黒い石
大学時代のサークル活動で不思議な体験をした。
主な登場人物は俺、友人A、先輩、留学生3人(韓国、中国、オーストラリア)、友人Aの友達のアメリカ人、他は日本人のサークルメンバー。
いつもはサークル部屋でしょうもない話をしているだけだけど、夏休みにはキャンプに行くのが伝統なんだよ。
場所はいつも同じで、田舎の方にある川の近く。
俺が一年生の時にサークルに入り、一回目のキャンプに行ったのがこの話の始まり。
※
キャンプ場に到着して、俺と中国人の2人が薪拾い係になったんだ。
そして2人で川のキャンプ場から少し離れた所で薪を拾っていたんだけど、ジメッとした嫌な感じがする開けた場所に出てさ、そこに小さな祠みたいなものがあったんだよね。
俺は何故なのか解らないけど、その祠に凄い不安感というか嫌悪感みたいなものを感じた。
だけど、それを見た中国人が異様に祠に興味を持ち始めたんだ。
変なのは小汚い祠なのに宝物でも見つけたみたいな反応をしていた事。
そしたら中国人がすぐさま祠に近付いて、無遠慮に扉を開けた。
『おい罰当たりだろうが…』と思ったけど行動早すぎ(笑)。
祠の扉も抵抗なく開いてさ、中には人工物のようにも見える黒い石が入っていた。
黒い石と言っても外観がツルッとしていて、プラスチックと言われても納得するような見た目。
中国人「これ欲しい!」
いきなりそんな事を言い出して、これまた無遠慮にその黒い石を持ったんだよ。
その間も俺は嫌な感じがし続けていてさ、「祠にあるものを勝手に取るのは良くない」と言ったんだ。
だけど中国人は「いいの!欲しい!」と言い、持って行こうと歩き出したんだ(もう話が通じない感じがした)。
その時に今まで感じていた嫌なものが一気に膨れ上がってさ、中国人の手を叩いて無理やり石を落とした。
そうすると中国人は怒るじゃん?
でも俺が凄い剣幕で「あの石を戻せよ!ヤバイ!ヤバイって!」と言っていたら、中国人は石を祠に戻していた。
自分では無意識だったけど、顔が凄く怖かったと後で聞いた。
※
そして拾った木の枝などを持ってキャンプ場に戻った。
戻ってから中国人に「後で石を取りに行くなよ」と言ったんだけど…。
中国人「自分でもどうしてあの黒い石が欲しかったのか解らない。何故欲しがったんだろう?」
俺は「は?」という感じだった。
それからバーベキューの準備の間に、あの祠の事を先輩に聞いてみたんだ。
先輩「ああ、あそこね。何か気味悪いよな、あの祠」
俺「そうなんすよ。あの祠何か判ります?」
先輩「知らん。でも何か解らんが嫌な気分になるんだよな」
それで中国人に嫌な感じがしなかったかと聞いたが、全然しなかったらしい。
だけど祠に行った事のある他のメンバーに聞いたら、みんな俺や先輩と同じく嫌な感じがしたと言っていた。
結局よく解らないままこの年のキャンプは終わった。
※
それから1年間は特に何事も無く、俺が2年生の時の話になる。
俺が2年生になるとサークルに新しいメンバーが加入した。
その中に留学生の韓国人とオーストラリア人がいた(長いからオーストラリア人は豪州人と書く)。
そして毎年夏休み恒例のキャンプに行ったんだよ。
もちろん新規加入のメンバーも、上で書いた中国人の留学生もキャンプに参加したよ。
それとこの年は、友人Aが友達だと言ってアメリカ人も連れて来たんだ。
そのアメリカ人は仕事で日本に来たけど、なかなか友達が出来ないのだと言っていた。
片言だけど日本語は話せていたし、特に断る理由も無かったからOKした。
※
俺は今回はテント係になって、薪は韓国人と友人Aが担当になった。
でも、その2人が薪を拾ってキャンプ場に帰って来た時、何か言い争っていたんだよ。
友人A「それ置いて来いよ!」
韓国人「やだ、これ欲しい!」
話を聞いたら、あの祠から黒い石を持って来ちゃったんだと。
それとあの黒い石を欲しがる時は、韓国人も中国人も何か子供っぽくなっていた気がした。
俺も『あの石だ!』と思い、友人と一緒に返して来いって言ったんだけど、聞く耳を持たなかった。
周りにいた他のメンバーも石に気付いたようで集まって来た。
石が来てからあの嫌な感じもしていたし、メンバーも「なんだよあれ…」という感じだった。
だけど中国人と豪州人にアメリカ人までもが、韓国人が持って来た石を取ろうとしたんだよ。
中国人「それ前に私が見つけたやつ!私が欲しい!」
豪州人「私にちょうだいよ!」
アメ人「いや、こっちによこせ!」
韓国人「やだ!俺が見つけたんだ、俺が見つけたんだ、俺のものだ」
本当にこんな子供っぽい感じで黒い石の取り合いを始めた。
俺も含めて他の日本人メンバーは、『何こいつら大丈夫?』という感じだった。
俺らからしたら、何と言ったら良いか分からないけど、黒い石が気持ち悪くて嫌な感じがしていた。でもそれを欲しいと取り合っているんだぜ?
