絵日記
公開日: 心霊ちょっと良い話
この前、夜遅くの深夜にハッっと起きてしまいました。
なんでいきなり起きちゃったんだろう…と思っていると、部屋の隅に何かの気配を感じました。
眼を凝らして見てみると、それは体育座りした男の子の霊でした。
いや、霊と言うか生きているけど死んでいる感じですね。
この子が生きているなら、鍵が掛けてある家の部屋に入って来られる訳がありません。
以前からラップ音らしきものが聞こえたりしていましたが、現物を見るのはこれが初めてです。
怯みつつも一応、
「何やってんだコラ!他人の家に勝手に入るなやぁ!!」
と叫んでみました。
ですが消えてくれません。
『このまま取り殺されるのか?』などと思いつつ、じっと布団の上から動かずにそいつを睨んでいました。
するとボソボソと何かを話し始めました。
よく聞こえないので、僕が
「何だよ? お前に呪い殺されるような事したか?」
と、取り敢えず意味の解らない言葉を言い放ちました。
すると子供が、
「違うよ。『起こしちゃってごめんなさい』って言ったんだよ、お兄ちゃん」
お兄ちゃんと言われました。ですがこの子のことは全く知りません。
そこで、寝たいし怖いので取り敢えずこう言いました。
「寝させてくれ、居るだけで悪寒がするんだ。その『悪寒』で起きちゃうからさ、出てってくれ」
そう言っても、一向に消えてくれそうな気配はありません。
時計を見ると何ともう午前3時…。
という事で、明日は休みという事もあり、朝まで見張ることにしました。
※
午前3時10分。
じっと見つめているうちに色々興味が湧いて来たので、質問してみることにしました。
「何でここにいるの?」
「僕ね、この近くに住んでたんだ」
「ふーん…で、何で俺の部屋なの?」
「ここの近くのはずだったけど…詳しくは覚えてない。
僕が死んだ時は意識が朦朧としてたし…遠くの病院だったんだ」
「なるほどね…。で、何で俺の部屋なの?」
「(無視)この近くのお家で、○○って知らない?」
「知らないよ…ご近所付き合いもあんまり盛んじゃないし」
「そう…僕ね、クラスで一番足が速かったんだ」
身の上話を始めた。
色々と聞き流していると、
「僕ね、死んじゃうまえに『絵日記』を書いて置いといたんだ。
病院の中で書いたから、お家にあるかどうかは分からないけど。
隠しといたから、多分まだ誰もこのことは知らない。
見つけて、おかあさんかおとうさんに届けてほしい。
僕の事が見えて、それで話してくれた人っていなかったから、お兄ちゃんだけ特別に隠し場所を教えてあげるよ。
あと、お家が何処にあるのか教えて。また来るから」
「来んな」
「駄目だよ…最後に僕のおとうさんとかおかあさんのお顔を見ておきたいもん」
「自分で探してくれよ…」
「絶対だよ」
と言った瞬間、消えてしまった。
※
取り敢えず頼まれたことは、
・絵日記を探して欲しい
・家が何処なのか思い出せないので、見つけてその場所を報告して欲しい
・絵日記を親父さんとお袋さんに届けて欲しい
の三つだった。
まず、一番簡単そうなので家を探した。ご近所中を回って。
意外とすぐ近くにあった。馬鹿ガキめ。
両親に会って、そのことを話したが当然信じる訳も無い。
そこで、あの子の亡くなった日にちと場所だけを教えてもらって去った。
※
病院に着き、絵日記について説明。
担当であった看護婦の人が出て来るも、
「知らない」
と首を振るばかり。
困り果てたので、今は空き部屋だという病室を取り敢えず探させてもらうことに。
言われた通りに隠し場所を探ると『2ねん3くみ○○○』と言う絵日記帳を見つけた。
看護婦の人たちも首を傾げていた。
内容を見てみると、最初は
『このびょうきはすぐに治るらしい、早くたいいんして○○君と○○(ゲーム)をしたい』
この通り希望に満ちていた。
だが後半は絵も無くなり、
『太ももがいたい。がまんすれば治るのかな?』
と、希望も薄れて行っていた。
死亡一週間前。
『痛い』
自分が泣いてしまっていたのが分かった。
あの元気な子が(幽霊だけど)ここまで…。
死亡原因は太ももの癌だったらしい。いわゆる小児癌。
看護婦さんも絵日記を見て大泣きしていた。
取り敢えずこれを両親に届けよう。そう思い再びあの子の家へ。
またその両親も泣きながらお礼を言ってくれた。
秘密の『絵日記』は見つけたので、あとは苦痛から逃れたあの子に自分の家を教えてやるだけだ。
※
一週間後、自分の家に来た。
「僕の家がどこだか判った?」
「ああ、そこの床屋さんの所を曲がって…(意外と長いので省略)」
「ありがとう!!」
そう言うとあの子は満面な笑みを浮かべ、自分の前から消えた。
これであの子も本当の苦痛から逃れられる…。
そういう意味も込め、居なくなっているのは分かっていたけど、最後に
「元気でな」
と言いました。
※
この話はこれで終わりです。
ラップ音も不思議と消え、今は普通に過ごしています。
思うにあのラップ音は、あの子が自分の家を探し回るために、自分のアパートの近くを動き回っていたために起こっていたのだろうと、今はそう思っています。