太いお姉ちゃん
公開日: 心霊ちょっと良い話
去年の話なのだが、5歳の娘が急に高熱を出し、慌てて近くの病院へ連れて行った。
そして風邪と診断され、処方された薬を3日間飲ませていたが、症状は一向に良くならず。
『ひょっとして医者の誤診では? 何か別の重い病気かも…』と思い、大学病院まで行ったが、特に悪い所も見つからない。
それなのに下がらない娘の熱。
どうしたものか…と妻と一緒に頭を悩ませていた。
※
そして5日目の朝、妻が言い難そうに俺にこう言った。
「アンタには言ずらかってんけど、○○がな、怖がってんねん…」
「何を?」
「部屋に怖いオバちゃんがおるって…ベットの横に立ってて怖いって」
「はぁ? 何それ?」
俺は昔からあまり霊現象など信じない性質だったので、妻は黙っていたらしいが…。
俺が仕事に行っている間に娘の看病をしていた妻は、娘に何度かそう言われ困っていたらしい。
しかし、その朝は熱のせいで見える幻覚の類だと思い、妻にもそう言って俺は仕事に行った。
※
それでもやはり気掛かりで仕事が捗らず、そして5日も苦しんでいる娘を救ってやりたくて、俺は顔見知りの自称霊能者に連絡を取った。
彼はその日の夜に来てくれて、娘の部屋を見るなり
「厄介な霊の気配がする」
と言い出し、やれ盛塩だ、やれ読経だと言い残し帰って行った。
※
そして、それから2日間。
俺は半信半疑ながらも妻と一緒に言われた事を全てやっていたが、効果は見られず、娘の熱は下がらないまま。
遂に精密検査を兼ねた入院措置を取る事となった。
しかし悪い所は見つからない。
そして、病院に来ても娘は
「怖いオバちゃんがいる」
と言い続け、俺も妻も精神的に参っていた。
病室で情けなくも頭を抱えながら、
『誰か何とかしてくれ…』
と心の中で泣きそうになりながら叫ぶ。
このまま娘は死んでしまうのかと不安で一杯だった。
※
しかしその2日後、娘の熱が嘘のように下がった。
そして娘は言った。
「昨日、太いお姉ちゃんが来て、オバちゃん連れて行った」
俺と妻は疑問に思いながらも娘の話をよく聞くと…。
何でも昨日の夕方頃、急に太った女が病室に現れ、横に居た怖いオバサンにボソボソ呟くと、半ば強引に連れて行ったらしい。
そしてすぐにもう一度現れて、
「もう大丈夫やで。辛かったな」
と娘の頬を撫で、病室を出て行った…という事だった。
それを聞いて、妻は
「どなたか分かりませんが、ありがとう」
と呟き、手を合わせ涙を流していた。
※
俺にはその太った女に心当たりがあった。
それは10年前、俺が19歳の時、23歳にして交通事故で亡くなった姉。
太った女と聞いて、もしかしたらと思い、娘に姉の特徴を言ってみたところ、大凡のところ姉に間違いなし。
物凄く気が強かった人だったため『半ば強引に連れて行った』というのも、何だか解る気がした。
俺はその後すぐに姉の眠る墓へ行き、姉に礼を言い、そして霊の存在を信じるようになった。
「しね!」が口癖の姉、知らない男と殴り合いの喧嘩をする姉、老人と動物以外には容赦ない姉、そして子供が死ぬほど嫌いな姉…。
そんな恐ろしい姉でも、姪は可愛かったんだな…。
姉ちゃん、マジでありがとう。
娘を苦しめていたオバサンはその後、姉にどうされたのだろうか…(((;゚Д゚)))