはあの時の事が関連しているようにしか思えません。

真相は定かではないですが、あのホテルで殺された女の霊が、犯人の匂いを嗅ぎ分けに夜な夜な現れるのではないか…と勝手に想像してしまいます。

関連記事

廃墟でサバゲー

夏の終わりの頃の話。 その日は会社の夏休み最終日ということもあり、仲の良い8人を集め地元の廃墟でサバゲーをすることにしたんだ。 午前中に集まって、とことんゲームをしようと決…

小さな猫のぬいぐるみ

先日、成人式後の同窓会で聞いた話。 T君はお父さんを小学生の頃に事故で亡くし、それからずっと母子家庭。 T君自身はそんな環境どこ吹く風と言った感じで、学級委員をやったりサッ…

クローゼット(フリー画像)

ユダヤ人の隠し部屋

大学の夏休みに友達二人とドイツ郊外へ旅行に出掛けました。 小さな民宿に泊まり、その次の日は早朝からドライブする予定だったので皆んなで早めに床に就いたのですが、夜中に友人が魘されて…

三面鏡

今はあまり見かけなくなった三面鏡。 この前、実家に帰った時、紫色の布を被せた三面鏡があった。 布を上げてそれを広げてみると、自分の顔がたくさん映ってる。 色んな角度で…

生き霊

母の会社の同僚の話。仮に村上さんとします。 村上さんはいつからか、肩こりのようなものに悩まされていた。それまでは、そういった事に悩むような事は全く無かったそうです。 若い時…

瀬泊まり

小学校の頃、キャンプで夜の肝試しの前に先生がしてくれた怪談。 先生は釣りが好きで、土日などよく暗い内に瀬渡しの船に乗り、瀬に降り立って明るくなり始める早朝から釣りをしていたそうな…

部屋の灯り

北海道の知床の近くにある○○という町に友人と行った時のこと。 知床半島の岬を観光するにはその町からバスに乗る必要があったんだけど、田舎なだけにバスが3時間に一本で、面倒臭くなって…

アパート

幻夢と現実の狭間で

20年以上前のことですが、聞いてください。友人が住む三畳一間の月3万円のアパートに遊びに行ったときのことです。冬の寒い日でしたが、狭い部屋で二人で飲んでいると、そこそこ快適でした。し…

夜の森(フリー写真)

慰霊の森

岩手県にある慰霊の森。 かつて飛行機の墜落事故があり、それ以降は心霊スポットとしても有名である。 これは俺の先輩がそこで体験した話。 ※ ある夜、先輩は友人達と集まって…

旅館での一夜

甲府方面にある旅館に泊まった時の話。 俺と彼女が付き合い始めて1年ちょっと経った時に、記念にと思い電車で旅行をした時の事。 特に目的地も決めておらず、ぶらり旅気分で泊まる所…