山の隠された顔

公開日: 怖い話

山

山は恐ろしい場所だ。恐怖の源は多岐にわたる。幽霊の噂、野生動物の脅威、予測不能な天候…だが、最も恐ろしいのは人間そのものである。

山へ行くと多くの人が開放感を感じるだろう。爽快な気分になるかもしれない。

しかし、その感覚は時に、私たち人間の内なる境界を越えようとする危険信号かもしれない。

特に、都会の生活で人工物に囲まれている者ほど、その境界線を越えやすいとされる。制約が解かれるのは案外簡単なのだ。

観光地化された山ならまだ安全だ。人工物があることで何とか理性を保てる。

だが、本物の自然の中に長く留まるのは危険を伴う。理性が剥がれ落ち、本能が表面に現れる。

特に遭難した場合は最悪だ。無意識のうちに、「助けが来ないかもしれない」「死んでしまうかもしれない」という恐怖が脳を支配する。

その瞬間、生き延びるために、人は人であることを辞めてしまうかもしれない。

本能のままに行動することは、動物にとっては自然なことだが、人間に戻る道を見失ってしまう恐れがある。

コカ・コーラの炭酸が抜けてしまうように、常識やモラルも失われていく。

だから、もし人手が及んでいない山で「人間のような何か」を見かけたら、それは逃げるべき合図かもしれない。

私の祖母はそういう存在を「アガリビト」と呼んでいた。祖母の住む地域では、それは神のような存在とされている。

山で行方不明になった人々の中には、おそらく「アガッてしまった」と思われる者もいるのではないかと私は思っている。

関連記事

赤模様

赤いシャツの女

二年前の今頃の話。 その日、来週に迎える彼女の誕生日プレゼントを買いに、都内のある繁華街に居た。 俺はその日バイトが休みだったので、昼過ぎからうろうろとプレゼントを物色して…

夜のアパート(フリー素材)

古戦場の近くにある寮

今から八年前の五月に体験した話。 当時は大学の寮に住んでいたのだけど、その寮は凄かった。 古戦場の近くで、その霊を供養するお寺が近所にあり、更に寮の隣の竹林には首塚があっ…

倉庫(フリー背景素材)

曰く付きの絵画

一つ俺の体験談をば。 秋口の頃だったか、俺の勤めている会社の社長の菩提寺が建物の一部を修復するとかで、俺も含めて若い社員が5、6人と、監督役の係長が一人、荷物の運搬を手伝いに行か…

ねぇ、どこ?

ある夜、ふと気配を感じて目が覚めた。天井近くに、白くぼんやり光るものが浮かんでいた。目を凝らして見てみると、白い顔をした女の頭だけが浮いていた。 驚いて体を起こそうとするが動かな…

アパートのドアノブ(フリー写真)

開けて

大学進学のために上京した時の話です。 私は志望した大学に無事受かり、4月から新しい学校生活を送るため、田舎から上京して一人暮らしをする事になりました。 学校まで電車で20…

鬼が舞う神社

叔父の話を一つ語らせてもらいます。 幼少の頃の叔父は、手のつけられない程の悪餓鬼だったそうです。 疎開先の田舎でも、畑の作物は盗み食いする、馬に乗ろうとして逃がすなど、子供…

死者と会う方法

日本で2003年に『黄泉がえり』という映画が放映された。これは死者が蘇るというタイトル通りの話ではあるのだが、イギリスには実際に死んだ者と会える方法があるという都市伝説が存在する。 …

古いアパート

アパート101号室

昨年夏に放送された深夜の特別番組「超オフレコの恐怖体験」は、その名の通り、心霊現象が囁かれる物件を取り上げ、視聴者に寒気をもたらした一夜でした。 伝説に包まれたある古びたアパー…

釘

恨みクギ

俺が若かった頃、当時の彼女と同棲していた時の話。 同棲に至った成り行きは、彼女が父親と大喧嘩して家出。彼女の父親は大工の親方をしている昔気質。あまり面識は無かったが、俺も内心びび…

プラットフォーム(フリー素材)

プラットフォームの死神

小学生の時の事なので思い違いかもしれないけど、謎だった体験。 家族と出掛けた帰り、確か夜の21時頃に、駅のホームで電車を待っていた。 ホームには他にも少数の人が居て、少し離…