幻の宴

公開日: ほんのり怖い話 | 不思議な体験

紅葉(フリー素材)

旅行先で急に予定が変更になり、日本海沿いのとある歴史の古い町に一泊することになった。その時に体験した話。

日が暮れてから最初に目に入った旅館に入ったんだけど、シーズンオフのせいかすんなり部屋が取れた。

表から見た時には気が付かなかったが、何やら格式のありそうな旅館で、長い廊下を案内されて辿り着いたのは古くて立派そうな部屋だった。柱などは黒光りしている。

とは言え、よく心霊話にあるように「嫌な気配を感じた」とか「寒気がした」ということは無かった。

畳や調度品も新しく、清潔で快適な部屋だった。従業員も愛想が良い。

飯を食って露天風呂に浸かり、『さあ、あとは酒を飲んで寝るだけ』と部屋で寛いでいると、窓の外から何やら賑やかな音がする。

カーテンの隙間から覗いて見ると、植え込みの向こうに大きな離れのようになった建物があり、そこの座敷で宴会をしているらしい。

『騒がしくされたら敵わないな』と思っていると、三味線の音が耳に入った。

芸者さんらしい方が二人ばかり、ゆったりと優雅に舞っている様子が障子越しに見て取れる。

『ほう、今どき』と思いよく耳を傾けてみると、手拍子ひとつ、笑い声ひとつ取っても何とも言えない品がある。

セクハラおやじどもがカラオケをがなり立てるうちの会社の宴会とは大違いだ。

『今でもこういう遊び方をする人がいるんだな』と陽気さのおこぼれに預かった気分で酒を飲んだ。

そして酔いの回った体をぬくぬくと丸め、夜が更けて増々盛り上がる宴の賑わいを遠くに聞きながら眠りに落ちた。

しかし翌朝になって窓の外を見ると、植え込みの向こうには有刺鉄線が張られた雑草の蔓延る空き地が寒々と広がるばかりで、座敷と見間違えそうな建物の影も無かった。

関連記事

何かの肉塊

僕が小学生の頃なので、もう20年くらい前になるのか。 母方の祖母(大正生まれで当時60歳)から聞いた話を思い出した。 祖母がまだ若かった頃、北海道の日本海側の漁村に住んでい…

優しさを大切に

俺が小学校1年生ぐらいの時の話。 その頃、俺はおとなしくて気の弱い方で、遊ぶのも大体おとなしい気の合う子達とばっかり遊んでいた。 でも何がきっかけだか忘れたけど、ある時に番…

高速      

真実と幻

数年前の夏、高速道路交通警察隊に勤める友人が体験した不可解な事件についての話です。 ある日、友人は別部署の課長から突然の呼び出しを受けました。理由は、一週間前に起きた東北自動車…

金属加工業(フリー写真)

円錐状の光沢金属

私は金属加工業を営んでいるのですが、先日不可解な事がありました。 数ヶ月前より、左手薬指の指先を使って何かを掴むと『ズキン!』と痛みが走るようになっていました。 加工クズ…

旅館(フリー写真)

いにしえの宴会

旅行先で急に予定が変更になり、日本海沿いのとある歴史の旧い町に一泊することになった。 日が暮れてから旅館を予約したのだけど、シーズンオフのためか、すんなり部屋が取れた。 …

ガラス窓(フリー写真)

ガラスに映る人

私はN県の出身で、私が住んでいる街には、地元では有名なカトリック系の女子大があります。 私の母はその大学の卒業生でもあり、その頃講師として働いていました。 当時中学生だった…

台湾

混同された記憶

私は現在、仕事の都合で台湾に住んでいます。宿代もかからず、日本からも近いため、友人が時々遊びに来ます。この話は、そんなある時の出来事です。 今年の2月初旬、高校時代からの親友で…

夜の海

夏の夜の謎

海岸線に位置する親族の家で過ごした夏の夜の出来事です。 夏の季節にもかかわらず、家の子どもが喘息を持っていたため、蚊取り線香は避け、私のために蚊帳が用意されました。 深夜…

山神様

これは、俺の曽祖父が体験した話です。大正時代の話ですので大分昔ですね。 曾じいちゃんを、仮に『正夫』としておきますね。 正夫は狩りが趣味だったそうで、暇さえあれば良く山狩り…

アンティークショップ(フリー写真)

手裏剣と怪異

今から11年前の話です。 当時勤務していた会社の先輩で、何となく『そりが合わないな…』と感じる女性がいました。 新人だった私には親切にして下さるのですが、どこか裏があるよ…