もう意味が解らなかった。
※
そしてここからがまた異様で、友人Aが急に金切り声を上げたんだよ。
友人A「やだー!!置いて来てよ!!!置いて来てってば!!」
声がキンキンし過ぎて何を言っているか完全には聞き取れなかったけど、こんな感じの事を叫んでいたと思う。
取り合う外国人組に叫ぶ友人Aと、混乱するメンバーと、もう何が何だか解らなかった。
そしたら先輩が大声で「お前ら黙れ!」って怒鳴ったんだよ。
そこでみんながシーンとなって、先輩が韓国人から石を叩き落した。
だけど韓国人は怒鳴った先輩が怖かったみたいで、「あ…」としか言わなかった。
先輩が「これ戻して来る」と言って石を拾おうとしたんだけど、直接手で触りたくなかったみたいで、
先輩「おい○○(俺)!ちょっと割り箸を持って来てくれ」
割り箸を持って来る俺。
俺「どうするんですか」
先輩「つまむ」
そう言って割り箸で黒い石をつまんでいた。
俺は犬のウ○コかよと思っていた。
そして先輩に付いて来いと言われ、一緒に祠まで行って石を戻したよ。
※
特に何事も無く祠から戻って来たら、外国人組がポカーンとしていた。
前の年の中国人同様、「どうして黒い石が欲しかったのか解らない」などと言い始めて、本人達も混乱しているようだった。
何か不安しかなかったけど、先輩が「バーベキューの準備するぞー」と言うからキャンプは続行。
夜にテントで寝る時も何事も無く、外国人組も石を取りに行く訳でもなく、次の日になってキャンプは終わった。
※
みんなでワゴン車に乗って帰る時に、キャンプ場の近くにある小さな商店に寄ったんだ。
そこは80歳ぐらいのお爺さんがやっているお店でさ、友人Aと先輩と一緒にそのお爺さんに祠の事を聞いてみたんだよ。
お爺「あぁ、あの気持ち悪いな祠か。黒い石が入っていることは知っているが、それ以上のことは判らん」
先輩「そうですか。あの黒い石を見ると我々は何だか嫌な感じがするんですけど、外国人達は異様に欲しがるんですよ」
確かによく考えるとあの石を欲しがるのは外国人組だけで、気味悪がったのは日本人の俺らだけだった。
するとお爺さんが「そう言えば」と何か思い出したようで、
お爺「何年か前に白人さんがこの店に立ち寄ってね、あの祠の黒い石を取ったと見せてきたんだよ」
先輩「え? でも石はまだありましたよ?」
お爺「それがな、俺は石を戻した方が良いと言ったんだが、白人さんは言う事を聞かなくて、そのまま持って帰ったよ。
だけど2週間後くらいに白人さんがまた来て『この石を祠に戻したい。自分はあそこに行きたくない』と言い、店に石を置いて帰ったから、しょうがないから俺が祠に戻したんだよ」
先輩「その白人の方に何があったんですか?」
お爺「何があったかは知らないが、2週間ぐらいしか経ってないのに、何かボロボロになってたなぁ」
先輩「ボロボロ?」
お爺「目に隈が出来てるし、髪はボサボサどころか少し薄くなってるし、肌もガサガサで服もよれよれ。死ぬんじゃないかと心配になるくらい酷かったよ」
その白人の方は日本には観光で来ていただけだったようで、石を取った後は国に帰った(ヨーロッパの人だったらしい)。
そして黒い石が悪いものだと判って戻しに来た。
わざわざまた飛行機に乗ったんかいと思ったけど、向こうで捨てられなかったのかもしれないね。
※
結局、あの祠と黒い石の事は地元の人でもよく判らないらしい。
でも何だか嫌な感じがするから近付かないでおこうという感性は一緒らしい。
白人の方の話からして、あの黒い石が悪いものだとは分かるけど。
日本人は近付きたくなくて、外国人は欲しくなるというのは不思議だなと思った。
でもそれは、日本人には身を守る本能が備わっているけど、外国の人はそれが無理どころか逆に引き寄せられてしまうという事だよな。