硫黄島の心霊体験

私が二年前、自衛隊基地の施設建設の為、硫黄島へ半年赴いた時の話。
数ヶ月も島に閉じ込められると、自然と顔見知りの隊員さんが出来る。
色々と話すうちに、よく硫黄島にまつわる心霊現象の話題になることがある。
隊員さんの話では、戦後から平成にかけて、硫黄島の心霊現象は壮絶なものだったらしい。
夜中に行進する兵隊などは当り前で、夜な夜な水を求めて徘徊する黒焦げの兵隊や、
窓の外に体の一部がない兵隊が恨めしそうに見ていたり、という現象が毎日起きていたそうだ。
恐らく彼らの中では戦争はまだ終わっていなかったのだろう。
しかし平成6年の 2月に天皇陛下が硫黄島を訪れた際、
慰霊碑に鎮魂と、日本を守る為に命を犠牲にして戦ってくれたことへの感謝の意を捧げると、
その日を境に幽霊がぴたりと出なくなった。
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ここからは、私が体験した話。
隊員さんから心霊現象の話を聞いた夜、自室で布団を頭まで被って寝ていると、誰かに揺すり起こされた。
寝ついたばかりで辛かったので無視して寝ようとしたら、今度は激しく体を揺すられた。
そして更には、
「おい!朝だぞ!!いい加減に起きろ!!!」
と怒鳴る声。
そんなはずはないと思いながらも薄目を開けると、確かに布団の隙間から朝日が漏れていた。
今日は全然寝た気がしないなあ、などと思いながら体を起こすと、恐怖で体が固まった。
まだ夜だった。
もう部屋も外も真っ暗で、普段は五月蠅い同僚のいびきも、虫の音も、風の音も聞こえない無音だった。
起きる瞬間まで体を揺すっていた者も居ない。
体中に鳥肌が立って、混乱と恐怖で頭の中がいっぱいになった。
するとドアの前に、暗闇よりも更にもう一段階、黒い人型のシルエットがあった。
私がその黒いシルエットに気付くと、そいつが一歩前に出て、
「何をしている!!さっさと支度をせんか!!!ばか者!!!」
と、はっきり聞こえる怒声がした。
私は気を失い、気が付いたら朝だった。
相部屋の同僚が心配そうに、
「かなり魘されていたけど、大丈夫? 顔色も青いし、体調悪いなら今日は休めば?」
と言う。
確かにふらふらするし体調が悪かったから、その日は一日、布団の中で過ごすことにした。
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布団の中で昨夜のことを思い返すと、怖いと言うより何だか切なくなった。
米兵、日本兵問わず、彼らの戦争はいつ終わるのだろう(硫黄島ではもちろん米兵の幽霊も目撃される)。
建設中に今だにあちこちから掘り起こされる人骨や遺品。
『このような状態では、大人しくなることはあっても成仏はしないな…』とか、
『今の私達は、彼らの命の上に立つ価値があるのか?』などと、色々考えさせられる。
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以上が私の硫黄島での体験談です。
他にも色々な現象がありましたが、これが最も印象深いエピソードでした。